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本編
35 未来【冬悟】
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―――おかしい。
俺のなにがいけなかったのだろうか。
羽花との仲が深まるだろうと思っていたが、羽花を抱いてからずっと不機嫌なままだった。
昨日、仕事から帰ってきても不機嫌で『疲れがとれるまでは私との接触は禁止です』と冷たく言われた。
そして、今日―――三日目だ。
さすがに今日は仲直りしたい……。
そう思って羽花に『何かおいしいものでも食べに行こうか』そう提案した。
もちろん、羽花は喜んでくれた。
『私が行きたかった場所でいいですか?』
そんなのどこだっていい。
当然、快諾した。
それがここ―――社内一階のカフェだった。
どうしても、羽花はここに来たかったらしい。
羽花はカフェに来てから、ずっとにこにこしていた。
よかった。
「冬悟さん。奥さんのご機嫌取りですか」
竜江は呆れたように俺に言った。
ご機嫌取りと言われてもしかたがない。
だが、これで機嫌を直してくれるなら安いものだ。
「社長がカフェにいるぞ……!」
「嘘だろ。カフェなんてくるかよって……うわっ!!いるっ!?」
なにやら、ざわざわと周囲がざわめき立っているが、そんなことはどうでもいい。
大事なのは羽花から接触禁止命令を解いてもらうことだ。
「羽花。ここでよかったのか?」
「はいっ!」
俺は羽花が喜ぶならどこへだって行く。
そこが俺にとって、どんなに似合わない場所だったとしてもだ。
俺にカントリー風のカフェは似合わない。
そんなことはわかっている。
「私、ずっとこのイチゴのロールケーキが食べたかったんです。これが甘さ控えめという噂の生クリーム……」
羽花はロールケーキの白いクリームをすくい、大きな口で食べた。
「ふあー!おいしい!」
気のせいでなければ、今までで一番幸せそうな顔をしている。
……まさかな。
さすがにそれはないだろう。
「イチゴも大きいし、甘いし、春ってかんじですね」
うっとりとイチゴを食べる。
そんな幸せそうな顔をしてくれるなら、トラック一杯分のイチゴを買い占めてもいい。
「俺のも食べていいぞ」
皿に俺のケーキについていたイチゴをのせてやると羽花はキラキラとした目で俺を見た。
「冬悟さんはやっぱり大人で素敵ですね」
イチゴひとつでそんなセリフをいわれてもあまり嬉しくない。
イチゴなしのロールケーキを食べながら、俺は言った。
「羽花。お前のお願いならなんでもきいてやる。だから、接触禁止はやめろ」
「次はないですよ」
「……わかった」
俺を脅すとか、どっちがヤクザかわからない。
「私のお願いを冬悟さんはなんでもきいてくれるんですか?」
「ああ」
羽花は少し遠慮がちに言った。
「あの……冬悟さんにお願いがあるんです」
「ああ、なんでも言え」
言いづらそうなところを見ると、無理難題なお願いなのだろうか。
遠慮するということは、なかなか手に入りにくいものなのか?
どんなものだったとしても嶋倉の連中を総動員して手に入れてやる。
「『柳屋』のことなんですけど弟が修行から帰るまでの間だけ手伝いに行ってもいいですか?妹の百花が頑張ってくれていますけど、今までお店のことをやってきたのは私なので、わからないこともあって」
「ああ、そうか……」
俺は羽花が店を取り仕切る姿を遠くからずっと見てきた。
短大を卒業してからはほとんど表向きの仕事は羽花がやっていたと言ってもいい。
「衣兎おばさんも手伝ってくれているんですけど、お客様のことを細かく聞かれても説明するのがメールだけじゃ難しくて」
「わかった。だが、竜江と仙崎に送迎はさせるからな」
「ちょっと過保護じゃないですか?」
「だめだ」
過保護だと言われてもそこを譲る気はない。
羽花が『柳屋』を大切に思っていることは知っている。
だから、店の手伝いはしかたないとしてもだ。
身辺の警護となれば話は別だ。
「それから、俺も和菓子を買いに様子を見に行くからな」
「はい」
くすりと羽花は笑った。
「俺も羽花に頼みがある」
「なんでも言って下さい!私でできることなら、なんでもやりますっ!」
俺に対する無防備な態度。
毎回、そうやって俺を無意識に煽るから困る。
こっちがどれだけ気持ちを抑えているか、きっと羽花は知らない。
「俺達二人のことだ」
「はい?」
「家族が欲しい」
祖父も両親も俺にはもういない。
もちろん、嶋倉に従ってくれている連中のことは信頼している。
だが、あいつらはまた別だ。
家族ではない。
絶対的な存在が欲しかった。
「そんなの結婚したんだから、私はもう冬悟さんの家族です……」
羽花は恥ずかしそうに笑った。
そして、そっと俺の耳に囁いた。
「もっと家族を増やしていきましょうね」
羽花―――そのセリフ、わかって言っているのか?
それともわざとか?
