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第一章
6 姉は社長秘書?
「確かに中華料理って言いましたけど………」
夕食を食べて行こうというので、ラーメンか餃子みたいなお手軽なものを、と思って中華料理がいいですと、返事をしたところまではよかった。
それなのに―――窓の外にはオフィスビルの灯りや地上の車のライトが夜の闇を照らして、幻想的な夜景が広がっていた。
「私の知ってる中華料理屋と違う……」
「ん?中華料理だろ?違ったか?」
「確かに中華料理屋ですけど。まさか高級ホテルの中華料理とは思いもよりませんでした……」
しかも、個室を貸し切り、のんびりできるようになっていた。
大きな海老のエビチリや点心、フカヒレスープが運ばれてきた。
「はー…ココナッツ団子美味しい。素人には作れない味ですね」
「酢豚の野菜もちゃんと食えよ」
「わかってますって!」
美味しいもの食べると、テンションあがるなあ。
「明日から、ちゃんと秘書として出勤しろよ」
「う…本当に私なんかが、秘書になるんですか」
「お前しかいなくなったからな。全員クビにしたのを忘れたか」
「そうですけど」
さすがにもう隠せないだろうから、凛々子に言わないと駄目だろうな…。
それが一番憂鬱なんだってば。
「あの、今言うのもあれなんですが」
牛肉の青椒肉絲を箸でつまみながら、言った。
「実は受付に双子の妹がいるんです」
「へぇ」
「それだけ!?なにか言うことないですか?」
「似たような顔がいたような?いないような…」
覚えてないようだった。
「別にいいんじゃないか?」
「そうなんですけど」
雅冬さんがまったく気にしていなかったので、それ以上なんて言えばいいか、わからなかった。
デザートの杏仁豆腐をスプーンですくいながら、どうしたものかと、思い悩んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「沖重グループの社長秘書!?」
「菜々子が?」
帰宅すると、両親に話をしたけれど、半信半疑で何度も聞き返された。
「どうしてそうなった?」
「社長からバイト中にスカウトされて」
嘘はついていない。
「秘書が全員、クビになったから、人手不足だっただけよ」
凛々子がイライラしながら言った。
「たまたま、その辺にいた菜々子に声をかけただけでしょ」
「なぜか、気に入られてしまって…」
説明しようとしたけれど、凛々子は聞く耳をもたなかった。
「私と間違えたのかしら?」
なぜそうなる!?
「そうかもねぇ」
「凛々子と間違えたのかもな。まあ、就職できてよかったじゃないか」
親まで!!
がっくりと肩を落とした。
「私のおかげね。よかったわね。菜々子」
凛々子は上から目線でそう言ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょ、ちょっと!家まで迎えがきたわよ!」
「ベンツじゃないか」
朝から、両親が大騒ぎをしていた。
スーツがなかったので、黒のプリーツスカートと白いシャツ、ジャケット、髪は適当に後ろに結んで出ると、凛々子が指をさして笑った。
「ちょっと、なんなのその服!スーツくらい着なさいよ!」
「持ってないし」
突然のことだったから、買うヒマもなかった。
「社長は雑用係を雇っただけなのかもね」
凛々子にバカにされながら、外に出ると、いつもの運転手さんが車のドアを開けてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日から、秘書の仕事、がんばってくださいね。雅冬様が朝から張り切って準備されてましたよ」
運転手さんは笑いをこらえながら、言った。
遠足の子供か。
いったい、なにをしていたんだろう。
「逃げたら、困るから迎えにきたぞ」
「おかげで家は大騒ぎでしたよ」
しかも、朝早いし。
「社長。おはようございますー!」
凛々子がひょいっと、顔を出した。
「受付の真嶋凛々子です。こんな姉ですみません。メイクはしないし、スーツも着ないで。非常識ですよね。今までバイトしかしたことないから、きちんとした格好もできなくて恥ずかしいです」
雅冬さんはこっちを見る。
「悪い。そうだよな。気づかなかった」
「え?」
「スーツと化粧、靴とバッグもか。必要なものを揃えるぞ」
「かしこまりました」
運転手さんは凛々子を遮り、ドアを閉め、運転席に座った。
まだ開店前の店に行き、店の人が揃えてくれたものを持ち、美容院に行った。
髪やコーディネートしてくれたあげく、コーディネートの仕方やメイクまで教えてくれた。
「どこからどうみても外見だけは秘書みたいになりましたね」
メイクはナチュラルメイクで、そんな時間をかけなくても、不器用な私でもできそうだった。
よかった。
「秘書だろ」
「そうですね」
すでに一仕事終えた気分だった。
会社に着くと、受付の凛々子が驚いた顔でこっちを見ていた。
凛々子だけじゃない。
社員達の視線が痛い。
雅冬さんは一瞥もしないで、さっさとエレベーターに乗った。
秘書室のお嬢様達を追い出した悪女と思われているんだろうな。
それは憂鬱だったけれど、仕事をしている雅冬さんを見るのは嫌じゃなかった。
いつものふざけた態度じゃなくて、真剣な顔をしているのは正直、かっこよかった。
電話は英語で話しているし。
姿勢や仕草も洗練され、そこだけドラマの世界みたいだった。
これは確かにモテモテにもなるよ。
