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第三十七話 学園都市

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 年が明け、異世界に来て二年目となった。魔王復活まで残り約四年の今日は先生に集められ、以前と同じ部屋でクラス会議となった。この部屋では碌な事が起きないと思い、身構えていると案の定王都が面倒なことになっていた。

 それは先日起こった災害襲来の際に雅人のトドメを刺した姿を見て、雅人を勇者だと騒ぎ出す人が出てきたらしい。それの何が問題なのかと言うと聖王国や帝国でも同様に勇者の召喚については伏せてある。その理由は長い歴史の中で勇者が召喚された場合近い年に魔王が復活すると知っているためである。
 混乱を起こさないために勇者の召喚は伏せ、水面下で魔族に対する対抗できる力をつけることになっている。
 だが今回のことで王都中に雅人が勇者ではないかと噂が立ちこのままではまともに訓練が出来なくなってしまった。

 その対応策で俺たちは学園都市に行くことになった。
 学園都市ルシバイズ。それは大陸の中心に位置し、王国、帝国、聖王国含めどこの国家にも属さない完全中立都市のことである。世界各国から人が集まり、王族中には学園都市を卒業しなければ王位を継げない国もあるほどの大学園である。
 さらに学園都市に行くことでゆくゆく必要となる人脈を築き、力をつけるためである。
 さらに先生は続ける。最後の話は俺たちというより雅人に関係してくるものである。

「今回のことを経て帝国及び聖王国の勇者も学園都市に行くこととなったそうです」

 大国の力関係を保つために行われた三国同時勇者召喚によって呼ばれた勇者が一堂に会する。これは今までの歴史上類のないことである。
 勇者は決まって当時最も覇権を握っていた国が召喚するものである。三国の力がほぼ同列で均衡を保っていることがまずおかしいのである。
 このことは雅人には相当な負担を与える。勇者である雅人はいわば王国の最終兵器である。それは他国にも抑止力として映る。その力を知りたいと思うのは帝国も聖王国も一緒であり、劣っていると思われればそれだけで抑止力としての役割は薄まる。
 だが雅人の目にはしっかりとした覚悟を感じる。

「負けませんよ。誰にも」

 その言葉にはどうやら俺も含まれているらしく一瞬だが目が合う。
 今回は希望者ではなく召喚者全員となる。ここで那須君(ばか)が手を挙げて限りなく失礼なことを口走る。

「先生は俺たちと同い年じゃないのに学校通えんの?」

 その言葉に全員が那須君を見る。先生の圧が高まる。持っていた紙がくしゃくしゃになる。答えは笑顔で「行きますよ」だった。誰も触れなかった所に土足で踏み込んだのもだが、それ以上に先生の答えに対し「よかったね」という屈託のない笑顔で答える。恐らく本心でそう思っているのだろうが、言っていることは嫌味にしか聞こえない。

 というわけで先生も含めた全員で入学することになったのだがここで一つ問題がある。学園都市に入るためにはつまり学園に入学するためには試験を受けなければいけないのだ。
 さっきも言ったがルシバイズは完全な中立都市であるがゆえにどんなに権力があろうと裏口入学はできないのだ。その分どんな身分でも実力さえあれば学問を学ぶことが出来るというのが売りなのだ。ちなみに宰相のギリアズは元平民ではあるがルシバイズを卒業している。文句ないの秀才なのだとか。
 さて入学試験を受けるにあたって決めなければならないことがある。それは試験内容である。なんとこの学園試験内容を自分で決まることが出来るらしい。しかしもちろん完全に自由というわけではなくいくつかある項目の中から自分が得意とするものを三つ選び、それらが合格基準に当てはまっていれば合格とのこと。
 受験内容の締め切りは明後日までとなり、その日は解散した。

「学園都市か~~。千佳ッチとの学生生活」

 気持ち悪いな。
 滝下は話が終わって以降ずっとこんな感じだ。どうやら吉田先生との学生生活に思いを馳せているようだった。俺は滝下を無視し渡された試験科目の紙を見る。そこには模擬戦や魔法の実技などメジャーなものから曲芸披露などよくわからないものまで多種多様だ。
 やはり最初に選ぶなら算術だろうか。
 この世界の数学いや算数は正直言った簡単だ。高校生の高二ともなれば微分や積分などを習う。だがこの世界の算数はよくて小学生三年生程度である。つまり掛け算、割り算が出来ればいいのだ。ちなみに筆算は存在しませんでした。
 だが選ばないといけないのは三つである。そしてそれぞれで合格点を出す必要がある。
 そして提出の日が来た。俺が選んだのは算術、模擬戦、魔法理論である。模擬戦に関しては雅人を含め多くの人が 選んでいた。魔法理論は刻印魔法の勉強である程度知っているので多分余裕だろう。
 それからありがたいことに試験までそれぞれの教科の先生に教えてもらった。
 俺たちは各々かかわりのあった人たちにあいさつ回りに行っていた。俺もガテンさんの店に行った。

「・・・・という訳で、今日限りでここを辞めさせてもいます。本当にお世話になりました」

 俺は深々と礼をした。ガテンさんは終始俺の方を見なかったがその背中には寂しさを感じた。
 次の日、ジルバルさんや王様ギリアズさんに見送られながら王都を出た。

「あれ? なんでアリアさん乗ってるの?」

 何故か同じ馬車にアリアさんが乗っていた。不思議に思い聞いてみるとなんとアリアさんは今回護衛のため俺たちと同様に学園に入学するとのことだ。アリアさんは騎士団の副団長をしているが十六歳となんと年下だった。
 斯くして俺たちは学園都市へ向かった。
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