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1章 異世界転移

5,魔力検査

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  たまに母は空気を読まない時がある。それが今かも知れない。

 「アデル王子、紹介しよう。こちらはジン。私の夫だ」
 
 アデル王子と呼ばれたイケメン。やっぱり王子サマだった。しかし、母への親しい態度が気になる。母が大好きな、父が警戒するのも分かる。あー、イケメンのアデル王子がポカンと口を開けて呆けているよ。
「お、夫?」
信じられない、といった顔で母に聞いた。

 「ああ。そして、こっちの男の子が長男のカケルと長女の愛里。私達の子供達だ」
ニコッと笑って母は、俺達を紹介してくれた。
「……」
あ、アデル王子の顔色が悪くなってきた。大丈夫か? この王子。

 「アデル殿下! こんな所で立ち話もなんじゃから、城の中へ入ろうではないか! さあさあ……!」
場を読んで大賢者さんが声をかけてきた。
「……そうだな、案内しよう。着いてきてもらおうか」
1つコホンと咳払いし、アデル王子はクルリと体を城側に向いて歩き出した。
 
「行きましょう」
父が頷いて、母・父・愛里と俺が最後で王子に着いていった。大賢者さん、良いタイミングで声をかけてくれた。騎士達に囲まれながらの移動となった。

 
 お城の中は豪華絢爛。写真で見た、外国の宮殿のように高そうな花瓶やら置物、絵画などがたくさん飾ってあった。価値がわからない俺でも、高額な品物と分かるぐらいキラキラしている。間違って壊さないようにしないとな。

 通されたのは、フカフカの絨毯に豪華な家具が置かれた貴賓室の様な部屋だった。
「先にアデル王子の話を聞こう。カケルと愛里は別室で待っていて」
 母は、父と王子サマと護衛の騎士達が部屋に入ったら扉を閉めてしまった。

 「えー、何で?」
愛里が唇をとがらせて言った。
「何か聞かせたくない話だろ? 後で説明してくれるさ」
俺は愛里の肩をポンと叩いた。
「カケル様、愛里様はこちらへ」
大賢者さんが、俺達を違う部屋に連れて行ってくれた。案内してくれたのは先ほどの厳つい騎士達ではなく、メイド服を着た美人な女性。 
「こちらのお部屋でおくつろぎ下さい。ただ今、お茶をお持ちします」
ペコリと頭を下げて部屋から出て行った。

 「さて……。しばらくカナ様と殿下とのお話があるから、1つ水晶で能力を調べてみないかね?」
大賢者が懐からサッカーボール位の水晶を、ヒョイと取り出した。どこに隠し持っていたんだろう?
テーブルの上に、大賢者さんが左手首にはめていた金色の幅の広いブレスレットを置いて、そこに厚めの布を被せて水晶を置いた。

 「能力をみる?」
愛里がトコトコと、水晶の近くに近づいた。
「とりあえず簡単な、魔力検査をやってみるとよい。しばらくこちらで過ごす事になるんじゃからな」
しばらくこちらで過ごす?
「大賢者さん、どういうことで……」
「魔力? わぁ! やってみたいです!」
俺が大賢者さんに聞こうと思ったら、興味を持った愛里が会話に入り込んできた。

 「ホッホッホッ! 愛里様は興味がおありで。良いですね、ではさっそく魔力検査をやってみましょうか」
「はい!」
大賢者さんはまるで可愛い孫の相手をするように、デレデレとした緩みきった笑顔で愛里と話をしている。

 そこにガチャリと扉を開いた。
母と父が戻って来たようだ。先ほどのメイドさんもいた。メイドさんはティーセットとお菓子が乗ったワゴンを押して入ってきた。
「待たせたな。カケル、愛里」
父が俺達に話しかける。母は渋い顔をしていた。何か良くない話だったのかな?
 
 「きゃあ!」
愛里の声に振り向くと、水晶が眩しい白い光を放っていた。
「これは……、」
大賢者さんも驚いていた。
「愛里!」
母が愛里を呼んだ。びっくりして愛里は水晶から手を離したとたん、白い光りは消えた。
「ドクトリング……」
母は大賢者さんを睨んでいる。ちょっと恐い。

「カナ様! 愛里様は聖女クラスの魔力の持ち主ですぞ!」
そう言って大賢者さんが、愛里の両手を取って上下に振り回した。
「え? 聖女クラスの魔力って……??」
俺はラノベに登場する、回復魔力で人々を救う あの“聖女”を思い浮かべた。
「まさしく聖女クラスの魔力の持ち主ですぞ! 練習すればこの国一番の回復魔法の使い手、いや、聖魔法のおさとなれる素質を愛里様は持っているのじゃ!」
大賢者らしくない興奮した様子で、母に伝えている。
「ドクトリング! 勝手に魔力検査をして!」
母は怒っていたが、大賢者さんは気にしていない様子だった。それほどに興奮して愛里の魔力の高さを褒めちぎっている。

俺と父は、無言で愛里を眺めていた。

 妹は両手を握られたまま、ポーッと母と大賢者さんのやり取りを見ていた。

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