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4 騎士と破壊のお姫さま編

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 私が悪役のように悪い顔をしているところに、颯爽と現れて、間に割って入ったのは白い猫。

 そう、創造と終焉の神、デュク様だ。

 私と三番目の間で、私を見上げるようにしている。そのデュク様の陰から同じような姿の白い猫がさらに二匹。

 ちょっと待って。白い猫が三匹いる。

「デュク様が一匹、二匹、三匹いる!」

「一匹、二匹って数えるな!」

 驚く私を、口だけは自由に動かせる三番目が怒鳴りつけた。
 やっぱり、口も塞いでおけば良かったな。

「それに、デュク様が三人もいるか! ザリガ様とバルナ様だろ!」

 おお、重要情報!

 そういえばテラも言ってたな。

 ここは始まりの三神の神殿だと。だから、デュク様の他に、時と空の神のザリガ様、運命と宿命の神のバルナ様も存在していると。

 まさか、全員、白猫だとは思わなかった。かわいい。

 尻尾をゆらゆらさせる神様たちは、とってもかわいいのだ。
 ラウがたまに使う、かわいいが爆発する、とはこういうことか。

「かわいいー」

 デュク様以外の白猫が、かわいい発言に気を良くして、揃ってにゃーんと鳴いた。

「うわっ、超かわいいー」

 にゃにゃーん

「鳴き声もムチャクチャかわいいー」

「神様に、かわいいはないだろ!」

「いやだって、かわいいんだもん。三匹とも」

「かわいいじゃないだろ! って、いて。痛い痛い。なんで俺、神様たちにパンチされるんだ?」

 そりゃ、かわいいを否定したからだよ。

 三番目の言葉を聞き、デュク様以外の二匹が低い唸り声をあげて三番目に突進して行った。

 次々と繰り出される猫パンチ。

 かわいすぎる!

 三番目の発言『かわいいじゃない』は、神様に対して不敬だという意味で言ったんだと思う。
 でも、神様たちは、かわいくないと否定されたと感じたようだ。

 だって、『かわいい』って言われて、すんごくご機嫌そうにしていたのに、『かわいいじゃない』でとたんに豹変したんだから。

 三番目に攻撃(?)しているのは二匹だけ。残りの一匹、デュク様は落ち着いた様子で、三番目と二匹を見ていた。

 裸に微妙な丈の外套を着て鎖でグルグル巻きになっている男が、猫二匹にいいようにパンチされている。

 一人と二匹のゴタゴタは、当分、終わりそうもない。

「クロスフィア」

「何?」

 ゴタゴタそっちのけで、デュク様が話しかけてきた。

「赤種ハ、皆、ヒトリ。ダカラ、寂シイ」

 え?

 寂しい?

「なんで?」

 考えても考えても意味が分からない。

「ラウがいるから、ひとりじゃないし、寂しくないよ」

「ホカノ赤種ニ、竜ハ、イナイ」

「寂しいから三番目はこんなことしたっていうの? だから、許してやれと?」

 デュク様の返しに、思わずムッとして声を荒げてしまった。
 私にはラウがいるんだから、三番目の行動を我慢しろとでもいうのかな。

 声を荒げた私を、デュク様は赤い目でひたっと見るだけで無言だった。

 小さく首を横に振って、悲しげににゃーんと鳴く。赤い目をウルウルさせてる。

 うぅっ。

 デュク様がかわいすぎてヤバい。

「分かった、分かったから」

 私の返答に満足したのか、今度は、猫パンチが続く三番目に頭を向けた。

 にゃーんと鳴くと、ザリガ様もバルナ様も猫パンチの手を止める。
 にゃにゃーんと鳴いて、さっと脇に退いた。デュク様に場所を譲ったらしい。

 空いた場所にデュク様がすっと歩いていく。

 よくよく見ると、デュク様は他の二匹より一回り身体が大きい。
 長い尻尾を揺らしながら、悠然と、三番目の目の前で足を止めた。

 三番目は二匹の神様によってたかって猫パンチをされていたせいか、芋虫のように床に倒れ伏している。

 デュク様が、その三番目の頭に顔を近づけた。

「ディアドレッド」

「なんだよ?」

 ぱこん

「いててててて」

 え、殴った。デュク様が殴ったよ!

 あれ、二匹を脇に退かせたのは、自分も殴るためだったのか。

 さっきの流れで、デュク様はてっきり、三番目の肩をもってるのかと思ってた。
 けれどそれは見当違いで、デュク様もしっかり怒ってた、三番目に。

「言ッタハズ」

 デュク様が三番目に声をかける。

 どうやら、怒りは猫パンチ一発で済んだらしく、それ以上は動かないデュク様。

「彼女ハ、竜ヲ選ンダ、ト」

「なんで、どうして!」

 ぱこん

「いててててて」

 また殴ったよ!

 あー、爪が出てる。デュク様、かわいい顔して容赦ないなぁ。

「オレは認めない!」

 床でもぞもぞと蠢きながら、三番目は叫ぶ。

「オレは絶対に、ふぐっ」

 三番目が叫び声をあげている最中に、デュク様がその大きく開いた口に、足をつっこんだ!

 やるな、デュク様。

 三番目は、慌てて、デュク様の足を吐き出す。
 そこへ脇に退いていた二匹が集まり、前足で三番目の顔をつつき始めた。爪は出ていなさそうだけど、これまた痛そうだ。

 にゃぉーん

 デュク様の鳴き声が響くと、ふっと身体が軽くなった。

 そしてそのまま、目の前が暗転する。




「待って、デュク様。私はまだ、」

 三番目を殴り足りない! 三番目の首もはねてない!

「四番目、北で待ってるからな」

「殴りに来いって?」

「違う!」

 三番目の声だけ聞こえる。
 そしてそれも聞こえなくなった。

 仕方ない。

 ラウのところに戻ろう。




 ふと目を開けると、そこは大神殿の裏庭の空中だった。少し高い。

 ま、いいか。

 私は下に向かって手を伸ばし、落下する。きっと受け止めてくれるはずだ。

 最愛の人が。

「お待たせ、ラウ」

 私はその分厚い胸に飛び込んだ。
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