秘密がばれた竜王は従者たちに求愛される

天霧 ロウ

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 人間のような食事は魔力を糧にしている竜にとって不要だ。
 クローツェルの場合、娯楽としてときおりベルケットが作ってくれるクッキーを摘まむ程度だ。なによりクローツェルも人間がいる町にときおり来ている。それなのに初めてきたように扱われるのはどうにも納得いかない。
 そんな気持ちで歩みを進めていると目当ての喫茶店についたようだった。ゲオルグが店員と言葉を交わした後、席を案内された。
 店内は軽快な音楽が満ちてほどよく人が溢れている。それほど明るくないオレンジ色の照明がぼんやりと照らしている程度でもどこか小洒落て見えるのはそのおかげだろう。席に着くと目の前に水が入ったガラスコップとメニューが置かれ、注文が決まったらテーブルの脇にあるボタンを押すよう説明して店員は去って行った。

「喫茶店というのはずいぶん手間がかかるのだな」
「人間の店なんてどこもこんなもんじゃね? 女王様は人間界によくくるわりには知らねえのな」
「私はクオルに武器を手渡しに降りてくるだけだ。それ以外に用はない」
「デート中にほかの男の名前だすなよ」

 露骨に不機嫌な声音をだすゲオルグを無視してメニューを眺める。

「人間はどうしてこんなに食べる種類が多いのだろう」

 オムライスやドリアにケーキもいろんな種類がある。それ以外にもセットメニューや時間限定のメニューもあった。魔力だけを糧にしているクローツェルからしてみればあまりに無駄が多すぎる。

「ま、あんたみたいな古竜様からすりゃ無駄だらけだろうな。でも、食ってみると案外人間が作る飯も悪くないぜ」
「そういえばお前には人間の血が入っているのだったな。そうなると魔力だけでは生きていけないのか」
「そういうわけじゃねえけど……。あんたがベルケットのクッキーを食いに行くようなもんだって考えてくれりゃいい」
「なるほど」

 ゲオルグの説明に鷹揚に頷くとゲオルグがメニューへと視線を落とした。

「そんじゃ、さっさと注文しようぜ。どれが気になった?」
「ふむ……、このホットケーキというものだな」
「ホットケーキな、飲み物はいらねえの?」
「なら温かい紅茶を頼む」
「了解」

 クローツェルの要望を聞いたゲオルグはテーブルの脇にあったボタンを押した。ついで少し気の抜けた音が店内に響く。少しして店員が来るとゲオルグは慣れた様子で注文した。復唱した店員の言葉にゲオルグが頷くと店員は去って行く。
 店員が去ったのと同時にゲオルグが頬杖をついてじっとクローツェルを見つめてくる。図々しい視線にクローツェルは半目になってゲオルグを見つめ返した。

「言いたいことがあるなら黙ってないで言ったらどうだ」
「俺も人間の中にいると浮いてる方だけど、あんたはさらに浮くなって思っただけだよ」
「人間でないのだから当然だろう」

 なにをいまさらと思ってため息をつく。ゲオルグは「そういう意味じゃねえって」と唇をとがらせた。

「顔というか全体的に整いすぎてるなって思ったんだよ」
「そもそも私を人間の美醜基準で考えられるのは不愉快だ」

 竜からしたらちょっとした強風も人間は災害だとのたまう。そんな脆弱な生き物と一緒にされるのは侮辱と言っても差し支えない。ここにハリューシカがいたらそれこそ「陛下に対して無礼だぞ!」と声を荒げていたかもしれない。
 クローツェルの声が低くなったことにゲオルグはガシガシと頭をかくと「悪かったって」と悪びれもなく呟いた。

「ならば許す。ところでさっきの店やここの店の支払いはどうしていたのだ」
「普通に金払ったぜ。郷に入っては郷に従えってのは人間も竜も同じだ」
「つまりお前は人間社会で働いたのか?」

