6 / 41
第一章
6 姉は社長秘書?
しおりを挟む
「確かに中華料理って言いましたけど………」
夕食を食べて行こうというので、ラーメンか餃子みたいなお手軽なものを、と思って中華料理がいいですと、返事をしたところまではよかった。
それなのに―――窓の外にはオフィスビルの灯りや地上の車のライトが夜の闇を照らして、幻想的な夜景が広がっていた。
「私の知ってる中華料理屋と違う……」
「ん?中華料理だろ?違ったか?」
「確かに中華料理屋ですけど。まさか高級ホテルの中華料理とは思いもよりませんでした……」
しかも、個室を貸し切り、のんびりできるようになっていた。
大きな海老のエビチリや点心、フカヒレスープが運ばれてきた。
「はー…ココナッツ団子美味しい。素人には作れない味ですね」
「酢豚の野菜もちゃんと食えよ」
「わかってますって!」
美味しいもの食べると、テンションあがるなあ。
「明日から、ちゃんと秘書として出勤しろよ」
「う…本当に私なんかが、秘書になるんですか」
「お前しかいなくなったからな。全員クビにしたのを忘れたか」
「そうですけど」
さすがにもう隠せないだろうから、凛々子に言わないと駄目だろうな…。
それが一番憂鬱なんだってば。
「あの、今言うのもあれなんですが」
牛肉の青椒肉絲を箸でつまみながら、言った。
「実は受付に双子の妹がいるんです」
「へぇ」
「それだけ!?なにか言うことないですか?」
「似たような顔がいたような?いないような…」
覚えてないようだった。
「別にいいんじゃないか?」
「そうなんですけど」
雅冬さんがまったく気にしていなかったので、それ以上なんて言えばいいか、わからなかった。
デザートの杏仁豆腐をスプーンですくいながら、どうしたものかと、思い悩んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「沖重グループの社長秘書!?」
「菜々子が?」
帰宅すると、両親に話をしたけれど、半信半疑で何度も聞き返された。
「どうしてそうなった?」
「社長からバイト中にスカウトされて」
嘘はついていない。
「秘書が全員、クビになったから、人手不足だっただけよ」
凛々子がイライラしながら言った。
「たまたま、その辺にいた菜々子に声をかけただけでしょ」
「なぜか、気に入られてしまって…」
説明しようとしたけれど、凛々子は聞く耳をもたなかった。
「私と間違えたのかしら?」
なぜそうなる!?
「そうかもねぇ」
「凛々子と間違えたのかもな。まあ、就職できてよかったじゃないか」
親まで!!
がっくりと肩を落とした。
「私のおかげね。よかったわね。菜々子」
凛々子は上から目線でそう言ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょ、ちょっと!家まで迎えがきたわよ!」
「ベンツじゃないか」
朝から、両親が大騒ぎをしていた。
スーツがなかったので、黒のプリーツスカートと白いシャツ、ジャケット、髪は適当に後ろに結んで出ると、凛々子が指をさして笑った。
「ちょっと、なんなのその服!スーツくらい着なさいよ!」
「持ってないし」
突然のことだったから、買うヒマもなかった。
「社長は雑用係を雇っただけなのかもね」
凛々子にバカにされながら、外に出ると、いつもの運転手さんが車のドアを開けてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日から、秘書の仕事、がんばってくださいね。雅冬様が朝から張り切って準備されてましたよ」
運転手さんは笑いをこらえながら、言った。
遠足の子供か。
いったい、なにをしていたんだろう。
「逃げたら、困るから迎えにきたぞ」
「おかげで家は大騒ぎでしたよ」
しかも、朝早いし。
「社長。おはようございますー!」
凛々子がひょいっと、顔を出した。
「受付の真嶋凛々子です。こんな姉ですみません。メイクはしないし、スーツも着ないで。非常識ですよね。今までバイトしかしたことないから、きちんとした格好もできなくて恥ずかしいです」
雅冬さんはこっちを見る。
「悪い。そうだよな。気づかなかった」
「え?」
「スーツと化粧、靴とバッグもか。必要なものを揃えるぞ」
「かしこまりました」
運転手さんは凛々子を遮り、ドアを閉め、運転席に座った。
まだ開店前の店に行き、店の人が揃えてくれたものを持ち、美容院に行った。
髪やコーディネートしてくれたあげく、コーディネートの仕方やメイクまで教えてくれた。
「どこからどうみても外見だけは秘書みたいになりましたね」
メイクはナチュラルメイクで、そんな時間をかけなくても、不器用な私でもできそうだった。
よかった。
「秘書だろ」
「そうですね」
すでに一仕事終えた気分だった。
会社に着くと、受付の凛々子が驚いた顔でこっちを見ていた。
凛々子だけじゃない。
社員達の視線が痛い。
雅冬さんは一瞥もしないで、さっさとエレベーターに乗った。
秘書室のお嬢様達を追い出した悪女と思われているんだろうな。
それは憂鬱だったけれど、仕事をしている雅冬さんを見るのは嫌じゃなかった。
いつものふざけた態度じゃなくて、真剣な顔をしているのは正直、かっこよかった。
電話は英語で話しているし。
姿勢や仕草も洗練され、そこだけドラマの世界みたいだった。
これは確かにモテモテにもなるよ。
それに比べ、私は雑用係の域ですよ。
ふう、とため息をつきながら、ホッチキスをぱちんと鳴らしたのだった。
