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14:囚われて※

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 「お前の母親を、哀れなデメテルを性愛の対象として見たことはない」

 きっぱりと否定した相手が。大きな両手で、涙で濡れる頬を包んでくる。

 「もし、オレがデメテルを愛しているのなら、レウケーの前に妻にしている・・・違うか?」

 (あっ・・・)

 そう聞かされて。確かにそうだと感じ入る。兄として妹として、精霊ニュムペーのレウケーよりも早く、そして長く共に過ごしていたのだ。

 「そんな事もわからなかったのか・・・あぁ、そうじゃないな。お前のせいではない。あの不出来な弟たちが、お前に吹きこんだんだ。

 純粋なお前の心を・・・母親を性具扱いし、嬲ることで、怯えさせ、苦しめた。注意したにもかかわらず、幾度となく、オレの置いた監視の目をくぐり抜けていたらしいからな」

 (それなら・・・本当に・・・?)
 
 忌々しげに語るその顔をじっと見つめる。

 (オレのことを・・・本当に・・・?)

 問いかける視線の先で、ハデスが口にした。

 「ペルセ、オレが愛しているのは・・・・・・お前なんだ」

 その愛の言葉に、涙が溢れ出た。

 (あぁ・・・)

 こんなことがあるだろうか。信じられないと。

 「ふっ・・・ぅっ・・・」

 嗚咽が止まらない。

 「ペルセ・・・」

 ハラハラと流れ落ちる涙を。ずっと切望していた存在が、その唇で優しく拭ってくれている。

 「お前はオレを・・・いたいけなお前を・・・無理矢理に噛んだことを恨んでいたんじゃないのか?」

 その問いかけに。違うと。声が出せずに、心で返す。そうだ、違うのだ。

 (あぁ・・・)

 本当はきちんと理解していたのだ。

 首の貞操帯ティーチェスタトルベを外すということがどういう意味かを。外した後に、何が起るのかも理解していたのだ。その上で、自分から外した。

 (ハデスが・・・欲しかったから・・・)

 初めて会った時から、ずっと惹かれていた。好きだった。憧れていた。この美しく強い存在の、ツガイになりたいと。恋い焦がれていた。

 だから、噛まれた時、とても嬉しかったのだ。

 「ペルセ・・・もしかして・・・オレは・・・お前の心を得ていると・・・思っていいのか?」

 大好きな相手が。自分の付けた噛み痕を指先で確認しながら、どこか頼りなく尋ねてくる。

 「アトラスを通して、やっと、オレを愛したか・・・?」

 それも違うと。もっと前からだと心の中で答える。

 (ハデス・・・)

 あの偉大なる冥府の王が片目を取り去ってまでも。その自身の力を削いでまでも。全身全霊を捧げたのだ。自分の心を求めるあまりに。あぁ・・・と胸が熱くなった。

 「ペルセ、わずかだったが、お前が噛んで注いだアルケーが・・・今、オレの中で・・・」

 告げるなり、そのきれいな双眸そうぼうがキラキラと輝きを放った。共鳴していると確信したのだ。

 「あぁ、ペルセ・・・・・・オレを求めているな? オレを愛しているな?」

 「あっ・・・」

 その瞬間、首筋がボワッと熱くなって。ゾクゾクッと疼きが走り抜けた。それは、互いに噛み合って、気を交換したツガイだけに起こり得る現象で。両方が求め合っている証で。

 「ハデス・・・」

 囁くように呼んで動いた唇が。好きだ・・・とかたどる前に、奪われた。

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