 とてもじゃないが想像できない。そもそも毎日ではないにせよ、ゲオルグは竜将だ。人間の中で働く時間などないだろう。
 ゲオルグはその思考を読み取ったかのようにニヤリと笑った。

「んなわけねーだろ。この俺が人間に従う理由はねえ」
「なら、金はどこから得たのだ」
「古い鱗をちょっと奴らに売ってやっただけだ。俺たちの鱗は人間にとって宝みたいだしな」
「愚か者め。竜を傷つけられるのは竜の素材を用いた武器のみだ。お前はそれでクオルにやられたのをもう忘れたのか」

 あんなに竜の生存を喚いておきながら、竜を唯一倒す手段でもある素材を売ってどうするのだ。呆れてため息をつけば、ゲオルグがムッと眉を寄せた。

「もとはといえば、あんたがあの男に武器を流すのがわりいんだよ」
「いいものはそれにあった使い手に手渡すべきだ」

 いさかいをしている間に注文したものをトレーに乗せて店員がやってきた。
 自然とお互い口を閉じた間に店員が慣れた手つきで目の前に料理を並べると、レシートを置いて去った。
 ホットケーキの上に乗ったバターの上に艶々としたメープルシロップが店内の照明を反射している。ホットケーキと紅茶を眺めていると向かいに座っていたゲオルグがわざとらしくため息をついた。

「この話はここまでにして食おうぜ」
「そうだな」

 クローツェルとて口論するために出かけに来たわけではない。
 さっそくフォークとナイフを手にホットケーキを一口サイズに切って口に運ぶ。途端に隠している尻尾があらわになりそうになった。また一口と食べていけば同じものを頼んだゲオルグがコーヒーを手に笑った。

「な、人間の飯も悪くはねえだろ?」
「ああ」

 素直にそう答えれば、ゲオルグは片眉をあげて目を丸くした。

「……その顔はなんだ」
「いや、あんたが素直に認めるとは思わなかった」
「本当のことを言ったまでだ」

 心底意外だという顔をしたゲオルグにクローツェルは少しむっとしながらホットケーキを食べ進める。ゲオルグはそんなクローツェルを見ながらコーヒーを飲んだ。
 喫茶店での食事を終えた二匹はぶらりと街を歩いた後、広場にある噴水の縁に腰を下ろした。

「たまには地上を見て回るのも悪くないな」
「それはよかったぜ。次はどこに行く? あそこか? それともこっちの方がいいか?」

 声を弾ませてゲオルグはどれもこれも似たような建物を指さして尋ねてくる。正直違いがわからない。景色をぼんやりと眺めている中、遠目からでもわかるようにホテルと書かれた看板がやや派手にライトアップされている建物が目につく。

「あのホテルというのは人間が一時的に寝泊まりする場所と記憶しているが」
「ん? あー……ラブホのことか。まあそんなとこだけど、気になるのかよ」
「ラブホ? ホテルとは違うのか?」

 聞いたことない単語に聞き返すとゲオルグは一瞬真顔になったが、すぐに気持ち悪いほど満面の笑みをした。

「いや、たいしてかわんねえよ。でも、女王様の望みとありゃ行かなきゃならねえよなあ」
「その笑みはなんだ。気持ち悪いぞ」

 立ち上がったゲオルグに続いてクローツェルも立ち上がれば、流れる動作でゲオルグが腰に手を回してくる。あまりにも自然なせいかあやうくそのまま歩き出すところだった。腰に回された手を掴んでジトっとゲオルグを睨んだ。

「私を雌のように扱うな」
「まあまあ、そうカリカリすんなって。俺からしたらあんたは恋人で保護対象なんだぜ。だからこうして俺がエスコートしてるわけだしな」
「余計なお世話だ」

 腰に回った腕を引き剥がそうと試みるが、がっしりとした筋肉質の腕はビクともしない。結局、ゲオルグの手が腰に回ったままホテルに向かって歩いていくことになった。

【リアクション】
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------------------------- エピソード21開始 -------------------------
【エピソードタイトル】
21

