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今まで無かった事

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マリーを引っ張っていき、ある部屋へと向かっていく。

「お母様ぁ~…」

悲痛なマリーの言葉が廊下に響くがブライスはそんな事はお構いなしにグイグイと引っ張っていく。
必死に振り解こうとしているマリーだが、子供の力ではどうすることも出来ず…。

「やめて、ブライス。マリーが可愛そう」

部屋を出て追いかけていた私の言葉にブライスは立ち止まり私の方を振り返ると引っ張りながら近づいてきた。

「お前の教育がなってないからこうなったんだぞ、本当なら今罵倒してもいいんだが、待たせているから今はやめておく。だが…」

だが…といった後、もう一歩だけ近づいたかと思ったら私の右頬を軽くビンタしてきた。

「えっ…」

驚く表情を見せる私にブライスはジッと私の目を見続けると叩いた手でしっしっ…と部屋に戻るように促してくる。
邪魔だ…といってるように…。

そしてまた振り返ると廊下を歩き出し、行き止まりの部屋で立ち止まると扉を開け、先にマリーを投げ入れたら、一瞬だけ私の姿を見てから扉をしめた。

力強く閉めた扉のバンッと言う音が心に刺さり目に涙が溜まっていくのが分かった。

(叩かれた…)

婚姻を結んでから手をあげられることなんて今まで一度も無かった。
いや、婚姻をする前でさえ、手をあげるなんて一度もなく常に私の気持ちを優先してきてくれたブライスからは想像も出来ない行動を取られ、激しく動揺している私がそこにはいた。

「リーネ様!」

私の後を追いかけてきたロータスさんは1人立ち尽くす私を見るなり異変を感じ取っていた。
叩かれた右頬をさする仕草、そして目に溜まる涙、
それに今まで無かった行動への怖さからの震え。
混じり合った感情や態度がロータスさんにだだ漏れだった。

「…一体何が?」

「私は…間違っていたんだろうか…。
常に笑顔を振りまいていた。それに、邪魔にならないように求める事もしなかった。でも…今のは…」

ロータスさんの言葉など耳に入っておらずぶつぶつと独り言を言う私は異常な雰囲気だった…。
悲しい…。
悔しいよりも悲しい気持ちのが強すぎて今立っている事さえ辛く、すぐにでも座りこみたかった。

そんな私の気持ちを寄り添い、背中に軽く手を添え部屋に戻りましょうといってくれるロータスさんが嬉しかった。

「はい…」

力無く振り絞った言葉はすぐにでもかき消えそうなくらいだった。

本当はマリーの側にいてあげたい。
でも、今部屋に入ればもっと問題をこじれさせてしまいかねない。
戻ったら沢山抱きしめてあげよう…。
それが私に出来る事。
そう自分を納得させて…。
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