ことばの繋ぎ手

武内れい

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第一章:見えないひずみ

9、決まり文句の揺らぎ、賑わう夢の入口(前半)

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 昼下がりのテーマパークの入口。彩り豊かな世界が広がる。

 陽射ひざしが燦々と降り注ぐ午後の空。淡い青に染まった空は、まるで絵具で丁寧に塗られたキャンバスのように澄み渡っていた。遠くの空には、ぽっかりと白い雲が浮かび、時折風に吹かれてゆっくり形を変えている。

 テーマパークの入口付近は、午前中の混雑が少し落ち着きはじめ、訪れる人々の足取りがゆったりとしてきた時間帯だった。それでも園内からは子どもたちの笑い声や、大人たちの歓声かんせいが絶え間なく聞こえてくる。

 入り口の大きな木製のゲートは、年月を感じさせる温かみのあるブラウンで塗られており、表面には金色の文字で〈夢の国へようこそ〉と輝くように刻まれていた。
 ゲートの両脇には、花壇が色鮮やかな花々で埋め尽くされており、赤、黄色、青、ピンクの花びらが太陽の光を浴びて輝いている。

 堀内叶多ほりうちかなたは入口広場の舗装された石畳の上を駆け回っていた。
 彼の黒髪は陽射ひざしを受けて艶やかに光り、スポーティなTシャツとジーンズは動きやすくてお気に入りだ。軽快な足音が石畳をリズム良く鳴らす。

 彼の視線は、周囲のキャストたちに向けられていた。
 キャストたちは鮮やかなユニフォームに身を包み、どの表情も笑顔で、訪れる人々を優しく迎え入れている。
 彼らの制服は真っ白なシャツに明るい青のベスト、赤いネクタイがポイントで、きちんとアイロンがかけられていることがわかるほどの清潔感せいけつかんがあった。

「いらっしゃいませ! 本日は楽しい一日をお過ごしください!」
「パレードは午後2時より開始いたします。お楽しみに!」

 声は明るく、抑揚よくようが均一に整えられている。まるで、演技の一部のように決められたリズムと間隔で繰り返されていた。叶多はそれを何度も聞きながら、不思議な安心感を覚えていた。

 その言葉はまるで魔法のように、この夢の国全体を守っているのかもしれない。
 叶多は心のどこかでそんなふうに思っていた。

 だが、いつもと変わらぬ光景の中に、かすかな違和感いわかんが入り込んでいたのだった。

 ある日の夕暮れ、パークが閉まる頃、叶多は普段と違う何かを感じていた。
 彼は最後のパレードを見届けた後、まだ人気の少ない園内を歩いていた。

(……なんだろう、今日の言葉はおかしい)

 いつも繰り返される決まり文句が、まるで機械の調子ちょうしが悪くなったかのように途切れ途切れになっていた。声が震え、言葉の間に不自然な間や引っかかりが生まれていたのだ。

「い、いらっしゃいませ…… 本日は……楽しんで……ください……」

 言葉は何度も詰まり、正確に伝わらなかった。叶多の心はざわつき、耳を澄ますほどにその違和感が大きくなっていった。

 その時、入口付近にいつもと違う影があった。
 背が高く、薄暗い帽子を深く被り、顔は見えなかった。彼の存在は、まるで夜の闇の中から溶け出してきたかのように不気味ぶきみで、パークの陽気な空気にそぐわなかった。

 叶多はその影を凝視しながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 だが同時に、彼の中には好奇心こうきしんも芽生えていた。
 その不気味な存在が、一体何者なのか。なぜ、このにぎやかな夢の国の入口に現れたのか。

 パークの遠くからはパレードの音楽装置が、時折途切とぎれ途切れに明るいメロディを奏でている。
 その音色は本来なら華やかで夢見心地のはずなのに、その日はどこか不安定ふあんていで、まるで結界けっかいが揺らいでいるかのように聞こえた。

 叶多は不安と興奮が入り混じった感情に胸を高鳴らせながら、やがて決心けっしんしたように小さく息を吐いた。

(これ、何かあるかもしれない……)

 そう心の中でつぶやいた。
 昼の光に包まれた賑やかな入口の裏側に、誰も知らない静かな戦いの幕がゆっくりと開きはじめていた。
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