【本文】
 ゲオルグと一緒にホテルの中に入れば、無人だった。これでは手続きが出来ないのではとあたりを見渡していると、ゲオルグが入り口にのすぐ傍にある大きなタッチパネルを何度か触れた。そうすれば、パネルのすぐ傍からカードキーがでてきた。それを手に取るとクローツェルの方へと振り返った。

「部屋も決まったことだし、行こうぜ」
「ホテルとは受付をする人間がいるものではないのか?」
「そんなの建物によるだろ。時間制限があるし早く行こうぜ」

 ぐっと腰に回る腕に力がこもり引き寄せられる。自分の想像しているホテルとは違うような気がしたが、ここまで来たらせっかくだし泊まるのも一興だろう。
 エレベーターに乗って目当ての階につけば、ゲオルグがカードキーに書かれている番号と同じ番号の部屋の扉を開けた。

「ほお、ここがラブホというものか」
「勝手に入るなって」

 ぐいっと抱き寄せられるとゲオルグが部屋に向かって軽く手を振った。すると、柔らかな熱風が部屋全体を巡って消える。

「よし、これでいいだろ」
「なにをした」
「熱消毒だよ。人間が掃除しても、万が一うちの女王様になにかあったら困るからな」
「浄化の力を持つ私が」
「最後まで言わなくてわかるって。でも、ほかの奴らだってきっとそうしたぜ」

 腰に回していた腕をとくと部屋の中へと入っていく。後ろ姿をしばし眺めた後、クローツェルも続いて中に入った。
 室内は思ったよりも広い。大きなベッドが目につくなり、靴を脱ぎ捨てて寝転がればゲオルグが熱消毒したおかげかフカフカして心地よい。

「おい、靴脱ぎ捨てんなって」
「む、これはなんだ」

 ベッドサイドにある淡く光っているパネルを指差せば、ゲオルグが「ああ、これか」と興味なさげに呟いた。

「部屋の雰囲気を楽しむ装置ってやつ」
「雰囲気を楽しむ?」
「そ、例えばここを触ると」

 ゲオルグがボタンだと思われる場所に触れると部屋がパッと暗くなった。かと思いきや、部屋の中を小さな光が乱反射する。天井を彩る光の粒はずいぶん安っぽいが物珍しさから悪くない。

「ほう、面白い。ほかにはなにがある?」
「あとは音楽が流せたりとか」

 別のボタンに触れればゆったりとした曲調の音が室内を満たす。雰囲気というものを気にかけたことはないが人間が考えた装置は中々悪くない。ゲオルグのマネをして同じようにパネルに触れて部屋の雰囲気を変えれば、最初に入ったときとはまるで違う空気に鷹揚に頷く。

「ふむ、ラブホとはずいぶん愉快な場所なのだな」
「そう思うのはたぶんあんただけだと思うぜ」

 靴を綺麗にそろえて隣に腰を下ろしたゲオルグが肩をすくめた。
 パネルを一通り操作した後、ベッドサイドにある引き出しが目につく。反射的に引き出しをあければ、中には見覚えのないものがいくつかあった。真っ先に目に入った薄っぺらな四角いものを手に取って裏表をひっくり返して観察する。

「これはなんだ? なかに丸いものがはいっているが……」
「なにって、どうみても人間の雄が使う避妊具だろ」
「避妊具ということはセックスの時に使うものか」

 こんな薄っぺらなものをどうやって使うのか。まじまじと見た後、おもむろに封を破った。そうすればベッドの上に薄っぺらなコンドームが転がり落ちてくる。それを手に取ってゲオルグに差し出した。

「ゲオルグ、お前はこれが使えるのか?」
「あ? こんな小さいサイズじゃ立派な俺の息子は入らねえっつーの」

 ゲオルグはコンドームを手に取るとぽいっとゴム箱に捨てた。そして開けっぱなしの引き出しを覗くとクローツェルが手に取ったものよりも二回り大きいものを手に取ってひらひらと左右に振った。

