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誘い

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早朝。
葵のスマホが鳴る。
半分寝ぼけながら、電話に出る。

「もしもし・・?」

『アオイか?エリックだ。今日、行きたい所があるんだけど付き合って貰える?』

「エリック・・?良いけど、今なんじ?」

『もう、朝の6時だ!』

「まだ6時?ちょっと、早起きなんじゃないの?」

『何言ってる?日本の諺に『早起きは三文の徳』ってあるだろ?』

「ほんと、変な事はよく知ってるわね?」

『何時なら都合がいい?』

「・・・うーん。9時位かな?その位にホテルに行くから待ってて。」

『わかった。じゃ、また後で!』

電話を切ると、葵は枕に顔を埋めた。

「・・・。」

もう一度眠りに落ちそうになる。

(起きるか・・。シャワーも浴びたいし。)

昨晩、葵が眠りに就いたのは午前3時過ぎだった。
まだ眠い目を擦りながら起き上がるとバスルームへ向かった。




眠気覚ましのコーヒーを飲んでいると、司がやって来た。

「おはよう。早いな?どうしたんだ?」

「エリックに叩き起こされたのよ。行きたい所があるんですって。」

「そうか・・。」

「何かあった?司も早いじゃない?」

「いや。葵に朝食でも作ろうかと思ったんだけど。」

「・・・。朝食位私でも作れるよ?」

「そんなこと言って、いつもコーヒーだけで済ませてるだろ?」

「司、お母さんみたい・・。」

「お母さんって、せめて兄貴位にしてくれよ?」

笑いながらキッチンに買ってきた食材を置いた。

「何時の約束なんだ?」

「9時頃行くって言ったけど。」

「まだ時間があるな?チャチャッと作るから食べてけよ。」

「わかった。ありがとう。」

二人で朝食を済ませる。
そろそろ、出掛けようかと思っていると葵のスマホが鳴った。

「はいはい?」

『アオイ?もう出掛けた?』

「ちょうど出掛ける所だけど?」

『折角だから、ツカサも一緒にどうかなって思ってね。』

まるで、葵の部屋を見ているかのような提案に目を瞬かせた。

「・・・。聞いてみないと解らないけど、大丈夫なら一緒に行くよ。」

『そうか。わかった。じゃあ、俺はロビーで待ってるよ。』

「そう。わかったわ。」

電話を切って司に向き直る。

「エリックからよ。司も一緒にどうかって?この後予定ある?」

「無いよ。でも、俺が一緒でも良いのか?」

「良いんじゃない。エリックのご指名だし。」

「そうか?じゃあ、一緒に行くよ。」

二人でホテルに向かう。
エリックの滞在しているホテルまで後少しだ。
ちょうど、ビルの補修工事をしていて歩道が半分ほどカラーコーンで塞がれている。
年配の警備員が気怠そうに誘導棒を左右に振っていた。
葵と司が工事現場の前に差し掛かった瞬間、100メートル位先のビルの屋上で何かが反射してキラリと光った。

「つかさっ!」

「えっ?」

咄嗟に先を歩く司の背中を押すと警備員の腕を引いて倒れこんだ。
その瞬間、ビルの周りに掛けられていた足場の一部が崩落した。
まさに、葵達の居た場所にだ。
辺りに、金属がぶつかる音が響く。

「大丈夫ですかっ!?」

中から作業服を着た人達が出てくる。

「あおいっ!!」

崩れた足場のせいで土埃がたっていた。その先で葵が立ち上がるのが見えた。
警備員は完全に腰を抜かしてしまっていた。

「大丈夫かっ?」

「うん。司は?」

「俺も大丈夫だ。」

「そう。良かった。」

慌ただしくなる現場を横目に先程のビルの屋上を見る。

(偶然?)

「おかしいな・・。朝チェックした時は大丈夫だったんだけどなっ?」

現場の責任者らしき人が呟くのが聞こえた。

「・・・。」

パトカーと救急車のサイレンの音が近付いてきた。
葵の判断のお陰で怪我人は出なかった。

「司行こう。面倒事に巻き込まれたくない。」

「わかった。」

二人は野次馬に紛れて工事現場を後にした。
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