上 下
10 / 19

第10話 外出

しおりを挟む

結局、俺はクロウに直談判する形で
買い出しのメンバーに入れてもらうことができた。

「うーん、そういえば君は外の世界のことを知らないんだったね」

クロウは顎に手を当てて少し考え込んだが

「まぁいいか。いずれは君も外に出ないといけないわけだしね」

と、しぶしぶという感じだったが許可をとることに成功したわけだ。



買い出しメンバーは5人
俺と炎の魔女セブンス、他は城の中で顔を合わすだけで
あまり話したことのない魔女が3人いた。

「それじゃあ、出発前にこの指輪をつけてくれ」

セブンスが俺に指輪を渡してきた。

「この指輪は、プロポーズですか?」

俺はジョークを飛ばしてみた。

「ん?本当に夜這いかけてやろうか?」

セブンスはニチャアと笑みを浮かべながら言った。
俺は慌てて顔を逸らした。

「慣れない冗談を言うもんじゃないぞ、ガハハハ」

俺の渾身のジョークはセブンスに見事に躱されてしまった。
彼女は咳払いをすると、改めて言った。

「この指輪は『指輪の魔女』メビウスによってつくられたものだ」

「メビウス…?」

城の中では聞いたことのない魔女の名前だ。

「彼女はその特性から潜入に優れているから、城ではなく普通に街中に住んでいる」

「というと?」

「彼女はいろんな魔力、特徴を持った指輪を製作することができる。そのなかでも
この指輪は『魔女である』ことを隠せる機能を持つ指輪だ」

セブンスはそういうと、自分の指にその指輪をはめた。

「この指輪をはめることで、魔力量を誤認させることができて
外からはただの人間にしか見えなくなるってことだ」

「なるほど」

魔女は常に微量の魔力を外に放出し続けている。
だから、実力者などは一発で相手が魔女だと気付いてくるし
装置を使えば一般人でも魔女か人間かの判別は可能だ。

「この指輪は飽くまで誤認させるものだから、この指輪をつけていても
普通の服を着ると痛んでしまう。その代わり実力者や判別機の類は騙しとおすことができる
そういったシロモノだよ」

そういいながら、セブンスは俺に指輪を渡してきた。見回してみると
他のメンバーはすでに同様の指輪を装着しているようだった。

「しかし、なかなかセンスのいい格好してるじゃねーか」

セブンスは相変わらずニチャニチャと笑みを浮かべながらそう言った。



…そう
さすがに外出する際にジャージを着て遠出をするわけにもいかない。
外用の服が必要ということで、裁縫の魔女マトリョーシカが喜んで服を仕立ててくれた…



それは、真っ赤なドレスだった



出来た服を見て「ドレスを着て街中をウロウロする馬鹿はいないだろ!」と抗議をしたが
後ろにいたクロウが俺の方にポンと手を置いて首を振った。

「諦めろ。彼女にそんな理屈は通用しない」


そういった経緯もあって俺は今真っ赤なドレスを着て買い出しに出ていた。
さすがに普段使い用にアレンジこそされているが、こんな服でウロチョロしてたら
目立つのではないかと心配だった。

実際、俺以外のメンバーの4人はやはり凝った装飾の服とはいえそれなりに日用使いできそうな服なのに
俺のドレスだけがかなり目立っているような気がした。

「ま、まぁ明治時代とか中世ヨーロッパとかだとドレスで街中歩いてる貴婦人もいただろうし
大丈夫、うん、大丈夫なはずだ」

と俺は自分に言い聞かせたが

「さすがにこんな真っ赤なドレス着てるやついねーよ」

とセブンスに笑い飛ばされてしまった。
こいつ…他人事だと思って!

服装については仕方ないのであきらめて、俺たちは馬車に乗り込んだ。
魔法がある世界とはいえこの世界に自動車はないようだ。
城の図書館で得た情報では電車はないが蒸気機関車はあるようだった。

この世界が俺のいた世界と全く別物なわりに
技術の進歩やデザインが俺のいた世界とそっくりなことは少し気になっていた。
俺以外にも転生者がいてそういう技術を伝えたのか…あるいは
特異点として技術の進歩はある程度どの世界でも共通しているのか。
あるいは考えたくはないが、そもそも俺のいた世界もこの世界ももっと上位の世界が
生み出した「創造された世界」なのか…

まぁ考えても仕方ない。今はこの状況をどうするかのみ考えよう。
俺は強引に自分の思考からその考えを追い払った。




2,3時間くらいしたころだろうか。
森を抜けてしばらく走ると、橋のようなものが見えてきた。
橋の向こうには詰所のようなものが見える。
つまるところ、ここが『検問所』ということらしい。

