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2章 闇の魔力

21,アカツキ 再び

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「どうして……。なぜ……?」
俺は馬鹿みたいに、繰り返し呟いていた。

「お兄ちゃん!」 
愛里がいつの間にか俺の側に来ていて、隣に膝をついて泣いていた。
 「愛里、父さんと母さんが……」
 俺は愛里に話しかけようとした。

 「危ない!」
「きゃあ!」
物凄い殺気を感じて、愛里を抱えて伏せた。そっと顔を上げると、後ろに大木が刺さっていた。

「ちっ。外したか……」 
 
聞き覚えのある声。
 上を見ると前に森で会った アカツキ という奴だった。次期 魔王だと言っていた、俺達を殺そうとした奴だ。
「だが、勇者と邪魔な奴は元の世界へ帰してやった。ざまあみろ!」
アカツキは空中で黒いマントをなびかせて、ニタリ……と笑った。

 「くっそ! 何なんだよ、あいつは! アカツキ、下に降りてこい! 俺と戦え!」
 アカツキは空中で、必死に魔獣達と戦っている俺達を見下ろしていた。

 ニヤニヤと薄笑いして俺をみた。
「お前じゃ、弱すぎる」
 「何だと!」
 俺は頭に来て、落ちていた石を拾ってアカツキに投げた。
「おっ、と……」
 投げた石は簡単に避けられて、下に落ちた。

「ははっ! 残念だったな」
 「ちくしょう! このっ……!」
 俺はまた、その辺の石を拾って投げようとしたが腕を掴まれた。
 「お兄ちゃん、もうやめて」
 ホコリと涙で汚れた愛里が、俺を止めた。

 「愛里……」
「冷静になって」
 ハッとさせられて周りを見ると、まだ皆は魔獣と戦っている最中だ。
早く魔獣らを倒さないと、街になだれ込んでしまう。
 ざくっ!
 持っていた剣を地面に刺して、立ち上がった。

 「ありがとう、愛里」
 頭に血が上っていた。冷静にならないと。……たぶん、父と母は無事に日本へ還った。そう考えよう。
 今はこの状況を、何とかしなければならない。

 「ふん。つまらない」
 アカツキはそう言って手と手を合わせた。力を入れて手を離すと間に魔法の塊が出来た。
 「何だ、あれは!?」
魔獣と戦っている騎士達が気がつき、アカツキを見上げた。それはだんだん大きくなって野球の玉くらいの大きさになった。

 「何をする気だ!」
俺が叫ぶとアカツキは、魔獣のいる方へと向いた。嫌な予感がする。
「お前と遊ぶのは、飽きた。街を頑張って守りなよ、っと!」 
 魔獣に向かって、その魔法のを投げた。

 「なっ……!?」
 止める間もなく、放たれた。
ゴオォ! と勢いよく飛んで、魔獣の顔に当たった。
 「ウギャァァ――!」

 アカツキが投げた魔法の玉は、大きな魔獣の顔に当たった。本で見たトロルくらいな大きな魔獣。
 その魔獣が暴れ始めた。
 「ひ、引け――!」
 騎士団団長が、退避命令を叫んだ。大木を振り回して、城壁を壊し始めた。

 「はははははは! じゃあな!」
 アカツキは今いる空中から、さらに上昇して行った。真上に現れた、さっきとは違う魔法陣の中に吸い込まれていった。
  
 「いや! 怖い!」
「あ、愛里! 俺達も城壁の中へ!」
愛里を立たせて、俺は愛里と走った。騎士団の騎士達も、向かって来る魔獣らと戦いながら後退していった。

 壊れた城壁、砂埃。怪我をした騎士達。襲ってくる魔獣。
ここは、それらが ごちゃごちゃになって皆混乱していた。
 
「もう少しだ! 大丈夫か?」
走りながら愛里を心配して話しかけた。
 「う、うん。大丈夫……」
 ハアハアと息を荒くさせながら、全力で走った。

 「ああっ、アリシア姫様だ!」
「王女! 危険です!」
 「アリシア王女!」
 
 街中をともも付けずにこちらに向かってきたのは、アリシア王女。
 「アリシア王女……」
 愛里が王女の名を呼んだ。

 「下がってなさい」
 俺達とすれ違いざまに、無表情でアリシア王女は言った。
「危ないです、アリシア王女……!」
 話しかけてもそのまま、魔獣達に向かって行ってしまった。

 「姫様がいらっしゃった! 皆、下がれ――!」
 騎士団団長は再び叫んだ。皆、アリシア王女を避けて、姫様より後ろに退避した。

 アリシア王女は魔法使いの杖を掲げた。
「……炎よ。魔獣達を、焼き尽くせ」
 杖の先から大きな炎が現れて、魔獣達へ放たれた。それは巨大な炎の塊になって魔獣達に燃え広がった。
 グオォオオオオオオオオ――!

 残酷ともいえる光景だった。魔獣らを皆、焼き尽くし消し炭になるほどの威力のある魔法だった。
 だけど、そのアリシア王女の魔法のおかげで魔獣達は倒された。

 
 「た……、助かったのか?」
 一面焦げ付いた匂いが立ち込める中、一人の騎士が誰かに問うとザワザワと騒がしくなっていった。
「よ、良かった! 街中までの侵入は食い止められた!」
 「良かった!」
「姫様! ありがとう御座います!」

 「お兄ちゃん……」
「終わったみたいだな……」
 まだ、煙が立ちの登る周辺を見て愛里に言った。
 
「あれ?」 
 俺達の先で、強力な魔法を放ったアリシア王女の様子がおかしい。ふらふらと体が揺れていた。
 「ちょっと、アリシア王女の所へ行ってくる」
  「私も行く!」
 愛里も一緒についてきた。

 そんなに遠くない距離。すぐにアリシア王女の近くに来れた。
 「アリシア王女?」
俺が声をかけたとたん、アリシア王女はグラリと倒れた。
 「王女!?」
 咄嗟に王女の体を支えられたので良かった。

 腕の中にいる王女はぐったりとしていた。
「大変! 早くお城の中へ連れて行こう! お兄ちゃん」
 「ああ!」
愛里に言われて、アリシア王女を背中に背負った。お姫様抱っこは俺の体力では無理なので、おんぶにした。

 「……くそっ! アカツキめ!」
 俺は悔しくて、奥歯を噛みしめた。王女を背負って壊された城壁の場所を後にした。

 
 
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