31 / 40
第二章:つながりの芽
31、突然のトラブル(前半)
しおりを挟む
畑に差し込む午前の光はいつもより鋭く、葉の影をくっきりと地面に落としていた。空は澄み渡り、どこまでも青く広がっているのに、その青さはどこか冷たく感じられた。
風はほとんどなく、蒸し暑さが肌にまとわりついていた。
「今日も暑いね……」私がぽつりと呟くと、拓海が横でうなずいた。
「ここ数日、まとまった雨が降ってないから、水やりしても追いつかないんだよな」
畝を見渡すと、いつも青々としていたはずの野菜たちの葉が、どこかしおれている。薄く黄色がかった葉の縁が乾いてパリパリと音を立てそうなほど硬くなっていた。
藤原さんが畑の真ん中で立ち尽くし、土の上にじっと目を落としている。その背中はいつもより重く、沈んでいるように見えた。
「……これ、どうしようもないかな」藤原さんの声は震えていた。
私は一歩近づいて、枯れてしまった枝豆の苗を手に取った。細くて頼りなげな根は土からすっかり乾いていて、土の中に潜っていたはずの白い根っこはカサカサに硬くなっていた。
「水が足りなかったんですか……?」私の声はか細く、思わず自分の手元に視線を落とす。
「そうだな。連日の猛暑で土が乾きすぎてしまってな。せっかく育っていたのに……申し訳ない」
藤原さんは低く呟き、手に持ったシャベルをゆっくりと地面に刺した。
私はその土の香りを深く吸い込んだ。いつもより乾いた、少し熱を帯びた土の匂いが鼻をついた。土は生きていると聞いていたけれど、今ここにあるそれは、まるで息が詰まったように感じられた。
美咲が肩を震わせながら、畝の隅にしゃがみこんだ。
「こんなに暑くて水が足りないなんて……誰かのごはんになるはずだったのに」
彼女の言葉に、畑の空気が一層重くなった。普段は明るく笑う美咲の声が震えているのを見て、胸が締め付けられた。
「私たち、ちゃんとできてなかったのかな」
私は自分の胸に問いかけるように、無言で枯れた苗の根元を見つめた。汗で手のひらが少し滑り、土の感触がいつもより冷たく感じた。
「もっと水やりのタイミングを工夫するべきだった……」
拓海も言葉を絞り出すように言った。
「でも、あれだけ水やりしても足りなかったんだよ。こればっかりは自然の力だから……」
大智が少し距離を置きながら、冷静に状況を分析している。
私は彼らの言葉を聞きながら、無意識に足元の土を指で掘り返した。乾いて硬くなった土の中に、かすかに湿り気が残る場所を探していたのかもしれない。
藤原さんがゆっくりと顔を上げ、私たちに目を合わせた。
「失敗したなと思うのは自然だ。だが、そこで諦めるのは人の心だ」
その言葉に、少しだけ心が動いた気がした。
「次に同じことが起きないように、みんなで考えよう」
彼の口元に微かな笑みが浮かび、私は小さく息をついた。
畑の上空では、夏の虫たちがかすかに羽音をたてて飛び回っていた。カラスの声が遠くから響き、どこか寂しげに感じられた。
汗が額から頬に伝い、土の乾きが肌にも影響しているのを感じる。けれど、私はこの土に、まだ何かできることがあると信じたかった。
(もう一度、土と野菜と向き合うんだ)
小さな決意を胸に、私は目の前の枯れた苗の根を、もう一度そっと土に戻した。
風はほとんどなく、蒸し暑さが肌にまとわりついていた。
「今日も暑いね……」私がぽつりと呟くと、拓海が横でうなずいた。
「ここ数日、まとまった雨が降ってないから、水やりしても追いつかないんだよな」
畝を見渡すと、いつも青々としていたはずの野菜たちの葉が、どこかしおれている。薄く黄色がかった葉の縁が乾いてパリパリと音を立てそうなほど硬くなっていた。
藤原さんが畑の真ん中で立ち尽くし、土の上にじっと目を落としている。その背中はいつもより重く、沈んでいるように見えた。
「……これ、どうしようもないかな」藤原さんの声は震えていた。
私は一歩近づいて、枯れてしまった枝豆の苗を手に取った。細くて頼りなげな根は土からすっかり乾いていて、土の中に潜っていたはずの白い根っこはカサカサに硬くなっていた。
「水が足りなかったんですか……?」私の声はか細く、思わず自分の手元に視線を落とす。
「そうだな。連日の猛暑で土が乾きすぎてしまってな。せっかく育っていたのに……申し訳ない」
藤原さんは低く呟き、手に持ったシャベルをゆっくりと地面に刺した。
私はその土の香りを深く吸い込んだ。いつもより乾いた、少し熱を帯びた土の匂いが鼻をついた。土は生きていると聞いていたけれど、今ここにあるそれは、まるで息が詰まったように感じられた。
美咲が肩を震わせながら、畝の隅にしゃがみこんだ。
「こんなに暑くて水が足りないなんて……誰かのごはんになるはずだったのに」
彼女の言葉に、畑の空気が一層重くなった。普段は明るく笑う美咲の声が震えているのを見て、胸が締め付けられた。
「私たち、ちゃんとできてなかったのかな」
私は自分の胸に問いかけるように、無言で枯れた苗の根元を見つめた。汗で手のひらが少し滑り、土の感触がいつもより冷たく感じた。
「もっと水やりのタイミングを工夫するべきだった……」
拓海も言葉を絞り出すように言った。
「でも、あれだけ水やりしても足りなかったんだよ。こればっかりは自然の力だから……」
大智が少し距離を置きながら、冷静に状況を分析している。
私は彼らの言葉を聞きながら、無意識に足元の土を指で掘り返した。乾いて硬くなった土の中に、かすかに湿り気が残る場所を探していたのかもしれない。
藤原さんがゆっくりと顔を上げ、私たちに目を合わせた。
「失敗したなと思うのは自然だ。だが、そこで諦めるのは人の心だ」
その言葉に、少しだけ心が動いた気がした。
「次に同じことが起きないように、みんなで考えよう」
彼の口元に微かな笑みが浮かび、私は小さく息をついた。
畑の上空では、夏の虫たちがかすかに羽音をたてて飛び回っていた。カラスの声が遠くから響き、どこか寂しげに感じられた。
汗が額から頬に伝い、土の乾きが肌にも影響しているのを感じる。けれど、私はこの土に、まだ何かできることがあると信じたかった。
(もう一度、土と野菜と向き合うんだ)
小さな決意を胸に、私は目の前の枯れた苗の根を、もう一度そっと土に戻した。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる