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September
9月2日(月) ダンス演技
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体育祭本番まで一週間を切っている、今日この日。
それに際して、先週の午後のみという練習時間から終日へと伸び、朝から私たちは動きっぱなしであった。
午前はブロック応援の練習ということで、リズムに合わせてパネルをパタパタと捲り、みんなで一つの文字や図形を作り出す。
ただし、上手くいってもいかなくても同じ動作をひたすら何時間も繰り返すというのは一種の拷問のようであり、快晴ということも相まって照りつける陽の光が暑いったらありゃしない。
吸血鬼なら絶滅は必至。
日焼け止めがなかったら、人間さえも死んでいただろう。
「……まぁ、そんなわけないけど」
「…………? かなちゃん、何か言った?」
「別に、何でもない」
不思議そうに首を傾げる詩音。
そんな彼女をよそに、家から持ってきた水筒――その中身をゆっくりと喉に流し込んだ。
水分が体に染み渡っていく。
喉の渇きが癒え、乱れていた呼吸は落ち着きを取り戻し、そっと息を吐き出した。
「……それにしても、疲れた」
ただいま行っている練習は、男子の応援合戦と一緒に競い合う各ブロックごとに分かれた応援ダンス。
昼食を済ませた午後から早速それは始まり、以降は休みを挟むことなく一時間が過ぎ、こうして今へと至る。
――わけだけど…………疲れた。本当に疲れた。
私の体力のなさを舐めないでもらいたい。
「お疲れ様ー。……まだあと一時間あるけど」
詩音の言葉が耳に入る。
けれど、その内容のせいで素直には喜べず、むしろ辟易とするばかりだ。
「そ、そんな顔しなくても……。かなちゃん、カッコよく踊れてたよ!」
「…………ん、ありがと詩音」
でもね……いくら個人で上手くできようとも、全体ができていなかったら私は休めないのが世の常であり、厳しさ。
今なら、そらが団体競技を嫌う理由……分かる気がするな。
座りながらに天井を見上げ、もう一度水筒を傾けてクピリ。
ともすれば、今度は違う方向から別の声が届いた。
「――本当に、しっかりちゃんと踊れていましたね。……かなたさん」
「…………うげっ」
「あっ、先生も来てたんですね」
反射的に顔を向ければそこには、ゆるふわな顔と服と雰囲気で手を振りながら佇む私たちの担任が立っている。
「はい、来てました。それはそうと、かなたさん――『うげっ』とは何ですか、『うげっ』とは……! 女の子が使う言葉遣いではないですよ?」
「…………ごめんなさい」
そのいつもの笑みと、有無を言わさぬ圧をかけられてはさしもの私も頭を下げる他ない。
……やっぱり、この人は苦手だ。
「けれど、意外です……。かなたさんはダンスが得意なのですね」
「……いえ、別にそうでも…………」
おそらく練習風景から見ていたのだろう。
初めの言葉にもそういった旨が含まれているが、残念ながら違う。
できるからってそれが得意とは限らないし、逆に得意であるならここまで疲れたりはしないのだから。
「……でも、体力はないみたいですね。やはり、部活をしていなかったからでしょうか」
「…………かもしれないです」
これにも、賛同はしかねる。
部活に入ったところで、多分真面目には練習をしない自信があるぞ、私は。
何が悲しくて、興味もやる気もない部活動に私が独りで入らなきゃならないんだ。
「…………前から気になっていたのですが、かなたさん、私たちにだけ冷たくないですか?」
「…………………………………………普通です」
「ほら、やっぱり……今の返事だけ妙に間が長かったです」
くっ……これだけ当ててくるなんて。
しかも、『私たち』と言っているあたり、本気で分かっているみたい。
「そらくんや他の皆さんの時と、少し態度が違いますよね? 何故ですか? そこまで気に触るようなことをした記憶はないと思うのですが……現にそらくんは普通に接してくれる訳ですし」
「そうやって、すぐそらを引き合いに出すところ」――と、言えたらどれだけ楽だろうか。
でも、言ってしまえば負けになる。何となくそんな気がする。
だから言わない。教えない。
「――休憩はそろそろ終わりでーす! 練習の続きをしましょう!」
と、頑なに黙っていれば天の助けはやってきた。
応援団の副団長であり、ダンスの振り付け考案者だもある女子の先輩が声をかけてくれたので、私は真っ先に立ち上がる。
「…………じゃあ、先生。練習があるので」
「えっ……かなちゃん!? ち、ちょっと待って……話はいいのー?」
一言断りを入れれば、あとは振り返らない。
背後からは、慌てふためく親友の声。それを耳にしつつも、テクテクと自分の立ち位置へと歩みを進める。
