土から育てるぼくらの青春

武内れい

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第二章:つながりの芽

31、突然のトラブル(前半)

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 畑に差し込む午前の光はいつもより鋭く、葉の影をくっきりと地面に落としていた。空は澄み渡り、どこまでも青く広がっているのに、その青さはどこか冷たく感じられた。
 風はほとんどなく、蒸し暑さが肌にまとわりついていた。

「今日も暑いね……」私がぽつりと呟くと、拓海が横でうなずいた。

「ここ数日、まとまった雨が降ってないから、水やりしても追いつかないんだよな」

 畝を見渡すと、いつも青々としていたはずの野菜たちの葉が、どこかしおれている。薄く黄色がかった葉の縁が乾いてパリパリと音を立てそうなほど硬くなっていた。

 藤原さんが畑の真ん中で立ち尽くし、土の上にじっと目を落としている。その背中はいつもより重く、沈んでいるように見えた。

「……これ、どうしようもないかな」藤原さんの声は震えていた。

 私は一歩近づいて、枯れてしまった枝豆の苗を手に取った。細くて頼りなげな根は土からすっかり乾いていて、土の中に潜っていたはずの白い根っこはカサカサに硬くなっていた。

「水が足りなかったんですか……?」私の声はか細く、思わず自分の手元に視線を落とす。

「そうだな。連日の猛暑で土が乾きすぎてしまってな。せっかく育っていたのに……申し訳ない」

 藤原さんは低く呟き、手に持ったシャベルをゆっくりと地面に刺した。

 私はその土の香りを深く吸い込んだ。いつもより乾いた、少し熱を帯びた土の匂いが鼻をついた。土は生きていると聞いていたけれど、今ここにあるそれは、まるで息が詰まったように感じられた。

 美咲が肩を震わせながら、畝の隅にしゃがみこんだ。

「こんなに暑くて水が足りないなんて……誰かのごはんになるはずだったのに」

 彼女の言葉に、畑の空気が一層重くなった。普段は明るく笑う美咲の声が震えているのを見て、胸が締め付けられた。

「私たち、ちゃんとできてなかったのかな」

 私は自分の胸に問いかけるように、無言で枯れた苗の根元を見つめた。汗で手のひらが少し滑り、土の感触がいつもより冷たく感じた。

「もっと水やりのタイミングを工夫するべきだった……」

 拓海も言葉を絞り出すように言った。

「でも、あれだけ水やりしても足りなかったんだよ。こればっかりは自然の力だから……」

 大智が少し距離を置きながら、冷静に状況を分析している。

 私は彼らの言葉を聞きながら、無意識に足元の土を指で掘り返した。乾いて硬くなった土の中に、かすかに湿り気が残る場所を探していたのかもしれない。

 藤原さんがゆっくりと顔を上げ、私たちに目を合わせた。

「失敗したなと思うのは自然だ。だが、そこで諦めるのは人の心だ」

 その言葉に、少しだけ心が動いた気がした。

「次に同じことが起きないように、みんなで考えよう」

 彼の口元に微かな笑みが浮かび、私は小さく息をついた。

 畑の上空では、夏の虫たちがかすかに羽音をたてて飛び回っていた。カラスの声が遠くから響き、どこか寂しげに感じられた。

 汗が額から頬に伝い、土の乾きが肌にも影響しているのを感じる。けれど、私はこの土に、まだ何かできることがあると信じたかった。

(もう一度、土と野菜と向き合うんだ)

 小さな決意を胸に、私は目の前の枯れた苗の根を、もう一度そっと土に戻した。
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