それに比べ、私は雑用係の域ですよ。
ふう、とため息をつきながら、ホッチキスをぱちんと鳴らしたのだった。
夕食を食べて行こうというので、ラーメンか餃子みたいなお手軽なものを、と思って中華料理がいいですと、返事をしたところまではよかった。
それなのに―――窓の外にはオフィスビルの灯りや地上の車のライトが夜の闇を照らして、幻想的な夜景が広がっていた。
「私の知ってる中華料理屋と違う……」
「ん?中華料理だろ?違ったか?」
「確かに中華料理屋ですけど。まさか高級ホテルの中華料理とは思いもよりませんでした……」
しかも、個室を貸し切り、のんびりできるようになっていた。
大きな海老のエビチリや点心、フカヒレスープが運ばれてきた。
「はー…ココナッツ団子美味しい。素人には作れない味ですね」
「酢豚の野菜もちゃんと食えよ」
「わかってますって!」
美味しいもの食べると、テンションあがるなあ。
「明日から、ちゃんと秘書として出勤しろよ」
「う…本当に私なんかが、秘書になるんですか」
「お前しかいなくなったからな。全員クビにしたのを忘れたか」
「そうですけど」
さすがにもう隠せないだろうから、凛々子に言わないと駄目だろうな…。
それが一番憂鬱なんだってば。
「あの、今言うのもあれなんですが」
牛肉の青椒肉絲を箸でつまみながら、言った。
「実は受付に双子の妹がいるんです」
「へぇ」
「それだけ!?なにか言うことないですか?」
「似たような顔がいたような?いないような…」
覚えてないようだった。
「別にいいんじゃないか?」
「そうなんですけど」
雅冬さんがまったく気にしていなかったので、それ以上なんて言えばいいか、わからなかった。
デザートの杏仁豆腐をスプーンですくいながら、どうしたものかと、思い悩んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「沖重グループの社長秘書!?」
「菜々子が?」
帰宅すると、両親に話をしたけれど、半信半疑で何度も聞き返された。
「どうしてそうなった?」
「社長からバイト中にスカウトされて」
嘘はついていない。
「秘書が全員、クビになったから、人手不足だっただけよ」
凛々子がイライラしながら言った。
「たまたま、その辺にいた菜々子に声をかけただけでしょ」
「なぜか、気に入られてしまって…」
説明しようとしたけれど、凛々子は聞く耳をもたなかった。
「私と間違えたのかしら?」
なぜそうなる!?
「そうかもねぇ」
「凛々子と間違えたのかもな。まあ、就職できてよかったじゃないか」
親まで!!
がっくりと肩を落とした。
「私のおかげね。よかったわね。菜々子」
凛々子は上から目線でそう言ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょ、ちょっと!家まで迎えがきたわよ!」
「ベンツじゃないか」
朝から、両親が大騒ぎをしていた。
スーツがなかったので、黒のプリーツスカートと白いシャツ、ジャケット、髪は適当に後ろに結んで出ると、凛々子が指をさして笑った。
「ちょっと、なんなのその服!スーツくらい着なさいよ!」
「持ってないし」
突然のことだったから、買うヒマもなかった。
「社長は雑用係を雇っただけなのかもね」
凛々子にバカにされながら、外に出ると、いつもの運転手さんが車のドアを開けてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日から、秘書の仕事、がんばってくださいね。雅冬様が朝から張り切って準備されてましたよ」
運転手さんは笑いをこらえながら、言った。
遠足の子供か。
いったい、なにをしていたんだろう。
「逃げたら、困るから迎えにきたぞ」
「おかげで家は大騒ぎでしたよ」
しかも、朝早いし。
「社長。おはようございますー!」
凛々子がひょいっと、顔を出した。
「受付の真嶋凛々子です。こんな姉ですみません。メイクはしないし、スーツも着ないで。非常識ですよね。今までバイトしかしたことないから、きちんとした格好もできなくて恥ずかしいです」
雅冬さんはこっちを見る。
「悪い。そうだよな。気づかなかった」
「え?」
「スーツと化粧、靴とバッグもか。必要なものを揃えるぞ」
「かしこまりました」
運転手さんは凛々子を遮り、ドアを閉め、運転席に座った。
まだ開店前の店に行き、店の人が揃えてくれたものを持ち、美容院に行った。
髪やコーディネートしてくれたあげく、コーディネートの仕方やメイクまで教えてくれた。
「どこからどうみても外見だけは秘書みたいになりましたね」
メイクはナチュラルメイクで、そんな時間をかけなくても、不器用な私でもできそうだった。
よかった。
「秘書だろ」
「そうですね」
すでに一仕事終えた気分だった。
会社に着くと、受付の凛々子が驚いた顔でこっちを見ていた。
凛々子だけじゃない。
社員達の視線が痛い。
雅冬さんは一瞥もしないで、さっさとエレベーターに乗った。
秘書室のお嬢様達を追い出した悪女と思われているんだろうな。
それは憂鬱だったけれど、仕事をしている雅冬さんを見るのは嫌じゃなかった。
いつものふざけた態度じゃなくて、真剣な顔をしているのは正直、かっこよかった。
電話は英語で話しているし。
姿勢や仕草も洗練され、そこだけドラマの世界みたいだった。
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