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14:囚われて※

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 「そ、そんな・・・なぜ、そんな愚かなことを・・・」

 冥府の王ともあろう者が。邪霊を駆使する異形なんかをあてにしたというのか。

 「なぜと聞き、愚かなことと言うのか、ペルセ・・・」

 見下ろしてくるその瞳は。冷静沈着に拾い上げ、慈悲とともに裁くと語られる青紫色の瞳だけでなく。

 怒りの鉄槌を容赦なく下すと称される赤紫色の瞳も。どこか悲しみに満ちていて。

 「ハデス・・・」

 胸が締め付けられる。

 「奴らだけが言い当てた・・・奴らだけがな」

 「な、なにを・・・?」

 「オレは予見ができると名高い神官、巫女、霊言者、霊獣・・・とそれこそ、ありとあらゆる者に会いに行った。

 だが、彼らは口を揃えて、心配はいらないと。オレがお前の愛を得ていると。そう告げるだけで、何の解決も導かなかった・・・そんな中で、グライアイだけだ。

 連中はオレにこう言った。王妃の心を別の存在が占めている。そのために首を噛むことを頑なに拒み、ツガイになれないのだと。愛し合えないのだと」

 (そ、それは・・・)

 否定できない事実に、思わず絶句する。決して間違っていないのだ、その霊視は。

 「それだけじゃない。お前の心がその者から離れることは永遠にないだろうと。

 だから、現状を変えたいのなら、お前の記憶を奪い、タルタロス帰りの逆行者の身に堕とせと。そうすれば、ツガイとして愛し合えるだろうと。助言までした」

 「!!」

 「そして、オレはその言葉にすがりついた・・・なぜだか、わかるか、ペルセ・・・」

 視線を絡ませながら、ハデスがスルリと。自身の首に巻かれた貞操帯ティーチェスタトルベを外す。

 「お前のツガイになりたかったからだ。お前の愛が・・・・・・欲しかったからだ」

 (そ、そんな・・・)

 露わになった首筋の、噛み痕が視線の先で揺れた。

 (オレの愛が・・・欲しい・・・?)

 ハデスが? まさか本当に・・・と。魂が悦びで震え上がる。けれども、すぐさま否定した。

 「嘘だ・・・だって・・・だって・・・ハデスは・・・ハデスは・・・」

 首を振りながら、そうだと思い出す。違うと。そんなはずがないと。

 「だって・・・オレは・・・オレは・・・母さんの・・・代わり・・・なんでしょ?」

 口にした途端に、悲しみで心が一色になった。

 「なんだ、それは・・・」

 色の異なる左右の瞳が大きく見開かれて。怪訝そうに尋ねてくる。

 「どういう意味だ?」

 「ふっ・・・ぅっ・・・」

 受け入れたくない事実に、胸が張り裂けそうで。苦しくて。堪えきれずに、嗚咽が漏れた。

 「だって・・・だって・・・」

 そう言っていたのだ、実の父親と叔父が。哀れなオメガの母を嬲りながら。あの非道なアルファ神族たちが、嘲笑うようにして。口にしたのだ。

 「ハデスは・・・本当は・・・母さんが・・・母さんが・・・よかったのに・・・」

 「誰がお前にそんな考えを植え付けたんだ? あぁ、そうか・・・」

 その両目がすぐさま答えを導き、理性の光を放つ。

 「ゼウスかポセイドンか・・・いや、両方か」

 「オレは・・・母さんの・・・代わり・・・なんだろ・・・」

 そうだ。ハデスが本当に愛しているのは自分じゃないのだ。母なのだ。
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