照れている羽花は可愛いが、俺には苦行でしかない。
こうやって俺はきっと一生振り回されて生きていくんだろう……
願いが叶った羽花は嬉しそうにケーキの続きを食べている。
羽花の姿を見ながら、コーヒーを一口飲む。
苦いが甘い。
「羽花には敵わないな」
「え?なにか言いましたか?」
夢中でケーキを食べていた羽花の頬に生クリームがついている。
それを笑って指ですくう。
顔を赤くする羽花を眺める。
会社の一階のカフェ。
なんでもない日の午後。
それが俺にとっては特別な時間。
彼女と一緒に生きていけることが一番の幸せ。
俺の長い片想いはこうして終わりを告げた。
俺のなにがいけなかったのだろうか。
羽花との仲が深まるだろうと思っていたが、羽花を抱いてからずっと不機嫌なままだった。
昨日、仕事から帰ってきても不機嫌で『疲れがとれるまでは私との接触は禁止です』と冷たく言われた。
そして、今日―――三日目だ。
さすがに今日は仲直りしたい……。
そう思って羽花に『何かおいしいものでも食べに行こうか』そう提案した。
もちろん、羽花は喜んでくれた。
『私が行きたかった場所でいいですか?』
そんなのどこだっていい。
当然、快諾した。
それがここ―――社内一階のカフェだった。
どうしても、羽花はここに来たかったらしい。
羽花はカフェに来てから、ずっとにこにこしていた。
よかった。
「冬悟さん。奥さんのご機嫌取りですか」
竜江は呆れたように俺に言った。
ご機嫌取りと言われてもしかたがない。
だが、これで機嫌を直してくれるなら安いものだ。
「社長がカフェにいるぞ……!」
「嘘だろ。カフェなんてくるかよって……うわっ!!いるっ!?」
なにやら、ざわざわと周囲がざわめき立っているが、そんなことはどうでもいい。
大事なのは羽花から接触禁止命令を解いてもらうことだ。
「羽花。ここでよかったのか?」
「はいっ!」
俺は羽花が喜ぶならどこへだって行く。
そこが俺にとって、どんなに似合わない場所だったとしてもだ。
俺にカントリー風のカフェは似合わない。
そんなことはわかっている。
「私、ずっとこのイチゴのロールケーキが食べたかったんです。これが甘さ控えめという噂の生クリーム……」
羽花はロールケーキの白いクリームをすくい、大きな口で食べた。
「ふあー!おいしい!」
気のせいでなければ、今までで一番幸せそうな顔をしている。
……まさかな。
さすがにそれはないだろう。
「イチゴも大きいし、甘いし、春ってかんじですね」
うっとりとイチゴを食べる。
そんな幸せそうな顔をしてくれるなら、トラック一杯分のイチゴを買い占めてもいい。
「俺のも食べていいぞ」
皿に俺のケーキについていたイチゴをのせてやると羽花はキラキラとした目で俺を見た。
「冬悟さんはやっぱり大人で素敵ですね」
イチゴひとつでそんなセリフをいわれてもあまり嬉しくない。
イチゴなしのロールケーキを食べながら、俺は言った。
「羽花。お前のお願いならなんでもきいてやる。だから、接触禁止はやめろ」
「次はないですよ」
「……わかった」
俺を脅すとか、どっちがヤクザかわからない。
「私のお願いを冬悟さんはなんでもきいてくれるんですか?」
「ああ」
羽花は少し遠慮がちに言った。
「あの……冬悟さんにお願いがあるんです」
「ああ、なんでも言え」
言いづらそうなところを見ると、無理難題なお願いなのだろうか。
遠慮するということは、なかなか手に入りにくいものなのか?
どんなものだったとしても嶋倉の連中を総動員して手に入れてやる。
「『柳屋』のことなんですけど弟が修行から帰るまでの間だけ手伝いに行ってもいいですか?妹の百花が頑張ってくれていますけど、今までお店のことをやってきたのは私なので、わからないこともあって」
「ああ、そうか……」
俺は羽花が店を取り仕切る姿を遠くからずっと見てきた。
短大を卒業してからはほとんど表向きの仕事は羽花がやっていたと言ってもいい。
「衣兎おばさんも手伝ってくれているんですけど、お客様のことを細かく聞かれても説明するのがメールだけじゃ難しくて」
「わかった。だが、竜江と仙崎に送迎はさせるからな」
「ちょっと過保護じゃないですか?」
「だめだ」
過保護だと言われてもそこを譲る気はない。
羽花が『柳屋』を大切に思っていることは知っている。
だから、店の手伝いはしかたないとしてもだ。
身辺の警護となれば話は別だ。
「それから、俺も和菓子を買いに様子を見に行くからな」
「はい」
くすりと羽花は笑った。
「俺も羽花に頼みがある」
「なんでも言って下さい!私でできることなら、なんでもやりますっ!」
俺に対する無防備な態度。
毎回、そうやって俺を無意識に煽るから困る。
こっちがどれだけ気持ちを抑えているか、きっと羽花は知らない。
「俺達二人のことだ」
「はい?」
「家族が欲しい」
祖父も両親も俺にはもういない。
もちろん、嶋倉に従ってくれている連中のことは信頼している。
だが、あいつらはまた別だ。
家族ではない。
絶対的な存在が欲しかった。
「そんなの結婚したんだから、私はもう冬悟さんの家族です……」
羽花は恥ずかしそうに笑った。
そして、そっと俺の耳に囁いた。
「もっと家族を増やしていきましょうね」
羽花―――そのセリフ、わかって言っているのか?
それともわざとか?
照れている羽花は可愛いが、俺には苦行でしかない。
こうやって俺はきっと一生振り回されて生きていくんだろう……
願いが叶った羽花は嬉しそうにケーキの続きを食べている。
羽花の姿を見ながら、コーヒーを一口飲む。
苦いが甘い。
「羽花には敵わないな」
「え?なにか言いましたか?」
夢中でケーキを食べていた羽花の頬に生クリームがついている。
それを笑って指ですくう。
顔を赤くする羽花を眺める。
会社の一階のカフェ。
なんでもない日の午後。
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俺の長い片想いはこうして終わりを告げた。
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