「せめてこんぐらいなきゃ無理だからな。っていっても、人間のと俺のじゃ長さも太さも違うから結局使えねえけど」
「言われてみれば、そうかもしれないな」

 人間とセックスをしたことがないため比較はできないが、竜種によって性器の形状が違うのはこの短期間で嫌になるほど理解した。うんざりした気持ちで呟くとゲオルグが訝しむように睨んできた。

「ちょっと待て、あんた俺以外とやるときも生で中だしまでやらせてんのかよ」
「なにか問題あるか」
「問題しかねえだろ! 俺以外の奴のガキを孕んだらどうすんだよ!!」

 肩を掴んで睨んでくるゲオルグに思いっきり眉を寄せる。

「お前はなにを勘違いしている。竜と人では体のつくりは違うのだ。であれば妊娠する経緯も異なるだろう」

 あきれてため息をつけば、ゲオルグは赤い目を数度瞬いた。そして、今度はキラキラと輝かせながら顔と近づけてきた。

「てことは、好きなだけ中だししても問題ねえのか? 一晩中ずっとハメてても?」
「気持ち悪いことを聞いてくるな」
「いや、これは大事だぜ? なあなあ、どうなんだよ」

 クローツェルの額に額を押し当ててきたゲオルグがじっと見つめてくる。興奮したことで魔力がたぎっているのかいつになく赤い瞳が煌めいている。肩を掴む手も気のせいか少し熱い。ちらっと視線をずらせば、ゲオルグの赤い尻尾の先がせわしなく左右に揺れていた。
 これでは竜と言うよりも発情している犬だ。欲望に忠実すぎる様はいっそうすがすがしい。期待に満ちるゲオルグの瞳を半目になって見つめ返す。

「貴様の言う好きなだけ中に出すという行為をしても、私が孕むことはないだろう」
「なんで断言できるんだよ」
「そういうものだからとしか言えん」

 クローツェルですらよくわからない。ただ本能的にわかるだけだ。自分の体ながら難儀なものだと眉を寄せたくなる。

「そこまでいうなら試してみようぜ」
「なにをだ」
「一晩中、あんたのここを種漬けにするって話」

 ゲオルグが肩を掴むのを止め、かわりに腕の中へと抱き寄せた。そしてトントンと指先で下腹部を優しく叩いてくる。その手をたたき落としてジロッと睨んだ。

「ふざけたことをほざくな」
「ふざけてねえって。なー、いいだろ? その代わり今度女王様の言うこと何でも聞くからさ、な?」

 露骨に機嫌をとろうと額や目尻にキスをしてくるゲオルグを冷ややかに見つめた後、吐き捨てるように言い返した。

「結局、貴様はセックスをするのが目的だった訳か」
「俺としちゃ今日は我慢するつもりだったんだぜ? でも、あんたがラブホに行きたいって誘うからその気になったってわけ」
「なぜここへくることがセックスにつながるのだ。ホテルとは休息する場所だろう」
「普通のホテルはな。でも、ここは愛を深める場所なんだよ」

 身をかがめて触れるだけのキスをゲオルグがしてくる。

「安心しろって。今度も意識保ったまま気持ちよくするし、あんたが嫌だってことはしないようにしてやる」

 言葉や顔色こそ冷静だが、無意識なのかゲオルグの尻尾は小さく震えながらクローツェルの足に絡みついていた。あまりにも雄弁な反応は呆れすらでない。
 服越しにじんわりと伝わってくる少し熱いゲオルグの体温を感じながら重い口を開けた。

「寝ている間にやられても困るからな」

 チラッとゲオルグを上目遣いで見れば、ゲオルグは目を大きく見開くとゆるっと目を細めてグルルと喉を鳴らした。


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