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フリックさん

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マリーを残し、私達は目的のお店を目指す。
教えてもらった店は私の生家近くとのことだから自然とその道は歩き慣れており迷う事はなかった。

不意に空を見上げると雲がゆっくりと流れその合間から太陽が姿を表す。
それに手をかざし太陽を私は見た。
指の隙間から見える太陽は離縁する前とはなんだか違って見えた…。

「何してるの?リーネ」

いきなり空に手をかざす私を不思議に思ったのか疑問を投げかけるユーリ。
でも私が太陽を見る事を辞めないので同じように手をかざし始めていく。

「空を見上げるなんて普段あまりしないからね」

ボソリというユーリにかざしながら首を縦に振る私。

「さぁ、行こう。待たせてしまっては申し訳ないから」

「うん」

隣を歩くユーリを私は何も言わずにチラリと見ていた。
それはまだ私の中でモヤモヤしている『あの』事だ。
聞こう聞こうと喉まで出かかるが口には出なかった。

そんな状態のままお互いに歩き続けいていくと、私の生家が目に映った。
婚姻を結んでからは来ることがなかった生家。
その家に住む両親はもうだいぶ高齢になっており、やはりライオネス家からの援助が全てだと思う。

まだ私はブライスとの離縁は伝えていない。
でもやがてそれは知ることになると思う。
急に今まで受けていた援助が途切れてしまうから。

「あなたの家、ここなのね」

「そう…」

「…寄っていかなくていいの?」

呼びかけに足を私は止めた。

「ううん…いい。
いまはここより大事なことがあるでしょ…」

何年振りかに訪れた生家を私はすぐに後にした。
そして通りをまっすぐに向かうと一件のお店が見えてきた。

『Cafe Rei』

レイ事務長の名前を使ったオシャレなカフェだ。
屋根はレイ事務長の家と同じ赤く、店の外にはテラスもあり、その店の前で掃除をしている一人の年老いた老人がいた。

「あの人が、フリックさん…?」

「だと思う…」

私達の声が聞こえたのか掃除をする手を止め、こちら側を見てくる。
そしてほうきとちりとりを手にゆっくりと私達も元へと歩んできた。

「お前達か?レイがよこしたのは!?」

かなりぶっきらぼうな言葉で私達に投げかけてきた。
しかも、なぜか怒り口調だ…。

「あ、はい…ユーリと言います」

「…」

「お前、名前くらい名乗れんのか?」

「す、すみません。リーネです…」

「ふん、レイも面倒な事しやがって…。
人が増えたらやりづらくて堪らんじゃないか。
どれだけ増やせば気が済む…」

「あの、私達は…」

外でやり取りしていると店の中から一人の青年が姿を現した。
その青年が私達の関係を壊そうとは夢にも思わなかった…。
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