夕食を食べて行こうというので、ラーメンか餃子みたいなお手軽なものを、と思って中華料理がいいですと、返事をしたところまではよかった。
それなのに―――窓の外にはオフィスビルの灯りや地上の車のライトが夜の闇を照らして、幻想的な夜景が広がっていた。
「私の知ってる中華料理屋と違う……」
「ん?中華料理だろ?違ったか?」
「確かに中華料理屋ですけど。まさか高級ホテルの中華料理とは思いもよりませんでした……」
しかも、個室を貸し切り、のんびりできるようになっていた。
大きな海老のエビチリや点心、フカヒレスープが運ばれてきた。
「はー…ココナッツ団子美味しい。素人には作れない味ですね」
「酢豚の野菜もちゃんと食えよ」
「わかってますって!」
美味しいもの食べると、テンションあがるなあ。
「明日から、ちゃんと秘書として出勤しろよ」
「う…本当に私なんかが、秘書になるんですか」
「お前しかいなくなったからな。全員クビにしたのを忘れたか」
「そうですけど」
さすがにもう隠せないだろうから、凛々子に言わないと駄目だろうな…。
それが一番憂鬱なんだってば。
「あの、今言うのもあれなんですが」
牛肉の青椒肉絲を箸でつまみながら、言った。
「実は受付に双子の妹がいるんです」
「へぇ」
「それだけ!?なにか言うことないですか?」
「似たような顔がいたような?いないような…」
覚えてないようだった。
「別にいいんじゃないか?」
「そうなんですけど」
雅冬さんがまったく気にしていなかったので、それ以上なんて言えばいいか、わからなかった。
デザートの杏仁豆腐をスプーンですくいながら、どうしたものかと、思い悩んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「沖重グループの社長秘書!?」
「菜々子が?」
帰宅すると、両親に話をしたけれど、半信半疑で何度も聞き返された。
「どうしてそうなった?」
「社長からバイト中にスカウトされて」
嘘はついていない。
「秘書が全員、クビになったから、人手不足だっただけよ」
凛々子がイライラしながら言った。
「たまたま、その辺にいた菜々子に声をかけただけでしょ」
「なぜか、気に入られてしまって…」
説明しようとしたけれど、凛々子は聞く耳をもたなかった。
「私と間違えたのかしら?」
なぜそうなる!?
「そうかもねぇ」
「凛々子と間違えたのかもな。まあ、就職できてよかったじゃないか」
親まで!!
がっくりと肩を落とした。
「私のおかげね。よかったわね。菜々子」
凛々子は上から目線でそう言ったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちょ、ちょっと!家まで迎えがきたわよ!」
「ベンツじゃないか」
朝から、両親が大騒ぎをしていた。
スーツがなかったので、黒のプリーツスカートと白いシャツ、ジャケット、髪は適当に後ろに結んで出ると、凛々子が指をさして笑った。
「ちょっと、なんなのその服!スーツくらい着なさいよ!」
「持ってないし」
突然のことだったから、買うヒマもなかった。
「社長は雑用係を雇っただけなのかもね」
凛々子にバカにされながら、外に出ると、いつもの運転手さんが車のドアを開けてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日から、秘書の仕事、がんばってくださいね。雅冬様が朝から張り切って準備されてましたよ」
運転手さんは笑いをこらえながら、言った。
遠足の子供か。
いったい、なにをしていたんだろう。
「逃げたら、困るから迎えにきたぞ」
「おかげで家は大騒ぎでしたよ」
しかも、朝早いし。
「社長。おはようございますー!」
凛々子がひょいっと、顔を出した。
「受付の真嶋凛々子です。こんな姉ですみません。メイクはしないし、スーツも着ないで。非常識ですよね。今までバイトしかしたことないから、きちんとした格好もできなくて恥ずかしいです」
雅冬さんはこっちを見る。
「悪い。そうだよな。気づかなかった」
「え?」
「スーツと化粧、靴とバッグもか。必要なものを揃えるぞ」
「かしこまりました」
運転手さんは凛々子を遮り、ドアを閉め、運転席に座った。
まだ開店前の店に行き、店の人が揃えてくれたものを持ち、美容院に行った。
髪やコーディネートしてくれたあげく、コーディネートの仕方やメイクまで教えてくれた。
「どこからどうみても外見だけは秘書みたいになりましたね」
メイクはナチュラルメイクで、そんな時間をかけなくても、不器用な私でもできそうだった。
よかった。
「秘書だろ」
「そうですね」
すでに一仕事終えた気分だった。
会社に着くと、受付の凛々子が驚いた顔でこっちを見ていた。
凛々子だけじゃない。
社員達の視線が痛い。
雅冬さんは一瞥もしないで、さっさとエレベーターに乗った。
秘書室のお嬢様達を追い出した悪女と思われているんだろうな。
それは憂鬱だったけれど、仕事をしている雅冬さんを見るのは嫌じゃなかった。
いつものふざけた態度じゃなくて、真剣な顔をしているのは正直、かっこよかった。
電話は英語で話しているし。
姿勢や仕草も洗練され、そこだけドラマの世界みたいだった。
これは確かにモテモテにもなるよ。
それに比べ、私は雑用係の域ですよ。
ふう、とため息をつきながら、ホッチキスをぱちんと鳴らしたのだった。
79
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる