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8:牛頭ミノタウロスの迷宮と陵辱と※
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想像していたよりも大きくはない。だが、二倍近くはあるだろう。さらに、問題はその横幅だ。
腕を伸ばされたら、行く手を阻まれるどころではない。巨石すら楽々と抱き潰すのではないだろうか。
ボコボコと岩のように盛り上がった肩や胸、腕や脚は。筋骨隆々という言葉の域を超えて、もはや全身が鋼でできているような印象だ。
(まずい・・・)
前を向いていた牛頭がグルリと首を曲げて、視線を向けてきた。
真っ赤にギラつく瞳と、剥き出しとなった黒い唇の間から見える、上下の尖った犬歯は。野獣以外の何物でもない。自然と嚥下する。
「フーーッ・・・フーーッ・・・」
金属でできた大きな鼻輪を荒い鼻息で揺らしながら、睨みつけてくる。その腰や手首には、分厚く重たそうな鋼鉄の装身具がガシッと巻き付いている。
おそらくは、横に長く伸びて、グニッと先端が大きく上に曲がっている角でさえも。金属でできているのかもしれない。そんな疑念が湧き起こる。
「なんだぁあ"ぁ~ だれだぁあ"ぁ~」
訛りの強い濁った声で。
ドスンッ!!
と一歩踏み出したその姿に、常軌を逸した音と振動の理由を理解した。
脹ら脛から下が茶色い蹄なのだ。生身というよりは銅で作られているかのように重々しい。
「母ちゃんのあだらしいおもちゃがぁ~? フーーッ・・・フーーッ・・・んがぁ、日がはやいがぁ・・・」
肩との境界線などないような太い首を。傾けた怪物を前に、考えることは一つだ。どうやって、この状況を回避するか。どうやって――
後ろは壁だ。つまり、この部屋は行き止まりなのだ。咄嗟に天井を見上げる。
(えっ・・・どういうことだ・・・)
だが、意表をつかれて面食らう。確かに上から落ちてきたというのに、穴のようなモノが一切ない。
代わりに一面が半ば透き通っていて。その上、表面をキラキラと雪の結晶に似た形が無数に、そして緑色に輝きながら覆っている。
(呪符か・・・)
中心から枝が長く六つに分かれて飛び出ているかのような、その樹枝六花の形には。強力な邪気が漂っている。壁をつたって上がる手段があるのだろうかと視線を巡らした。
(あれは・・・そうか、あそこから上がれるか・・・だが、開くだろうか・・・)
左の寝具の脇の壁に、梯子のような物が天井に向かってかかっている。誰かがモノを下ろす時に使うのかもしれない。すかさず、天秤にかけて考えた。
(それか・・・あの巨体をくぐり抜けて、向こうの通路に逃げるか・・・だ)
ドスンッ!! ドスンッ!! ドスンッ!!
確実に接近してくる怪物を目の端に捉えながら、
(どうする? どうする?)
と焦りつつも、頭を余すところなく使う。
通路に逃げた場合、捕まってしまったら、一貫の終わりだ。それなら、たとえ開かなくても、手が届かないだろう天井に上って逃げる方が得策にも思える。
(よし、梯子だ)
ケールを抱えたまま左に向かって、走り出す。だが――
「どごへいぐぅ"ぅーー!!」
叫ぶや否や、ブォォンッと手に持っていた棍棒を投げてきた。
「ガウガウガウガウッ!!」
弱っていたケールが腕の中から飛び出した。
腕を伸ばされたら、行く手を阻まれるどころではない。巨石すら楽々と抱き潰すのではないだろうか。
ボコボコと岩のように盛り上がった肩や胸、腕や脚は。筋骨隆々という言葉の域を超えて、もはや全身が鋼でできているような印象だ。
(まずい・・・)
前を向いていた牛頭がグルリと首を曲げて、視線を向けてきた。
真っ赤にギラつく瞳と、剥き出しとなった黒い唇の間から見える、上下の尖った犬歯は。野獣以外の何物でもない。自然と嚥下する。
「フーーッ・・・フーーッ・・・」
金属でできた大きな鼻輪を荒い鼻息で揺らしながら、睨みつけてくる。その腰や手首には、分厚く重たそうな鋼鉄の装身具がガシッと巻き付いている。
おそらくは、横に長く伸びて、グニッと先端が大きく上に曲がっている角でさえも。金属でできているのかもしれない。そんな疑念が湧き起こる。
「なんだぁあ"ぁ~ だれだぁあ"ぁ~」
訛りの強い濁った声で。
ドスンッ!!
と一歩踏み出したその姿に、常軌を逸した音と振動の理由を理解した。
脹ら脛から下が茶色い蹄なのだ。生身というよりは銅で作られているかのように重々しい。
「母ちゃんのあだらしいおもちゃがぁ~? フーーッ・・・フーーッ・・・んがぁ、日がはやいがぁ・・・」
肩との境界線などないような太い首を。傾けた怪物を前に、考えることは一つだ。どうやって、この状況を回避するか。どうやって――
後ろは壁だ。つまり、この部屋は行き止まりなのだ。咄嗟に天井を見上げる。
(えっ・・・どういうことだ・・・)
だが、意表をつかれて面食らう。確かに上から落ちてきたというのに、穴のようなモノが一切ない。
代わりに一面が半ば透き通っていて。その上、表面をキラキラと雪の結晶に似た形が無数に、そして緑色に輝きながら覆っている。
(呪符か・・・)
中心から枝が長く六つに分かれて飛び出ているかのような、その樹枝六花の形には。強力な邪気が漂っている。壁をつたって上がる手段があるのだろうかと視線を巡らした。
(あれは・・・そうか、あそこから上がれるか・・・だが、開くだろうか・・・)
左の寝具の脇の壁に、梯子のような物が天井に向かってかかっている。誰かがモノを下ろす時に使うのかもしれない。すかさず、天秤にかけて考えた。
(それか・・・あの巨体をくぐり抜けて、向こうの通路に逃げるか・・・だ)
ドスンッ!! ドスンッ!! ドスンッ!!
確実に接近してくる怪物を目の端に捉えながら、
(どうする? どうする?)
と焦りつつも、頭を余すところなく使う。
通路に逃げた場合、捕まってしまったら、一貫の終わりだ。それなら、たとえ開かなくても、手が届かないだろう天井に上って逃げる方が得策にも思える。
(よし、梯子だ)
ケールを抱えたまま左に向かって、走り出す。だが――
「どごへいぐぅ"ぅーー!!」
叫ぶや否や、ブォォンッと手に持っていた棍棒を投げてきた。
「ガウガウガウガウッ!!」
弱っていたケールが腕の中から飛び出した。
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