EDC(Every Day Carry:常時携帯)マニアの元ガンオタが異世界に飛ばされたら

タカ61(ローンレンジャー)

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礼拝所を出て、今度は商店へ向かう。まずは薬屋だ。

重い扉を開けると、漢方薬などの独特な香りが漂っていた。この香り、嫌いじゃないんだよな。婆ちゃんが飲んでいた漢方薬の香りによく似ている。懐かしい感じがした。思わず深呼吸してしまう。

昂ぶっていた気分が落ち着いたので店内を見回していると、奥から赤髪を一つに纏め、丁髷の様に結った若い男性が出てきた。

ああ、薬師さまのところに弟子入りした1人だな。そう思いながら見ていると、笑顔を浮かべて話しかけてきた。

「いらっしゃいませ。本日はどの様な物がご入用ですか?」

いや、ご入用の物は無いんですが、とは言えない。冷やかしは迷惑だからね。

「実は素材の買い取りをお願いできないかと思い伺ったのですが、直接買い取りはしていただけますか?」

そう尋ねると赤丁髷は、

「只今お師匠様に聞いて参りますので、少々お待ちください。」

と告げて奥へと戻っていった。

手持ち無沙汰なので店内を見回し、黒板の様な物に掛けてある木札の下に、手書きで書かれたポーションの値段を確認する。

掛けてある木札は怪我治療の文字が書かれた物と、何も書いていない木札が4つだ。

恐らく何も書いていない木札の裏には、病気治療、状態以上回復、体力回復、魔力回復と書いてあるのだろう。

素材不足で作れなかったのか、そもそも需要が少ないので在庫はしていないのか、どちらなのかは分からない。それはこれから確かめれば良い事だ。

怪我治療ポーションの値段は銀貨25枚と書いてある。物流も人材も豊富な王都や領都とほぼ変わらない値段となると、薬師としての腕前は確かだ、という事だ。

それとも素材の鮮度や中間マージンのせいか?ここは遠慮なく訊いてみよう。

そう思いながら待っていると、白髪交じりの茶髪を短く刈り込んで、角刈りっぽい髪型をした男性がやって来た。

年配だが引き締まった体つきで、ヒゲは綺麗に剃られ、肌はツヤツヤしている。薬草を扱う副作用なんだろうな、と思いながらカウンターまで来るのを待つ。

「素材の直接買い取りを申し出たのはお前か?」

ちょっと高圧的な態度で言ってきた。まあこの手の研究者肌の人は、大体がこんな感じだろう。そこは割り切っているので気にならない。

「はじめまして。私は猟師のタカと申します。冒険者ギルドで素材の納入をしていた際に、素材切れで薬師様が困っているとの話を聞いて参りました。私の持っている素材で何かお手伝いできれば、と思いお伺いした次第です。

私はポーションの作成に必要な素材については全く知らないので、薬師様から欲しい素材名と量を仰っていただければ、ご用意できる物は直ぐにこちらにお出しします。値段については薬師様からご掲示ください。

ただ、冒険者ギルドの買い取り額と比べてあまりにも安すぎると私が判断した場合、売却は取りやめ他で販売しますのでご了承ください。

また、採取場所や採取方法などは訊かれてもお答えできませんのでご容赦願います。」

先に取引の条件を告げておく。これで異論が出るなら販売はしない。

実は冒険者ギルドで納品したのは1/3だけだったのだ。ここで残りの素材を少し融通し、その代わりに薬師の元で調合の勉強ができれば、異能力で作ったポーションを売る事もできるのではないか、と思ったのだ。

一般的に薬師が調合して販売しているポーションは、使用期限が1年と定められている。1年を過ぎると徐々に色が薄れ、それに合わせて薬効も著しく減少していくのだそうだ。

俺が異能力で作る女神ルーテミス様印のポーションは、使用期限は5年。その後1年ごとに薬効が10%ずつ減少していくのだそうだ。薬効が半分になるのが10年後、薬効が完全になくなるのが15年後。とてつもない品質だ。

これは全て「女神の愛し子」のおかげ、という事にしてしまおう。だって、マトモな調合なんて知らんもん(笑)。

さて、どんな態度で来るかな?と思っていたら、案の定鼻で笑いやがった。

「フッ。お前のような幼い冒険者に私が望む素材が用意できるとでも?軽く見られたものだな。この村の腕利きの冒険者たちでも揃えられない素材が、どうやって揃えられると言うのだ?全く、冗談にも程がある。

そうだな、高麗人参と杜松の実、山ワサビ、ゲンノウショウコ、これくらいを採取できるようになってから来るんだな。まあ、何年かかるかは分からんが。」

思いっきりバカにしてやがる。ふーん、俺が若いからってそんなに上から来るわけだ。

ちょいと頭にきたので、俺は何も言わずに収納から買ったばかりの木椀を出してカウンターに並べ、その木椀の中に高麗人参、杜松の実、山ワサビ、ゲンノウショウコを入れていく。

薬師は息を呑んだ。呼吸も忘れるほど驚いていた。恐る恐る震える手を伸ばし、俺が出した素材を手に取ろうとした。その手に触れる正にその瞬間に、全て収納へしまった。

「な!何を!今の素材をどこにやった!」

怒鳴る薬師に向かって冷たい声で告げる。

「どこにやったも何も、今お見せしたのは私が採取してきた素材です。まだ売るとも何とも言っていないのに、断りもなく手で触れようとしたから片付けたまでです。

そもそも、薬師様のお力になれればと伺った私を小馬鹿にして、高飛車な態度で対応されたのに、何故貴方に素材をお渡ししなければならないのですか?私だって売る相手は選びます。

ギルドに納入した分についてはその後誰に売却されようが私の出る幕ではありませんが、手持ちの分については私の自由にさせて頂きます。それではお邪魔しました。」

それだけ告げてぺこりと頭を下げ、踵を返して出入り口へ向かう。扉をくぐるその時に、

「ま、待て!待ってく」

後ろから声が聞こえたが、最後まで聞かずに扉を閉めた。

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