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エピローグ

1  バーバラ

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 二日後、王城へと訪れるとはなしが通っていたのでしょう。
 すぐさまこじんまりとした部屋に通されました。

 初めて王城を訪れた私は、あまりにも豪奢な建物に眩暈がしてしまいましたが、通されたこの部屋はシンプルな内装で逆に落ち着きます。

 私たちと一緒に来てくださったルチア様が言うには、この部屋は小会議室として使われる事が多いそうです。
 ですから本来であれば長い机と椅子が数脚置かれているらしいのですが、今回はお茶会仕様にしたわ、とルチア様が仰いました。

 確かに部屋の中にはお茶会などで良く使われている丸テーブルが3つと、それに合わせた椅子が4脚ずつ配置されています。もちろんテーブルの真ん中には品よくまとめられた花が飾られていました。

 けれど事務机が部屋の片隅に一つ置いてあったり、壁際に椅子がいくつか並べられていたりもしています。しかも扉から一番遠いテーブルの更に奥には、とても豪華なカウチソファがぽつんと置かれていて、部屋がシンプルな内装だからでしょうか。やたらとそのカウチソファが目につきました。

 そして私たちが真ん中の席に着くとすぐ、アルトワイス伯爵様とリカルド様もいらっしゃいました。

 彼らは一番扉に近いテーブルへと案内されます。

 アルトワイス伯爵様が心配そうに私を見ましたが、特に声をかけてくることはありません。

 リカルド様も私がいることに、ほんの少し驚いたような、そんな表情を浮かべたような気がしましたが、やはり声をかけてくることはありませんでした。

 ですから私も席についたまま軽く会釈をするだけにとどめます。

 その後にも私の知らない男性が数名ーーリカルド様と同じ軍服の色違いを纏っているので騎士団の方でしょうかーー入室してきますと、壁際に整列されました。

 そして、エイドラ公爵様とディオーナ様、次に金髪に碧眼のとても綺麗な男性と白金の髪に水色の瞳の女性が部屋に入って来られると、騎士団の方たちが一斉に右手を胸に当てます。

 一糸乱れぬその動きに、私は驚きを隠せません。

 けれどニコル兄様もルチア様も特に驚いた素振りはありませんでした。

 私も立ち上がって挨拶をした方がいいのではないでしょうか。
 どう見ても最後に入室された方は高貴な方ですよね?
 だって良く見ればリカルド様もアルトワイス伯爵様も立ち上がって頭を垂れていらっしゃいますもの。

「……バーバラ、いいから今は黙って席に座ってなさい」

 ぼそりとニコル兄様がそう言いました。
 多分私がオロオロしているのを見兼ねたのでしょう。

「で、でも……」
「大丈夫だから」

 ニコル兄様がそう言うのであれば大丈夫、だと思いたいです。
 私がそう思いながらも落ち着かずにいれば、ふとエイドラ公爵様が席に座る前に声をかけてくださいました。

「バーバラ嬢、ご気分は大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です」

 たぶんエイドラ公爵様は、リカルド様がいることで私が落ち着きがなくなっていると思われたのでしょう。
 まさか、先ほどの高貴そうなお二人が気になってソワソワしているとは言えません。
 ちらりとその高貴なお二人を見遣れば、奥まった場所にあったカウチソファに女性を座らさせているようです。

 あのカウチソファは彼女のためのものだったようです。

 私の視線に気が付いたエイドラ公爵様の、冷たい印象を与えやすい水色の瞳が、ふわりと柔らかな表情いろを浮かべました。

「ああ、あれは私の姉ですよ」

 そして何でもない事のように、嬉しそうにそう私に言うのです。

「お姉様?」
「エイドラ公爵」

 エイドラ公爵様の言葉にニコル兄様が、窘めるかのようにその名を呼びました。
 ニコル兄様を見れば、表情が硬く、どこか緊張しているようでもあります。

「大丈夫ですよ、ニコル殿。それにこの部屋にいる人間で、外に情報を漏らすような馬鹿はいないでしょうし」

 そう言って広くはない部屋の中を見回すエイドラ公爵様はーーどのような表情をしているのかーーアルトワイス伯爵様や壁際に立つ騎士様方から息をのむ声が聞こえました。

 エイドラ公爵様のお姉様……。

 そこまで考えて私はふと思い出します。

 確かエイドラ公爵様のお姉様は、お亡くなりになっていなかったでしょうか。
 つい最近もそのような話をした記憶があります。

「もうそろそろよろしいでしょう? 王太子殿下」
「ああ、もちろんだとも。今回の一件のおかげで、妻を害なそうとする輩まで引っ張ることができるからな」

 その言葉で、やはりこの方は王太子殿下なのだと思いました。

 いくら貴族の一人であったとしても、下位貴族である子爵位の、ましてや子女の私には王族方のご尊顔を拝することなどありません。

 ですからご入室された時にも、確信は持てませんでした。
 けれど、たぶん、そうなのではないかとは思ったのです。
 ですが、まさかご一緒にいらっしゃった女性がエイドラ公爵様のお姉様だとは思いませんでした。

 これはいったいどういう事でしょう。


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