上 下
151 / 169
14:囚われて※

しおりを挟む
 「な、なに・・・言ってるんだよ」

  誰かがいる前で、そんな言葉を口にするなんて。一体、どういうつもりなのか。以前、自分が口にした言葉を真似したのか。

 (なんだよ、それ・・・)

 嬉しいけれども、猛烈に恥ずかしくもあって。頬がカッカッと赤らむのを自覚しながら、チラリと上目遣いに見つめる。と――

 (ふざけてはいない・・・)

 見下ろす顔は、どちらかと言うと至って、真面目な表情をしている。本気なのだ。

 (もう・・・)

 顔どころか身体全身が熱くなりそうで。下を向きながら、モゾモゾと。毛布デルマから腕だけでも出そうと身を捩ると、バッと外套クライナが取り払われた。

 「と、とにかく・・・時間かけずに・・・済ませてくるから・・・戻りたかったら、先に・・・帰ってていいから」

 「なにかあったら、すぐにオレを呼べ。いいな」

 「う、うん・・・わかった」

 意思を変えそうにない相手に、クルリと背中を向けて。裾を極力引きずらないように持ち上げながら、岩戸に向かってオタオタと歩き出す。

 「ケール、ついて行け」

 「ワフッ!!」

 用命を受けた小型の魔獣が足下へと躍り出て、従僕たちが猫の頭を下げたままの状態で尋ねてくる。

 「そちらの岩壁に手を付いて、横にお開け下さい。私どもも中に入って、介添えいたしましょうか?」

 「いや、いい。大丈夫だ」

 この状態の裸を見られたくはないが、その提案は元より。背後に立っている者がまずは許さないだろう。

 スォンッ・・・・・・スーーーッ・・・・・・

 触れた途端に、柔らかい光を発した岩の扉が。横に押すと、難なく一人分が入れるほどの隙間で開いた。

 中をのぞいてみる。と薄暗い中、奥に青白い光が見えた。

 「そのお姿で泉に入られても問題ございません。大半は浄化の炎で焼き尽くされます。ですので、大切なモノはお外し下さい」

 「沐浴が終わられましたら、傍らにある鈴を鳴らして頂ければ、お着替えを中にお入れします」
 
 「わかった・・・・・・行ってくる」

 説明に同意した後、腕を組んで、じっと見守っているアトラスに告げて、踏み入れる。その傍らをケールがすぐさま、ターッと走り抜けた。途端に、

 スーーーッ・・・・・・

 と岩が閉じられた。

 (あれは・・・)

 中に入って。複数の平たい皿が重なるかのように、幅広い大理石が段差になって敷き詰められている床を。ヒタヒタと歩いて行くと、ボォッと浮かび上がる泉が見えてくる。

 一見、小さな地底湖があるようにも見える光景だが、実際は―――炎だ。

 「クゥ・・・クゥ・・・」

 自分の魔炎よりも遙かに強く、メラメラと燃え上がる原始的な焔に。ケールがおそるおそる前足を出しては引っ込める。

 「ケール、大丈夫だ。確かめなくていい」

 火の海と化している表面から、炎がボワンッと吹き出すとともに空中に放たれるアルケーは。青白く澄みきっていて、不快とは真逆だ。安全性を疑う必要はない。

 そのまま、スッと足を入れると、まるで水のように。タプンと炎が波打った。中に進んで、身を沈めていく。

 「はあぁぁ・・・」

 と、つい感極まる声が出た。心地がよくて。

 「あっ・・・」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺のアイスは、一目惚れ

BL / 完結 24h.ポイント:1,640pt お気に入り:7

異世界のんびり散歩旅

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,251pt お気に入り:745

ありあまるほどの、幸せを

BL / 連載中 24h.ポイント:3,721pt お気に入り:351

裏切られた公爵令嬢は、冒険者として自由に生きる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:518

俺の可愛いオメガ

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:106

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

処理中です...