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sleeping beauty(菜湖編)
眠れる君は。(達貴)
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ベッドで幸せそうに眠る彼女はまるでおとぎ話の眠り姫のようだった。
黒く長い髪が広がり、白い肌に赤い唇。
時間を忘れて眺めていると、時間ごとに音楽が鳴るクリスマス仕様の時計が軽やかなクリスマス曲を演奏し始め、我に返った。
チャイコフスキーの四季の中にあるクリスマスと題されたもの。
人形達がくるくると踊り、時を告げる。
ちょうど演奏が終わる頃に彼女は目を覚ました。
まるで、その曲が目覚めの曲だったんじゃないかと思うほどタイミングよく―――
長い髪がさらりと動いた。
こっちを見て息をのみ、そして跳ね起きた。
「あ……、あの、す、すみませっ……すみません!」
顔を赤くして、一生懸命謝る姿からはさっきのお姫様のような雰囲気はなかった。
けれど、不思議とそっちのほうがホッとした。
ちゃんと生きていると思えて。
「いいえ、こちらこそ。居心地よすぎたみたいだね」
「そ、そんなことはっ!」
大失敗をしたというようにうつむき、顔は真っ赤だった。
どうぞと手を差し伸べると、彼女は手を取り、ベッドから立ち上がった。
また来て欲しくて君のためにこのスペースは常に心地よい眠りを誘うような場所にしようと決めた。
『ぜひ、またどうぞ』
なんて、俺は言うと彼女は小さくうなずいた。
それが彼女と俺の出会い―――運命かな?
「運命だ」
「社長。運命も口に出さないと何も動きませんよ」
「いい加減に告白したらいいじゃないですか」
「まわりくどく妹さんにいろいろ情報収集している場合ですか?」
「美人さんですから、すぐに彼氏できちゃうんじゃないかなぁ」
血も涙もない『TOGAWA』の店員達。
「告白ってどうしたらいいのか……」
彼女が好きそうなクッションカバーを選びながら、言うと店員から鋭い指摘が飛ぶ。
「これだから、今までモテてきた男は困るんですよね。どうやって気持ちを伝えたらいいのかなって普通に好きですって言ってくればいいでしょ」
パートさんにまで言われる始末。
とても辛口だ。
だいたいモテたと周りから言われるけど、あまり自覚はない。
確かに女性が多いなとは思っていたけど、親の意向で留学したり、勉強のため海外の家具作りを見て回ったりしていたせいで、特定の誰かと付き合ったことはない。
「社長はお坊っちゃんですからね」
「それと、あれですよ。好きな子に冷たくされたら立ち直れないタイプ」
好き放題言われている。
今日も仕事帰りに彼女はやってきた。
雑貨が好きらしく、輸入雑貨を興味深そうに眺めている。
『それは自分が仕入れた雑貨です』
『気に入っていただけてうれしいです』
―――と本当は言いたかった。
自分が買い付けた雑貨を好んで見てくれている姿を遠巻きに眺めた。
まるで自分が彼女に気に入られたみたいで嬉しい。
正直、いろいろと雑貨についてうんちくを言いたい気持ちは山ほどある。
でも、だからなんだとか言われたらどうしようと思ってしまい、ちらちらと彼女が手に取るものを遠くから見ていた。
そして、手に取った桜色のガラスの皿。
神様が俺にくれたチャンスだと思った。
よし!
それはガラス作家の作品!
説明のチャンスだ!
「がんばってください!社長!」
「ファイトです!社長」
外野がすごくうるさい。
俺が話しかけにくいのも君たちのせいじゃないかなって思わなくもないよ?
店員たちを無視して、さりげなく、あくまで自然に彼女に近づいた。
「それ、新しく入荷したばかりの皿なんですよ」
勇気を出して話しかけた。
さらりとしたストレートの黒髪、ふんわりと甘い花のような香り。
美人で長い手足がモデルのようだった。
彼女は話しかけられて、少し戸惑っていた。
迷惑だったかもしれないと思ったけど、声をかけてしまったのだから、もう遅い。
「さすが常連さん。よくわかりましたね」
「そ、そんなこと……ないです。素敵な皿ですね」
やっぱり気に入ってくれていたようだった。
とても熱心に見ていたから、その皿がほしいのだろうなと思った。
百枚でも二百枚でも!と言いたいところだけど、その皿は特別な皿だ。
「新人で無名のガラス工芸家から直接買い付けたものなんですよ。だから、数点しか置いてない」
たまたま旅行に行った先でみつけた島の工芸家が製作したガラスの作品で、気に入って何点か買い付けてしまったものだ。
「ガラスの器は好きで、つい無名でも買い付けてしまうから」
「あ、あの、その、小皿買います」
「ありがとうございます」
この桜色のガラスの皿は四枚だけ。
彼女が欲しいのは一枚じゃないことはわかっていた。
ランチョンマットを以前、四枚買っていったから家族が四人だということもなんとなく察していた。
四枚、手に取ることはできなかった。
この商品を一度に買ってしまえば、彼女はしばらく店に訪れないかもしれない。
一枚だけ手にした。
彼女はなにか言いかけて口をつぐむ。
「包装しますね」
手早く包装すると彼女はうなずいた。
きっと彼女はまた来てくれる。
もっと親しくなったら、カフェ『音の葉』のディナータイムに誘ってみよう。
テラス席にはお客同士の中でひそかに囁かれているジンクスがある。
ディナータイムのテラス席に座ったカップルは結婚できるというジンクスが!
「ありがとうございました」
彼女に商品を渡すと、にっこり微笑んでくれた。
そして、店をあとにする彼女。
「社長!とうとう話しかけることができましたね!」
「しかも、皿を一枚だけ買わせたところまで見てましたよ、しっかりとね!」
「あと、残り三枚!他のお客に買われないように全力で我々店員が見張ります!」
それ、ずっと売れ残らないよな?
大丈夫だよな?
感謝していいのか悪いのか、俺の恋は全員から全力で応援されていた―――
複雑な気持ちで『うん、ありがとう』とみんなに答えたのだった。
黒く長い髪が広がり、白い肌に赤い唇。
時間を忘れて眺めていると、時間ごとに音楽が鳴るクリスマス仕様の時計が軽やかなクリスマス曲を演奏し始め、我に返った。
チャイコフスキーの四季の中にあるクリスマスと題されたもの。
人形達がくるくると踊り、時を告げる。
ちょうど演奏が終わる頃に彼女は目を覚ました。
まるで、その曲が目覚めの曲だったんじゃないかと思うほどタイミングよく―――
長い髪がさらりと動いた。
こっちを見て息をのみ、そして跳ね起きた。
「あ……、あの、す、すみませっ……すみません!」
顔を赤くして、一生懸命謝る姿からはさっきのお姫様のような雰囲気はなかった。
けれど、不思議とそっちのほうがホッとした。
ちゃんと生きていると思えて。
「いいえ、こちらこそ。居心地よすぎたみたいだね」
「そ、そんなことはっ!」
大失敗をしたというようにうつむき、顔は真っ赤だった。
どうぞと手を差し伸べると、彼女は手を取り、ベッドから立ち上がった。
また来て欲しくて君のためにこのスペースは常に心地よい眠りを誘うような場所にしようと決めた。
『ぜひ、またどうぞ』
なんて、俺は言うと彼女は小さくうなずいた。
それが彼女と俺の出会い―――運命かな?
「運命だ」
「社長。運命も口に出さないと何も動きませんよ」
「いい加減に告白したらいいじゃないですか」
「まわりくどく妹さんにいろいろ情報収集している場合ですか?」
「美人さんですから、すぐに彼氏できちゃうんじゃないかなぁ」
血も涙もない『TOGAWA』の店員達。
「告白ってどうしたらいいのか……」
彼女が好きそうなクッションカバーを選びながら、言うと店員から鋭い指摘が飛ぶ。
「これだから、今までモテてきた男は困るんですよね。どうやって気持ちを伝えたらいいのかなって普通に好きですって言ってくればいいでしょ」
パートさんにまで言われる始末。
とても辛口だ。
だいたいモテたと周りから言われるけど、あまり自覚はない。
確かに女性が多いなとは思っていたけど、親の意向で留学したり、勉強のため海外の家具作りを見て回ったりしていたせいで、特定の誰かと付き合ったことはない。
「社長はお坊っちゃんですからね」
「それと、あれですよ。好きな子に冷たくされたら立ち直れないタイプ」
好き放題言われている。
今日も仕事帰りに彼女はやってきた。
雑貨が好きらしく、輸入雑貨を興味深そうに眺めている。
『それは自分が仕入れた雑貨です』
『気に入っていただけてうれしいです』
―――と本当は言いたかった。
自分が買い付けた雑貨を好んで見てくれている姿を遠巻きに眺めた。
まるで自分が彼女に気に入られたみたいで嬉しい。
正直、いろいろと雑貨についてうんちくを言いたい気持ちは山ほどある。
でも、だからなんだとか言われたらどうしようと思ってしまい、ちらちらと彼女が手に取るものを遠くから見ていた。
そして、手に取った桜色のガラスの皿。
神様が俺にくれたチャンスだと思った。
よし!
それはガラス作家の作品!
説明のチャンスだ!
「がんばってください!社長!」
「ファイトです!社長」
外野がすごくうるさい。
俺が話しかけにくいのも君たちのせいじゃないかなって思わなくもないよ?
店員たちを無視して、さりげなく、あくまで自然に彼女に近づいた。
「それ、新しく入荷したばかりの皿なんですよ」
勇気を出して話しかけた。
さらりとしたストレートの黒髪、ふんわりと甘い花のような香り。
美人で長い手足がモデルのようだった。
彼女は話しかけられて、少し戸惑っていた。
迷惑だったかもしれないと思ったけど、声をかけてしまったのだから、もう遅い。
「さすが常連さん。よくわかりましたね」
「そ、そんなこと……ないです。素敵な皿ですね」
やっぱり気に入ってくれていたようだった。
とても熱心に見ていたから、その皿がほしいのだろうなと思った。
百枚でも二百枚でも!と言いたいところだけど、その皿は特別な皿だ。
「新人で無名のガラス工芸家から直接買い付けたものなんですよ。だから、数点しか置いてない」
たまたま旅行に行った先でみつけた島の工芸家が製作したガラスの作品で、気に入って何点か買い付けてしまったものだ。
「ガラスの器は好きで、つい無名でも買い付けてしまうから」
「あ、あの、その、小皿買います」
「ありがとうございます」
この桜色のガラスの皿は四枚だけ。
彼女が欲しいのは一枚じゃないことはわかっていた。
ランチョンマットを以前、四枚買っていったから家族が四人だということもなんとなく察していた。
四枚、手に取ることはできなかった。
この商品を一度に買ってしまえば、彼女はしばらく店に訪れないかもしれない。
一枚だけ手にした。
彼女はなにか言いかけて口をつぐむ。
「包装しますね」
手早く包装すると彼女はうなずいた。
きっと彼女はまた来てくれる。
もっと親しくなったら、カフェ『音の葉』のディナータイムに誘ってみよう。
テラス席にはお客同士の中でひそかに囁かれているジンクスがある。
ディナータイムのテラス席に座ったカップルは結婚できるというジンクスが!
「ありがとうございました」
彼女に商品を渡すと、にっこり微笑んでくれた。
そして、店をあとにする彼女。
「社長!とうとう話しかけることができましたね!」
「しかも、皿を一枚だけ買わせたところまで見てましたよ、しっかりとね!」
「あと、残り三枚!他のお客に買われないように全力で我々店員が見張ります!」
それ、ずっと売れ残らないよな?
大丈夫だよな?
感謝していいのか悪いのか、俺の恋は全員から全力で応援されていた―――
複雑な気持ちで『うん、ありがとう』とみんなに答えたのだった。
応援ありがとうございます!
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