全てを失った私を救ったのは…

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屋敷

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見た事象は必ず起こる。
それが外れた事はなく、近い未来私に降り注ぐ。
あの老人は多分執事か何かだろう、怒る表情、差し向けるステッキ…分かっているからこそ逃れたくなるが無理だ。
馬は一歩ずつ屋敷へと向かい、馬上から遠目にあの煉瓦調の建物が目に飛び込んできた。

「あれが俺の屋敷だ。…ま、見たんだろう?その能力で」
「……一つだけ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「妻にすると言ったけど、私はまだ15。この国ではまだ出来ないはず。それに、何故私を?会ったばかりなのに」

私の質問にニコルは『その能力を使えば俺を狙う危険をいち早く察知でき、不平不満を言う輩を処分できるからだ』と言う。
要するに妻と言うより側近に据える、と言った方がしっくりくる。

「不満か?それならすぐ降りればよい。
だが、降りたら最後、俺の一声で周りの衛兵に串刺しになるが」

支える左手をわざと緩め、降りるなら今だぞと促す。
緩めた事で体勢は不安定になりバランスを取れない私は降りると言うより落ちそうになり、また首元にしがみつく格好をしてしまう。

「無理そうだな、ならそのまま屋敷へと来るしかないな」

背中を掴み、また首元から引き剥がすと、強めにロータスの腹を蹴り歩みを進ませた。


※※※


そしてとうとう私はフィリス家の屋敷へと辿り着いてしまった。
分かっていたが、出迎えた大勢のメイドの目が全身に土を付けた私へと向けられ、口を押さえ隣の者と噂をする。

「な、な、何ですか!?ニコル様、その汚い娘は!?」

声を上げる先には私が見たあの老人だ。
いかにも執事だと分かる黒のタキシード姿、黒髪の中に混じる白髪、そして片目には丸いメガネをつけ、落ちない様にと縁には銀色のチェーンが付いており耳へと伸び…極め付けはあの黒いステッキ。

「必要だから連れてきた」
「必要、ですって!そんなみすぼらしい姿の者を屋敷に入れる訳にはいきません。…おい、お前!さっさとニコル様から離れろ!?」

能力で見たあのシーンだ。
黒ステッキを私に向け声を張り上げる、やはり未来が分かるなんて良い気分とは言えない。

「何をしてる、早く降りろ!?このドブネズミっ!?」

ドブネズミとは的を得ているのかもしれない。
土まみれで薄汚い私はこの場所に相応しい訳がない。

「やめろ、ファーラス」
「ファー、ラス?」

どうやらこの執事の名のようだ。

「やめろとはどういう事です?そもそも街に行くなんて一言も聞いてませんよ。何故勝手な行動をとるのです?
貴方様は王ですよ、何かあったらどうするんです?」
「質問ばかりで耳が痛いぞ、ファーラス。行きたいから行った、それだけだ」
「行きたいから行った?もう少し王になった自覚を……」
「衛兵っ!」

ニコルの一声でファーラスの周りには衛兵が集まりだした。

「な、何を?」
「うるさいぞ、ファーラス。こいつは、俺の妻にする。文句を言えば今すぐ首が飛ぶ事になる、いいか?」
「馬鹿なっ!?こんな奴を妻に、だと?」

ニコルの声にファーラスのみならずメイドも騒ぎだし、より私を注視してきた。
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