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五章 二十歳×三十歳

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 その日はゆっくりと二人でベッドの上で過ごした。
俺は立ち上がれなかったので、世話をゼロウスに任せて体を休めた。何かとゼロウスは俺に触れてきて離れなかった。……悪い気はしなかったけれど、触り方が以前と違って遠慮がなくなった。

 「そういえば、兄……じゃなくて王から爵位と領土は賜るのか?」
聞いてなかったのでゼロウスに訊ねてみる。
「いらん。またクラストから離されたくないからな」
髪の毛が乱れているからと、ゼロウスが整えてくれていた。普段は執事のセバスチャンか、メイドが整えてくれているがゼロウスがやりたいと言って任せている。

 ゼロウスの指はもう細くはないが、変わらず器用で乱れた髪を整えてくれた。
 「ありがとう」
終わって片付けながら俺を眺めていた。
 「何だ?」
サラッと耳の近くの髪の毛を触る。
「ずっとクラストの髪の毛を触りたかった」
そう言い、指を離した。

 「あ……。じゃあ、住む所はどうする? どこかに家を買うのか?」
何も考えずに言ってしまった。ゼロウスは俺の肩に顔をポスンと埋めてきた。
「クラスト……。俺達は伴侶じゃないのか? 別々に暮らすなんて、嫌だ」
 「あ」しまった。そうだった。

 籍を抜いた時から『俺の養い子じゃない、もう一緒には暮らせない』とずっとあきらめていたからだ。
 「一緒に暮らせるのか?」
 ゼロウスはもう地位もお金も十分あり、一人でやっていける。
「一緒に暮らしたい。……朝、クラストが起きないうちに寝顔を眺めて起きたら一番始めにキスと挨拶をして、日中もできる限り一緒にいて隣国に出かける時は一緒について行って、夜は朝までクラストを抱いていたい」
つまり、ずっと一緒に居たいってことだな。

 「クラスト、顔が赤いぞ?」
顔を上げて俺をのぞき込むゼロウス。
「……じゃあ、昔みたいに一緒に暮らそう」
ゼロウスの精悍な整った顔で『ずっと一緒にいたい』と情熱的に口説かれたら顔も赤くなる。

 「わっ!」
ギュウゥと抱きついてきた。ちょっと痛い。
「ああっ! またあの屋敷でクラストと一緒にいられるなんて、嬉しい!」
スリスリと俺の頬へ頬ずりをする。
「また一緒に……」
そんなに一緒に居たかったのか……。ゼロウスの背中を擦った。長かったからな。

 「明日は『伴侶になったお祝いの会』がある。それが終わったら一緒にあの屋敷に帰ろう? ゼロウス」
ゼロウスの部屋はそのままにしてあるし、問題はないだろう。
「ああ! クラスト」
ゼロウスはしっぽをパタパタと機嫌良く動かしていた。
 「だから、お祝いの会は行くからな?」
「うっ……」
一瞬でしっぽがヘニョと垂れた。

 甘い甘い、ゼロウスとの一夜。ずっと続くといい。
もう五年も魔獣と戦っていたゼロウス。かなりハードな毎日だったと報告が届いていた。
 ゼロウスから送られてきた手紙には、大変だとか辛いとか一切書いていなかった。長年魔獣駆除していたベテラン騎士もここ何年かは、異常な事態と言っていた。
 
 何か……、人の手が加えられていないか? 疑問を感じている。
「ゼロウス」
きゅっと抱きしめ返した。
 「クラスト?」
 雰囲気を察したのかゼロウスは心配して体を離した。

 「明日は皆に祝ってもらおうな?」



 ■■■■■■■■■■■■■■


 夜はゼロウスに我慢させて一緒に同じベッドで眠った。時々、ゼロウスの手が俺の体を弄ったりしっぽで首筋を撫でられたりイタズラされたけど、しっかりと拒否した。そのおかげでぐっすりと眠れた。ゼロウスは少し機嫌が悪いけど。

 「お祝いの会が終わったら、すぐ帰ろう。今日は寝かせないからな? クラスト」
冗談じゃなさそうだ……。

 本当は一週間位、この【森の別荘】に滞在したかったが王の呼び出しならば仕方が無い。

 黒を基調にし金の縁取りされた制服にマント。飾りは金と青色。初めて見た、ゼロウスの正装。
「その正装は?」
とても似合っていてかっこいい。
 「王族の近衛に任命された」
「え!?」

 「爵位と領土はいらないと返事したら、王に『王族の近衛』にと任命れた。さすがにこれは断れない」
「初めて聞いたが」
驚いた。俺の知らないうちに……。
 「初めて言ったからな。クラスト、そう言う訳だ」

 もともとあまり口数が少ない子だった。しかし……。
「これからは相談とか、話をもっとして欲しい。ゼロウス」
頼むと言うとゼロウスはにっこりと笑った。
 「そうだな。もう伴侶だからな」
機嫌が良くなったな。

 さて、俺も支度をしなくては……。あれ?
「白色の正装? もしかして、ゼロウスと対?」
 ゼロウスが黒と金色の正装で、俺が白と銀色の正装。
 「そうだ。お披露目だからな」
チュッと頬にキスをされる。

 「離れないで。行きたくないけど、行こうか。クラスト」
何だか俺の知らない所で色々進んでいるようだ。少し不安になるが、ゼロウスの笑顔を見ていたら何とかなるかと思った。
「ああ。行こうか、ゼロウス」

 別荘の外では王からの命令で遣わされた馬車が二人を待っていた。

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