御曹司社長は恋人を溺愛したい!【宮ノ入シリーズ③】

椿蛍

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第一章

9 両親達

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目が覚めると、隣に雅冬まさとさんがいた。
「……ん、菜々子ななこ。起きたのか」
眠そうに体を起こし、抱き寄せると、何度もキスをした。
名残り惜しそうに顎を肩の上に置き、なかなか離してくれなかった。
「あの……明日仕事ですよ」
「……わかっている」
不機嫌そうに返事をした。
まったく、変なところで子供っぽい。
「家まで送る」
車のキーを手にして、言った。
「ありがとうございます」
時計を見るともう電車がなかったので、ありがたく、その申し出を受けた。
「運転できたんですね」
地下駐車場には高級な車がずらりと並んでいた。
「まあな」
得意顔で頷いた。
スーツではなく、ラフな格好をしているの見るのも悪くない。
家に着くと、腕を掴み雅冬まさとさんは言った。
「一緒に暮らさないか。ちゃんと親にも挨拶するから。考えておいてくれ」
雅冬さんと一緒に暮らす―――その夢みたいな話に驚き、何も言えずにいると笑っていた。
「また朝にな」
夢心地でぼうっとしたまま、車を見送っていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


朝になり、支度をしていると、凛々子りりこが顔を出した。
メイクは元に戻っていた。
菜々子ななこ。私ね。社長のお母様と話をしたのよ。そしたら、私のこと、気に入ってくださって。偶然にも社長のお母様と同じ大学を卒業した縁でね?」
「そうなの」
適当に返事をした。
恋愛スキルの低い私の頭の中は昨日のことでいっぱいで、凛々子の言っている言葉を思考する余裕がなかった。
「姉は高卒なんですっていったら、すっごく嫌そうな顔をしてたわよ」
そんな言葉に怒りすら沸かなかった。
凛々子の顔を冷静に見つめて言った。
「凛々子はどうして私の好きな人や好きになってくれた人に興味を持つの?」
「別にいいじゃない」
「よくない」
「なんなの?菜々子は本気なわけ?」
「そうよ」
「へえー。珍しいわね。いつもはあっさり諦めるのにね」
そう。
私は諦めるのが上手だった。
揉めるくらいなら、自分が我慢すれば、いいと思っていた。
でも、雅冬さんだけは諦めることが、出来なかった。
玄関の前に車の音がした。
「じゃあ、行くね」
不思議と心が安定していて、何を言われても大丈夫だと思えた。
顔色一つ変えず、す、と凛々子の横を通り、家を出た。
一瞬だけ見えた凛々子は泣きそうな顔をして、にらんでいた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


雅冬さんは一日中、にこやかだった。
目があうたび、にっこりほほ笑んできた。
そのたびに心臓が跳ねて、思わず、顔を伏せた。
この破壊力を自分で理解してるのか、どうか……。
なんて恐ろしい。
「菜々子。今から会議だから、先に帰れよ。会議が終わったら、電話するからな」
電話?なんの電話だろう。
「どうして電話を?」
「お前っ!挨拶するからって言っただろ?お前の親の予定を聞くんだよ」
「あ、あー。そうでしたね。考えておけっていうから、てっきり」
「なんだ?断るつもりだったか」  
「いいえ」
一瞬、雅冬さんは顔を赤らめ、慌てて、顔を背けた。
「会議だから行く」
「は、はい」
何を照れてるの!?
こっちが恥ずかしいわ!
雅冬さんがいなくなり、社長室の鍵をかけた。
さて。私は帰ろう。
秘書室をでると、雅冬さんの母である聖子せいこさんと中年の男の人が待ち構えていた。
ぎくりと体を強ばらせた。
「あの。社長は会議で」
「知っているわ。雅冬のいないところで、お話がしたかったのよ」
「君が雅冬と付き合っている女性か」 
首を縦に振った。
「マンションにも出入りしているようだな」
「私達も別の階いるけれど、あなたのような方に簡単に出入りされたくないわ」
「えっ…」
「言っている意味がわかるわよね?」
「雅冬は一人息子で大切に育ててきた。申しわなけないが、高卒アルバイトの君が相応しいとは思えない。君は雅冬に何をしてやれるんだね」
ぎゅ、と服を握りしめた。
「あの!私が雅冬さんと一緒にいるのって、そんな悪いことですか?一緒にいるときの雅冬さんは笑ってますし、楽しそうにしてますよ。それでよくないですか!?」
「あいつの一時的な感情など、大した問題ではない。ほら、これに好きな金額を書きなさい」
小切手の紙を見せた。
手切れ金のつもり!?
それを奪い取り、ビリビリに破いてやった。
「感情なんかいらないなら、ロボットとでも、暮らしていればいいでしょ!」
そう言い捨てて、ダッシュでエレベーターに乗った。
追ってこれないように。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


逃げるようにして、家に帰ると、両親に呼ばれた。
疲れていたけれど、しかたない。
ふらふらとしながら、リビングに入ると凛々子もいた。
「話がある」
「座りなさい」
両親は険しい顔をしていて、その話がいい話でないことはわかった。
「なに?」
「菜々子。社長さんと付き合っているらしいな」
「結婚前提だそうね」
深刻そうな顔で親は言った。
「今日、宮ノ入みやのいりグループの常務と奥さまがいらしたのよ」
家にまで!?
驚いて声が出なかった。
「ご両親はな。菜々子じゃなく、大学を卒業した凛々子なら結婚を認めてもいいと言ってくださった」
「息子さんも気に入っていることだし、ただ別れさせるのもかわいそうだから、顔が同じ凛々子ならって」
「な、なにを言ってるの?」
母はそっと私の手を握った。
「だからね、菜々子。凛々子も社長さんとなら結婚してもいいと言っているのよ。あなたが諦めれば、みんなが幸せになるの」
ばっとその手を振りほどいた。
「そんなの、納得できるわけがないでしょ!」
「あーあ。菜々子のせいでみんな不幸になるわね」
凛々子が笑って言った。
「もっと物わかりのいい子かと思っていたのに」
「菜々子、もう一度聞く。諦めて、凛々子と付き合うよう、社長さんに言えるよな?」
言うわけがない。
「嫌です!何考えているの?そんなの、おかしいでしょ!?」
「なんだと!」
「せっかくのいいお話なのに!」
「お前みたいな娘は家から出て行け!」
父には怒鳴られ、母は冷たい視線を私に送っていた。
たっと部屋に行くと、キャリーケースに貴重品と服を入れた。
誰も止めなかった。
むしろ、出て行ってほしいと言わんばかりの態度だった。
「なんて冷たい娘なの!二度と家に帰ってこないでちょうだい!」
「帰りません」
震える声でそう答えた。
親は荷物を持って出て行く娘に優しい言葉をかけることはなかった―――

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