土から育てるぼくらの青春

武内れい

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第一章:はじめの一歩

10、まかないの昼ごはん(後半)

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 昼食のひとときは、食べるごとに少しずつ音が増えていった。
「それ取って」「味噌汁うまっ」「このナスのとろとろ最高!」
 言葉と笑い声が、テーブルの上で跳ねるように交差する。

 私は、その輪の中に小さく座っていた。
 がつがつ食べるでもなく、でも遠慮もしすぎず、ちょうどいいペースで箸を動かしている自分に気づく。
 ここにいてもいいのかもしれない
 そんな、ささやかな実感が、胸の奥にそっと灯る。

「ねえ、陽菜ちゃん。じゃがいも、好きって言ってたよね?」
 不意に、美咲が私の方を見て声をかけた。

「え……うん。うち、よく使うから」

 私は少し驚いてうなずいた。
 朝の作業のときに、何気なく言ったことを覚えてくれていたのが、なんだか嬉しい。

「じゃがいもって、ポテサラ? 肉じゃが?」
 美咲の問いに、私は少し考えてから言った。

「どっちも作るけど……ポテサラは、弟が好き。じゃがいもが熱いうちに、潰して、ちょっとマヨ少なめにして……」
 ふいに言葉が止まった。
 誰かに、こんなふうに料理の話をするのって、いつ以来だろう。
 思わず口をついて出た言葉だったけど、みんなが耳を傾けてくれていることに、少し照れた。

「へえ! それ絶対おいしいやつだ」
 拓海が目を丸くして言う。

「枝豆も好き。……弟がね。夏に収穫したやつを、その場で茹でて、冷やして。うちわで扇いで冷やすの。……買ったのと全然違った。甘くて、しっとりしてて」

 ぽつりぽつりと出てくる言葉は、どれも記憶の中の味。
 土と、夕方の風と、弟の笑い声が一緒に浮かんでくる。

「え、何それ。めっちゃエモい」
 美咲が目を輝かせて、スマホを取り出しかけた。

「それ、SNSで紹介していい? 収穫してすぐ茹でた枝豆は、買ったのとは別物だったって、すごいリアルじゃん。私、写真撮るから、陽菜ちゃんがナレーションしてよ!」

「ナレーションって……」

「声じゃなくてもいいの。メモとか、短い文章とか。ほんとに一言でもいいから、リアルなやつ」

 私は苦笑してしまった。
 でも、完全には否定できなかった。
 いいかもって、一瞬だけ思った。
 それがなんだか、ちょっと不思議だった。

 いつもだったら、「そんなの恥ずかしいし、無理」って言っていたはず。
 でも今は、さっき食べたじゃがいもと、枝豆の味がまだ口に残っていて――
 それを誰かに「おいしかった」って伝えたくなっている自分がいた。

「……今度、写真、撮れたら送る」

 その言葉が出たとき、美咲が「やったー!」と大きく手を叩いた。
 その無邪気な反応に、私もつられて少し笑った。

「陽菜ちゃんの料理、ぜったい見たいなー。私、盛り付けとかセンスないから、真似したい」

「……たいしたもんじゃないよ。家にあるやつで、適当に」

「それが大事なんだって! 家にあるやつで作れるって、めちゃくちゃポイント高い」

 熱心な美咲の様子に、奥さんも笑いながらうなずいた。

「ほんまや。毎日のことやからな。冷蔵庫の野菜で、どうやって彩るかって、それが腕の見せどころやで」

 私は思わず奥さんの手元に目をやった。
 しっかりと包丁を持つ手。
 長年の経験がにじむその動きに、自分も少しだけ近づきたいと思った。

 食べ終わったころには、なんだか心がふわっと軽くなっていた。
 いつもは食べたらすぐ台所に立つ私が、今日は最後まで座って話す時間を味わっていた。

 外に出ると、午後の陽射しがまた少し傾いていた。
 風が少し出てきて、稲の葉がさわさわと音を立てている。
 陽射しの中に、土の匂いがまだほんのりと残っていた。

 私は小屋を振り返って、心の中でつぶやく。
 ――ごちそうさまでした。

 この日、私はただごはんを食べただけじゃなかった。
 誰かと味をわけあって、思い出を語って、ちょっと笑った。
 たったそれだけなのに、不思議と生きてるという感覚があった。

 おなかも、胸の奥も、やさしく満たされていた。
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