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知っていたのは…ユーリだけ

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「あの…どうしてもう名前が…?」

1人がレイ事務長に質問し、それに答えようとするがそれよりも先にユーリが口を開いた。

「それは私達が『調べられていた』からよ」

その発言にレイ事務長はこの子は…といった顔でユーリの事を見ていた。

「なによ、『調べられていた』って…。
なんであなたがそんな事知ってるのよ?あなた、誰よ?」

「私はユーリ。イシュバール家の者、と言えば分かる?」

「イシュバール、ですって!?」

驚いた表情を見せながら『イシュバール』と口にしユーリの事を見ていた。
それは私も一緒だった。
そんな中、レイ事務長はやっぱり…とボソっと言う。

皆が驚くイシュバール家はライオネス家を頂点とする貴族の階級の中でライオネス家のすぐ下に位置するくらい高貴な貴族だった。
街の要職に何人も登用され、ライオネス家の実質的な右腕のようなものだった。
それは表裏、クリーンな仕事もするが、人には言えないようなダークな仕事さえも受け持つと聞く。

「ユーリ、あなた…」

私の言葉にまた先程のようにニコっと微笑み返してくる。
ユーリが高貴な貴族である事を知ってからは黙りこくりレイ事務長の説明を淡々と受けていく。

「…ではこれをあなた達に預けます」

レイ事務長は持ち歩いていた鞄の中から鍵と赤い薔薇がモチーフされたブローチを出し、私達に手渡していく。

「これは…?」

「鍵はあなた達の部屋のです。ブローチはこのアカデミーにいる間は必ず見える所につけてください。
それがアカデミー生の証です」

ブローチはただのブローチでは無かった。
光に当たるとキラキラ光り、注意深く見ると随所に小さなダイヤモンドが埋め込まれそれが光に反射して光っていた。
絶対に高い物だ…すぐに皆そう思った。

ブローチを皆が見ている中、レイ事務長は鍵とそのブローチを無くしたら退学処分になると告げる。
鍵にスペアは無い。ブローチも代々卒業した者が返していく物だから、と言う。

それを聞いて無くさないようにと私はギュッと握りしめた。


「では、もう少し施設を案内したら今日は帰りなさい。明日は8時までにアカデミーの入り口に集まる事、良いですね?」

「はい!」

その後、再びレイ事務長について行き、講義を受ける場所、食堂、お風呂場など生活に必要な場所を次々と案内され、一通り見て回ると最初に入ってきた入り口へと戻ってきた。

そして私達がアカデミーを出ると5台の馬車が待機しており、それに乗り帰宅するように告げられた。
私とユーリ以外はすぐに乗り込みアカデミーを後にしていった。
でも私は馬車に乗り込むユーリに声を掛け引き留めた。
それは先程言っていた『調べられていた』と言うのがどういう事か知りたかったからだ。

声を掛けられ私を見る目は何故かホッとしているようにも見えた。
そして、乗り込みかけた馬車から降りると私の前に近づき一言だけ言ってきた。

「明日、8時より前に来て」と…。

それだけ告げたら急いで馬車に戻り、自分の屋敷へと向かい始めた。
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