「さて……練習、頑張るぞー」
…………ホント、二葉先生とそろってあの従姉弟たちが私は苦手だ。
それに際して、先週の午後のみという練習時間から終日へと伸び、朝から私たちは動きっぱなしであった。
午前はブロック応援の練習ということで、リズムに合わせてパネルをパタパタと捲り、みんなで一つの文字や図形を作り出す。
ただし、上手くいってもいかなくても同じ動作をひたすら何時間も繰り返すというのは一種の拷問のようであり、快晴ということも相まって照りつける陽の光が暑いったらありゃしない。
吸血鬼なら絶滅は必至。
日焼け止めがなかったら、人間さえも死んでいただろう。
「……まぁ、そんなわけないけど」
「…………? かなちゃん、何か言った?」
「別に、何でもない」
不思議そうに首を傾げる詩音。
そんな彼女をよそに、家から持ってきた水筒――その中身をゆっくりと喉に流し込んだ。
水分が体に染み渡っていく。
喉の渇きが癒え、乱れていた呼吸は落ち着きを取り戻し、そっと息を吐き出した。
「……それにしても、疲れた」
ただいま行っている練習は、男子の応援合戦と一緒に競い合う各ブロックごとに分かれた応援ダンス。
昼食を済ませた午後から早速それは始まり、以降は休みを挟むことなく一時間が過ぎ、こうして今へと至る。
――わけだけど…………疲れた。本当に疲れた。
私の体力のなさを舐めないでもらいたい。
「お疲れ様ー。……まだあと一時間あるけど」
詩音の言葉が耳に入る。
けれど、その内容のせいで素直には喜べず、むしろ辟易とするばかりだ。
「そ、そんな顔しなくても……。かなちゃん、カッコよく踊れてたよ!」
「…………ん、ありがと詩音」
でもね……いくら個人で上手くできようとも、全体ができていなかったら私は休めないのが世の常であり、厳しさ。
今なら、そらが団体競技を嫌う理由……分かる気がするな。
座りながらに天井を見上げ、もう一度水筒を傾けてクピリ。
ともすれば、今度は違う方向から別の声が届いた。
「――本当に、しっかりちゃんと踊れていましたね。……かなたさん」
「…………うげっ」
「あっ、先生も来てたんですね」
反射的に顔を向ければそこには、ゆるふわな顔と服と雰囲気で手を振りながら佇む私たちの担任が立っている。
「はい、来てました。それはそうと、かなたさん――『うげっ』とは何ですか、『うげっ』とは……! 女の子が使う言葉遣いではないですよ?」
「…………ごめんなさい」
そのいつもの笑みと、有無を言わさぬ圧をかけられてはさしもの私も頭を下げる他ない。
……やっぱり、この人は苦手だ。
「けれど、意外です……。かなたさんはダンスが得意なのですね」
「……いえ、別にそうでも…………」
おそらく練習風景から見ていたのだろう。
初めの言葉にもそういった旨が含まれているが、残念ながら違う。
できるからってそれが得意とは限らないし、逆に得意であるならここまで疲れたりはしないのだから。
「……でも、体力はないみたいですね。やはり、部活をしていなかったからでしょうか」
「…………かもしれないです」
これにも、賛同はしかねる。
部活に入ったところで、多分真面目には練習をしない自信があるぞ、私は。
何が悲しくて、興味もやる気もない部活動に私が独りで入らなきゃならないんだ。
「…………前から気になっていたのですが、かなたさん、私たちにだけ冷たくないですか?」
「…………………………………………普通です」
「ほら、やっぱり……今の返事だけ妙に間が長かったです」
くっ……これだけ当ててくるなんて。
しかも、『私たち』と言っているあたり、本気で分かっているみたい。
「そらくんや他の皆さんの時と、少し態度が違いますよね? 何故ですか? そこまで気に触るようなことをした記憶はないと思うのですが……現にそらくんは普通に接してくれる訳ですし」
「そうやって、すぐそらを引き合いに出すところ」――と、言えたらどれだけ楽だろうか。
でも、言ってしまえば負けになる。何となくそんな気がする。
だから言わない。教えない。
「――休憩はそろそろ終わりでーす! 練習の続きをしましょう!」
と、頑なに黙っていれば天の助けはやってきた。
応援団の副団長であり、ダンスの振り付け考案者だもある女子の先輩が声をかけてくれたので、私は真っ先に立ち上がる。
「…………じゃあ、先生。練習があるので」
「えっ……かなちゃん!? ち、ちょっと待って……話はいいのー?」
一言断りを入れれば、あとは振り返らない。
背後からは、慌てふためく親友の声。それを耳にしつつも、テクテクと自分の立ち位置へと歩みを進める。
「さて……練習、頑張るぞー」
…………ホント、二葉先生とそろってあの従姉弟たちが私は苦手だ。
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