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第一章
20 奥様達の『撫子の宮会』
しおりを挟む日曜日午後、場所はマンションにあるパーティールームを貸し切って『撫子の宮会』は開催された。
服は無難なスーツで、パールのネックレスとイヤリングをつけた。
中に入るとホテルのエントランスに置いてありそうな高そうなソファーとテーブル、台座には豪華な花が生けられ、ケーキスタンドにはマカロンやチョコレート、マドレーヌやフィナンシェ、一口サイズのイチゴのケーキやチョコレートケーキ、ピスタチオムースのケーキ、フルーツタルトがのせられていた。
こんな場じゃなかったら、小躍りして食べまくっていたに違いない。
「お招きありがとうございます」
すでに奥様達は揃っていて、私が最後というより、時間をずらされていたようだった。
「皆様、こちら雅冬が選んだ女性で菜々子さんとおっしゃるの」
イタリアに売っていそうな色鮮やかな柄物ワンピースを着た聖子さんが冷ややかな目で私を見つめ、紹介した。
「よろしくお願い致します」
「雅冬さんがお選びになったなら、さぞかし優秀な方でしょうね。大学はどちらに?」
「あ、はい。国立大に通っていましたが、春には復学することが決まりまして」
「えっ」
聖子さんが目を見開いた。
「あのっ!学費は私が今まで働いて貯めたお金から出します!雅冬さんにはご迷惑かけないようにするつもりです」
「い、いいのよ。そう私大じゃないの」
妹の凛々子が通っていたのは聖子さんと同じお嬢様が通うような女子大学だった。
その女子大学は学費がバカ高いけれど、凛々子が憧れていたことも知っていたし、私の学費なら、バイトすれば貯めれると思っていたから、譲ったのだ。
けれど、生活費を入れなくてはならないことまでは計算外だったので、思いのほか時間がかかってしまった。
「はい。卒業したら、雅冬さんの仕事のお手伝いができるよう、大学に通いながら、英会話も学ぼうかと思っています」
「まあ、優秀ですね」
「聖子さんから、お聞きしていたのと随分違いますわね」
「しっかりされていてますこと」
チラチラと奥様達は聖子さんを見た。
「雅冬に何を食べさせているのかしら?口に合うか心配だわ」
「そうですね。雅冬さんは健康志向なので、ご飯は時々、五穀米にしてみたり、玄米も出すと喜ばれますね。おかずは一汁二菜にして、フルーツをつけたりしています」
野菜嫌いな私に野菜を食べさせようと口うるさく言っていた結果こうなったんだけどね。
きっと私の健康を考えているからなのだろうけど。
ちょっとそこは伏せて置いた。
「お若いのに偉いわね」
上品な年配の女性がにっこりと微笑んだ。
紺のスーツに胸元にはすずらんのブローチ、スカーフを首に巻いていた。
地味にみえるけど、一つ一つの品がいいものだということはわかった。
「いえ。私が雅冬さんに出来ることってこれくらいで」
「本当ね。育ちはただの一般家庭だし、教養もおありじゃないものねぇ」
確かにお茶やお花はできないけど。
そんな言い方しなくても。
「いつでも、雅冬と別れていいのよ。雅冬には素敵なお嬢さんを探しますからね」
「おやめなさいな。聖子さん」
ぴしゃりと強い口調で、その年配の女性は言った。
「雅冬さんが選んだ女性なら、間違いないでしょう」
「貴子様」
「副社長夫人の貴子様をひさしぶりに拝見したわ」
「まさか、聖子さん、貴子様になにか意見されるおつもりかしら」
ざわざわと奥様達が騒ぎ出した。
貴子様と呼ばれたおばあちゃんはゆっくりと周囲を見渡した。
「皆さん、お静かになさって。副社長を務める夫も私も歳です。夫は副社長の座から、近く退くでしょう。退いた後は孫にマンションの部屋を譲って、夫とカナダで暮らすつもり。最後に雅冬さんの選んだ女性にお会いしたいと思ってきたの」
私に!?
「雅冬さんは優しい子で、孫のように思っているの。どうか、よろしくね」
そっと貴子様は手を握りしめた。
「はっ、はい!雅冬さんを幸せにできるよう頑張ります!」
「頼もしいこと」
背筋がしゃんと伸び、話す声にも威厳があった。
「貴子様は会長の弟である副社長の奥様なんですよ」
「気性の激しい会長を宥めて、社員やご不興を買った人達を助けてこられたの。だから、副社長夫妻には皆、逆らえないわ」
何もわからない私に誰かが、耳打ちしてくれた。
「聖子さん。いつまでも子供の世話を焼いていないで、海外赴任に着いていってはどうかしら。ここにいるよりは、あなたにとってもよろしいでしょう」
「貴子様っ」
「あなたが誰よりも宮ノ入を立派にしようと考えていたことはわかっていますよ。けれど、やり過ぎてしまったわね」
にっこりと貴子様は微笑みを浮かべていた。
もう聖子さんは私を見ておらず、ただ俯き、項垂れていた。
まるで、叱られてしまった子供のように。
「失礼します」
「雅冬さん!」
ざわ、と奥様達が一斉に雅冬さんを見た。
「どうもご無沙汰してます。妻を迎えに来ました」
来てから、まだ一時間も経っていない。
ちょっと早すぎじゃないですかね……。
雅冬さんを見て、貴子様は笑った。
「あらまあ。雅冬さん、奥様が心配でこられたの」
「ええ。そうです。じっとしてられず、きてしまいました」
真剣な顔で、きっぱり言い切った雅冬さんに奥様達から、笑い声が起きた。
「変わるものねぇ」
「貴子おばさまは変わらず、お若いですね。カナダに移住されると副社長からお聞きしましたよ。寂しくなりますね」
「まあ、お上手ですこと。瑞生さんも雅冬さんくらい社交的ならね」
「瑞生の足りない部分は直真が補いますから」
軽やかに雅冬さんは話し、慣れた様子で奥様達に声をかけ、私を紹介して回った。
一通り、紹介し終わると、場はもう和やかな雰囲気で皆はお茶を楽しむことができた。
すごいな、と思って微笑んで雅冬さんを見ると、にこ、と笑い返してきた。
この素直な笑顔の破壊力ときたら。
ただ、雅冬さんは聖子さんとだけは目も合わさず、口も利かなかったのだった―――
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