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出向いた先は… (その後 ③ )

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置かれた手紙を他の人に見られないように私はすぐにポケットに隠しやり過ごした。

ラークさんがいなくなった食堂は平穏を取り戻し、いつもの様な雰囲気で過ぎていく。
今回の件を他の常連達は気を遣ってか、私に聞いてくる事は無かった。

店を終え、マリーと共に家路に向かう際も繋いだ手よりポケットに隠した紙が気になり、マリーが話す言葉など上の空だった…。

「聞いてる?お母様?」

「え?…ごめん。なんだった?」

「なんだか変…ずっとボーっとしてる感じ。何かあったの?」

マリーは私とラークさんとのやりとりを知らない。
いや、むしろ知らない方がいい…。

「…ちょっと疲れちゃったみたい、早く帰ろうか」

気になる紙の内容だが、マリーが眠りにつくまではこれ以上悟られないように、と心掛けた。
そして寝静まった夜、私はずっと隠していた紙を取り出し中身を見る事にした。

そこには…

『2日後の正午、アカデミーの前で待つ。そこでブライス達の事教えてあげるよ』

と記してあった。

(今さら…)

私はもう関わる事はしたく無い。
この平穏の日々を壊されてなるものか…と心に決めている。
でも、紙の最後に記してある一文が私の心を揺り動かしていく。

『来ないならそれでもいいけど、本当にその選択肢は合ってるのかな?』

まるで来ないなら何かが起こる…と告げているようだった。
それに2日後は食堂が休みの日。
私が働く日で無い事も把握している様子だ。

一文から、まるでブライスやラークさん達の不適な笑いが聞こえてくるような感覚を覚えた…。

紙をテーブルにパサッ…と置くなり、私は頭を付け悩んだ。
行きたくない…でも行かないとそれこそ私以外の人に何かが起こる…。


その間の2日間は生きた心地がしなかった。
仕事はほとんど手に付かず、ミスの連続。
マリーの言葉もやはり聞いてるようで全く頭に入ってこなかった。

そして2日が経った朝…
外は今にも雨が降り出しそうな黒く厚い雲が広がっており、徐々にこちら側へと移動しているのが分かる。

仕事は無いのに部屋に飾った時計の針を何度も確認している私がいる。
そんな行動を取る私にマリーは…。

「ねぇ、お母様、何かあるの?朝からずっと時計ばかり見てる。今日、お仕事ないんでしょ?」

「え、えぇ、無いよ…」

「でもずっと見てる」

幼いマリーであっても私の異常とも言えるこの行動から何かある事はすぐに分かってしまっていた。
時刻は正午まで後30分を切っていた…。

この場所からアカデミーまでは少し距離があり、いま行けばまだ間に合う。
そんな時、ポツポツ…と窓に雨が当たり始め、次第にその雨音は強くなっていく。
そして、その雨は更に激しさを増し、あっという間に辺りを白くしていく。
何度も窓に当たる雨粒に目を送り、勢いよく下に流れていく水滴が私の気持ちを揺さぶる…。

(行くべきなんだろう…)

そう思い始めた、だから…

「マリー…お願い。絶対に家から出ないで…。
誰か来ても開けたり、声を掛けられても無視して!」

私は行く決意をした。
行かないとこの子に何か危害が加わるかもしれない…。
私にとってマリーは誰よりも守るべき存在。

何度も何度もマリーに言い聞かせ、家を出た。
土砂降りの雨の中、一歩ずつアカデミーに向かって行く。
激しく降る雨はあっという間に地面に水溜まりを作り、行く手を阻んでいく。

アカデミーまでの足取りはかなり重く、また、出来た水溜りが靴を濡らし、次第に染み出し足を濡らして行く。

街はこんな雨降りのため、歩いてる人はほとんど無く、たまに通る馬車が水溜りの上を通る度に水飛沫を上げて行く。

「…アカデミー」 

私の目に憎むべき存在になってしまったアカデミーが見え、徐々に鼓動が早くなっていった。

アカデミーの近くに来てもラークさんの姿は無く、私は辺りを見渡した。
誰も近くを歩く人は無く、私は降り続く雨の中、ポツンと立っていた。

すると、一台の馬車がアカデミー近くに止まる。
扉が開くとゆっくりと降り傘を差しこちらに歩いてくる人がいた。
土砂降りで視界は白く、私のいる場所からは少し距離があった。
それに、傘を顔の前に向け歩くため顔が分からなかった。

「ふふふ…」

不気味な笑い声。

そして…

「久しぶりだな、リーネ」

傘を上に上げると、そこにはラークさんではなく、ブライスが姿を見せた…。
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