「おい、トール。大人しくしとけよ。俺が言うことに
可憐な美少女のように微笑みながら黙って頷け。それだけでいいからよ」

セブンスはいつになく真面目な表情でそういった。

「まぁ、俺はこの世界のことについてはまったくわからないから
その辺は任せるよ」

「あぁ、くれぐれも検問官の頭吹っ飛ばしたりするんじゃねーぞ」

そういうと、セブンスは指輪を指の中でくるッと回した。
すると、セブンスは中年くらいのオジサンの姿へと変化した。

「え?」

俺が驚くのを見るとセブンスはイタズラな笑みを浮かべながら口の前で人差し指を立てて「しっ!」といった。

橋の上にできていた検問の列が進んでやっと俺たちの番が来た。

「よーし、そこの馬車。こっちにこい」

「どうも」

セブンス(オジサンに擬態中)は検問官にペコリと頭を下げた。

「入町目的は?」

「買い出しですよ」

「後ろに座ってる人たちは?」

「ウチの村のメンバーです。買い出しを手伝ってもらってます」

「ふぅん」

検問官がジロリとこちらを見た。
俺はセブンスに言われた通り優しい微笑みを返してやった。
社畜人生で取得した秘儀「愛想笑い」を舐めるなよ!

「…!」

検問官は少し顔を赤くしながら慌てて視線を逸らした。

「ゴホン、それで、許可証はあるかね?」

「えぇ、こちらです」

セブンスは何かの紙を検問官に見せた。

「ふむ…問題なし。通っていいぞ」

「ありがとうございます」

セブンスは頭を下げるとそのまま橋を通り抜けた。



城の図書室で十分に情報は得ていたつもりだがこうしてみるとやはり衝撃を受けた。
街は中世ヨーロッパ風の造りになっていた。もちろん現実の中世ヨーロッパとは
違う点もたくさんあるが、見た目はそっくりである。
なんか海外旅行に来た気分になり自然に気分が高ぶってしまう。

そういえば前の世界で、俺は大学を卒業後そのまま会社に就職した。
実はバックパック一つで世界中を放浪してみたいという夢があったのだが
夢は夢として、その思いは心の中にしまい込んでいたのだ。

ここは異世界。会社もない。
もちろんお金を稼がないと旅行などできようもないが
せっかくの新境地なのだから城を『卒業』したら
この世界を旅してみるのも悪くないかなと思った。

「うーし、じゃあまずは雑貨店に行くぞ」

「はーい」

セブンスの声に他の魔女たちが返事する。
セブンスは相変わらずオジサンの姿だが
他の魔女たちは特に変装などはしないようだった。
まぁ、女だけで買い物に来るってのが不自然な世界観なのかもしれない。

こうしてセブンスに連れられていろんな店を回っていった。
馬車に荷物を運びこんだり、商品を探したりするのを手伝う。
こうしてみても、やはり地球とほとんど変わらない『品物』が多い。
ニンジンやジャガイモは呼び方こそ違うがこちらの世界でも
ニンジンやジャガイモだ。
なぜ世界が全く違うのに同じような野菜が生まれてくるのかも謎だった。

「おーし、一通りそろったしメシでもいくか」

「やったぁ!」

魔女っ子たちが大喜びではしゃいでいる。
かくいう俺も城以外でご飯を食べるのは初めてなので
外での食事は少し楽しみだ。

「じゃ、いつもの店いくかぁ!」

そういうとセブンスはとある店の前まで馬車を走らせた。



その店はしっかりとしたレンガ造りの建物で昼飯時を少し過ぎているというのに
そこそこ客でにぎわっていた。
セブンスと魔女たちは店の中に入っていく。俺も続いて店の中に入った。

「やぁ、グレースちゃん。席あいてるかい?」

「あら、シチさん。久しぶりだねぇ。向こうの方の席があいてるよ」

「お、サンキューな」

シチさんと呼ばれたセブンスとグレースという店員が会話している。
しかし、俺の耳にはその会話はほとんど入ってこなかった。
なぜならグレースという店員に目を奪われてしまったからだ。

「え………緑川君?」




グレースと呼ばれた店員は
元の世界での後輩、緑川いのりにそっくりだった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14,116pt お気に入り:3,057

戦士と腕輪

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:48

とある黒鴉と狩人の物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:5

淫獄の玩具箱

BL / 連載中 24h.ポイント:1,591pt お気に入り:46

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:58,461pt お気に入り:3,659

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,295pt お気に入り:15,006

そんな事言われても・・・女になっちゃったし

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:8

異世界転移、魔法使いは女体化した僕を溺愛する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:533pt お気に入り:268

目が覚めたらロリ女神になっていたけど負わされた責務が重すぎる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:12

処理中です...