この恋は叶わない

黒猫鈴

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来たのは校舎入り口。
早朝だったこともあってか登校してくる生徒達を見ながらカインは私に振り返った。
私を見るカインに私は気まずくなり下を向く

本当にここで?

周りには沢山の…生徒達。
怪訝に此方を見ながら、でも話し掛ける訳でもなく通りすぎていく。
カインを見ると覚悟を決めたように、真剣な瞳。

そして

「…なぁ、」

愛おしそうに呟く。
優しい…本当に恋人を呼ぶような…

偽物だって分かってるけどドキリ、としてしまう。
ぼんやり目の前のカインを見つめる。
彼から目が離せない。

「…アカリ」

肩を抱かれた。

周りがざわめき出す。
どうして!?と焦る生徒達の声を聞きながらも…。

「するぞ」

小さく呟いたカインに頷く。
それを合図に近付いてくるカインの顔。
大好きな彼の顔。
私に…キスをする為一生懸命に屈む彼。

嗚呼…愛おしい…。
愛おしいよ…。

私はぎゅっとカインの背中に手を回した。

そして段々近付くカインの顔に私はゆっくりと瞳を閉じる。

そして、

チュ…

啄むような、キス。
子供がするような、唇だけが少し合わさるようなキス。

「っ」

それでも赤くなって、嬉しいと思う私。
泣きそうになり、それをぐっと抑えた。

涙を抑えつつ…もういいかな、と
目を開けると、まだ近くにある彼の顔に一歩下がってしまう…。
しかし肩にあるカインの手がまた引き戻して、

不意にまた近付くカインの唇がそっと頬に触れた。

目を見開く。
そんなこと…予定にないのに…。

「…おまけ」

ぼそりと、私の耳で言ったカイン。
顔を見ると悪戯そうに笑う彼。

ああ、なんて…愛おしいんだろう…。

それと同時に…酷い人だとも思った。


周りは一部始終みていた生徒達が騒いでいる。

この状態じゃ、すぐ噂が駆けめぐりそうだ。

…よかった。

「いくぞ」

彼も満足そうに笑っていて、その顔をみて私も嬉しくて、あなたの役に立てたことが嬉しくて、私も微笑んだ。




生徒達が集まる教室には居づらい為、役員室に連れてこられた。私は初めて入った役員室を見回しながら椅子に座り、カインはテーブルを挟んで私の前の椅子に腰を下ろす。
なんて言ったらいいか分からなくて、黙っていると

「っうまくいったな!」

無邪気に笑うカイン。

「そうだね」
「ああ!これであいつが嫉妬してくれるといいけどな」

大丈夫だよ、きっと彼女は嫉妬するよ。
だって彼女はカインが好きだから…愛してるから…。

だから…大丈夫だから…今だけは、私のこと…考えててよ…。

「…ぇ」

息をのんだ。

なにを考えているんだろう?
なに言ってるんだろう?
見ているだけでいい…このままの関係でいいと、そう決めたのは私だ。

何を…考えた?

私のことだけを考えて…なんて…。

なんて我が儘。
なんて馬鹿。

キスしただけでつけあがるなんて…滑稽すぎる。

はっ、と鼻で笑ってしまった。

私なんて、カインの仮の…恋人なだけだ。
つけあがるな、私。
醜いぞ…私。



「ありがとうアカリ」
突然のカインからの御礼にハッとして勢い良く首を振る

「ううん、それよりうまくいくと良いね」

彼女と早く仲直りして…私なんて見向きしなければいい…。
そうした方が諦めがつくのに…

こんな醜い感情なんて消せるのに

「…なぁ」

カインが立ち上がり私の側まで歩いてくる。

「ど、どうしたの?」

なんとか平常心にそう言うが、近付いてくるカインの顔に耐えられず真っ赤になった。
その反応にカインは何故か笑って

「なぁんかさ…初なのか?…本当に初キスじゃねぇのか?」

「っ初キスじゃない!」

意地になって叫ぶ

相手は犬だけど、でもキスだ!
あなたとのキスは…初キスなんかじゃない…!

「…そっか…、キスのとき、面白いくらい震えてて可愛かったから…」

「っ」

可愛い…なんて…

「なぁ、本当は初キスなんだろ?」

ニヤニヤ。
彼はきっと私をからかっているだけ…。

それでも可愛いなんて言われて…嬉しくて…。

「なぁ、なんなら深い方してみねぇ?」
「…ば、馬鹿じゃないの!」

近付く彼を懸命に押すが、手をガチリと掴まれ…

「…目、閉じろ」

囁くように言われて…
私は諦めたように目を瞑る。

チュ…クチュ…

「う…ん…はぁ…」

彼からの2度目のキスはしつこくて…でも素敵で…

「…はぁ」

離れていく唇にうっとりしながら息を吐いた。

「…エロ」

呟く言葉に目を開け、目の前のカインを叩いた。

「いてっ!だって…赤くなって、あんな声出して」
「っし、仕方ないじゃない!あんな深いキスは初めてだし…大体あなたの、カインからのキスだから…っ感じてしまうの…よ…」

途中で止めた。
目の前には息をのんだカインの顔。

「…っ」

今、私はなんて言ったの?!

「あの、さ…」

あなたからのキスだから感じてしまう…なんて…もうカインが好きだと言っているようなものじゃない…。

「もしかして…」

カッと赤くなる。

私の馬鹿!

「で、出てって!」
「うわっ」

カインの腕を引っ張り勢い任せに放り投げる。
カッコ悪く床にキスをしたカインを見て、私は謝りながらもバタンと扉を閉めて、もう入ってこれないように鍵もかけた。
「…はぁ」


もう…彼には顔をあわせられない…かもしれない。

「ううん、そっちのほうが…いいのよ」

最初から…見ているだけでよかったのよ…。
そうした方がこんなに辛くなかったかもしれない。

「…駄目な女…馬鹿な女」

溢れ出す涙を拭うことなく、私は宙を見つめぼんやりしていた。

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