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4章 旅立ち
44 甘いパンケーキと苦いコーヒー①
しおりを挟む建物自体はレンガらしき物で作られていたけれど、俺の生まれた日本のカフェのお店と変わりなかった。
サラサさんとお店の中に入るため、並んでいる列の最後尾に並んで順番が来るのを待った。お店の中から、ふわりと美味しそうなパンケーキの香りがした。
「美味しそうな香りですね。サラサさん」
懐かしいパンケーキの香り。愛里にせがまれて、有名店へ一緒に行ったことを思い出した。
「楽しみです」
ニコッとサラサさんは笑った。普段キリリとした女性が微笑むと破壊力が凄い。サラサさんの隠れファンは多そうだな。
待っている間、サラサさんは同僚のお友達の間で流行っている物や話題になっている物を教えてくれた。騎士の中でも平民出身の者がいて、街に詳しく色々教えてくれるそうだ。
楽しく話をしているうちに、俺達の順番が来た。
「お待たせしました! お二人様ですね。中へどうぞ」
中は広く、明るく綺麗なお店だった。カントリー風というのだろうか? 白木のテーブルに椅子、ポトスなどの植物が飾られて、可愛らしいクッションが椅子に置かれていた。
「あっ!? サラサ様ではなくて?」
一人の女性が、サラサさんの事を知っているのか声をかけてきた。
「えっ!? 本当だわ! お会いできるなんて!」
ざわざわと店内が騒がしくなってしまった。
「あ……」
サラサさんは女性にも人気者らしい。少し困っていた。
「すみません」
俺は店員さんを呼んで、小声で話しかけた。店員さんは頷いて、「こちらへどうぞ」と言い、俺達を奥の個室へと案内してくれた。
「すみません……」
個室に入り、椅子に座るとサラサさんから謝罪された。
「気にしないで下さい。サラサさんが悪いのではないですからね」
俺がそう言うとホッとしたようで、運ばれてきたお水を飲んだ。
「ありがとう御座います。優しいのですね」
ニコッと微笑まられてドキリとする。そんなことはあまり言われ慣れてないので照れる。
「そんなことないですよ。愛里から『お兄ちゃんは気がつかない!』っていつも怒られるんですよ」
俺は、ハハハハ……と笑った。
「兄妹、仲が良いですね。羨ましいです」とサラサさんは言った。「私は兄弟がいないので」と続けた。
「あ。注文しませんと」
サラサさんがハッとしたように言った。それぞれ好きなパンケーキを注文した。
俺は色々なフルーツが乗ったパンケーキ。サラサさんはイチゴとアイスが乗ったパンケーキ。飲み物はコーヒーにした。
異世界だけど食べ物は地球とほぼ同じなので助かっている。名前など違うものはあるが、似たような名前で間違わずにすんでいる。
「お待たせしました」
大きなお皿にフワフワの柔らかいパンケーキが重なって、たくさんのフルーツが飾られていた。サラサさんのパンケーキもフワフワで、イチゴとアイスと生クリームが可愛く飾られていて美味しそうだった。
「ぅ、あぁ……」
サラサさんは我を忘れてパンケーキに見とれていた。わかるよ。初めてパンケーキを見た愛里と同じだ。
「食べようか? サラサさん」
ハッと我に返ったサラサさんは少し照れて、コクンと頭を下げた。
「いただきます」 美味しそうだ。
フルーツは新鮮で瑞々しい。パンケーキにナイフを入れると、ふわりと柔らかい感触があった。口の中へ入る大きさに切って食べて見ると、ふわりと良い香りがして優しい甘い味が口の中に広がった。
「美味しい……」
俺が言う前に、サラサさんから美味しいという声が聞こえた。
「美味しいですね」
本当に美味しいので俺も、サラサさんと同じく美味しいと言った。すると驚いたようにサラサさんは俺を見た。
「はしたない……って言わないのですね。カケル様は」
サラサさんはフォークを置いて俺に話しかけた。はしたない? 俺は意味が分からなかった。
「……はしたない。食事中は静かに。美味しいなんて言うものではありませんと、躾けられました」
「え!?」
俺は思わず大きな声で言ってしまった。俺の方がマナーなんて守ってない。
「……このカフェの個室はサラサさんと俺しかいないから、遠慮なく自由にして大丈夫ですよ」
「!」
サラサさんは目をパチクリとして俺を見た。
「自由……」
「自由、ですよ?」
サラサさんは少し考えて、ふふっと笑った。
「自由……。いいですね。私は少し堅苦しいと言われるので、たまにハメを外すのは良いですね」
キュッと引き締まっていた口元が緩んで、ふにゃりと笑った。
「美味しいと言って食べますね」
ニコニコと微笑みながらサラサさんは美味しそうにパンケーキを食べた。良かった。
「「ごちそうさま」」
二人とも綺麗にパンケーキを食べ終えた。十分パンケーキを味わえたし、お互いの何気ない話も出来たしパーティー仲間として仲良くなれたかな?
「では行きましょうか」
俺達はカフェを出た。帰りもお店にいたお客さんから、サラサさんに挨拶があった。人気者だ。
「そういえば、よくお店の個室を借りられましたね?」
サラサさんは立ち止まって聞いてきた。
「これです」
俺は腕につけた、王様から賜った腕輪を見せた。
「これは……!」
王家の紋章のついた腕輪。これを見せれば、ほぼ自由に動ける。権力を振りかざすのはいけないが、ある程度俺達が行動するのに使えと渡された。
「まあ、ほどほどに……使います」
俺達はまた、サラサさんのファンに会わないようにカフェから離れた。
目的を決めず、少し歩いているとちょっと治安の悪そうな場所へ来てしまった。
「戻りましょう」
「そうですね」
ゴミが散乱し、落書きがある壁。こちらの世界でも治安が悪そうな場所は同じなんだと思った。
「お? 綺麗な姉ちゃんだなぁ? ちょっと、つきあわねぇか?」
絵に書いたような、顔つきと身なりの悪い人達が現れた。
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