土から育てるぼくらの青春

武内れい

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第二章:つながりの芽

32、突然のトラブル(後半)

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 空は茜色から朱色、そして深い藍へと移ろっていく。長い一日の終わりを告げるその光景の中、私はゆっくりと枯れてしまった苗の畝にひざまずいた。
 指先で慎重に土を触ると、ひんやりと湿り気を帯びた感触が伝わってきて、私の胸の中にぽつりと小さな寂しさが落ちていった。

「……こんなに頑張ってきたのに。」

 声は小さく、ほとんど風にかき消されそうだった。陽が落ちかけた畑には、疲れを隠せない虫たちの羽音がかすかに響く。私の視線は、枯れた葉っぱの茶色く乾いた縁に吸い寄せられた。
 まだほんの数日前には鮮やかな緑色をしていたはずの苗が、まるで遠い夢のように感じられた。

「悔しいよね。」

 隣に座った拓海の声が、静かな夕暮れにしっとりと溶け込む。彼は少し肩を落としながらも、確かな力強さを持って私に語りかけてきた。

「でも、これが農業の現実なんだと思う。自然は俺たちの味方じゃない。手加減なんてしてくれない。だけど、それでも向き合うしかないんだよな。」

 彼の言葉は厳しいけれど、そこには諦めではなく、挑戦する意志が感じられた。私はその思いを胸に、もう一度枯れた苗を見つめる。失われたものに目をそむけることはできないけれど、次にどう動くかを考えなければならない。

 その時、不意に足元から小さな物音がした。見ると、大智が土の中から小さな虫を掴み出して、にこりと笑いながら近づいてきた。

「これ、見てくれよ。根を助ける益虫だ。土の中にはこういう奴らがたくさんいるんだ。俺たちが土と共に生きるっていうのは、そういう自然の生き物たちと手を取り合うってことなんだぜ。」

 彼の話し方はちょっと独特で、急に熱が入ると早口になるけれど、その真剣な眼差しに私はぐっと惹きつけられた。

「間引きだって、ただ芽を捨てるんじゃない。良い苗を育てるために、余分な芽を間引いてあげる。そうしなければ、畑全体が弱ってしまうんだ。」

 大智はそう言いながら、指先で丁寧に土をかき分けて見せる。私は少し戸惑いながらも、彼の言葉が頭の中でゆっくりと響いていくのを感じた。

「なるほど……。」

 畑の仕事は単なる労働じゃない。見えない命たちとの共生なのだ。失敗した苗のことだけを嘆くのではなく、その意味を知り、土と対話しながら少しずつ前に進んでいくんだ。そんな気持ちが芽生えてきた。

 その頃、美咲が笑顔で近づいてきた。彼女は肩の力を抜き、明るい声で言った。

「こうやって知識が増えていくと、ただの単純な作業じゃなくなるね。畑も、私たちも、もっと面白く感じる。失敗もきっと、次へのステップなんだよね。」

 私はその言葉に心からうなずいた。

「うん。何度転んでも、立ち上がるんだ。これが私たちのやり方。」

 畑の向こうで、夕陽が最後の輝きを放ち、私たちの影を長く伸ばしていく。みんなの顔がほんのりとオレンジ色に染まっていて、どこか温かく、頼もしく見えた。

 作業を終えて帰る道すがら、私の頭には家族の顔が浮かんでいた。疲れた身体を待つ母の笑顔、無邪気に駆け回る弟の声、そして静かに見守ってくれる祖母のまなざし。

(私が頑張るのは、この人たちのためだ。)

 そう心の中で強く思いながら、足取りは自然と軽くなっていた。

 家の近くまで来ると、ふと夜の静けさの中に土の匂いが残っているのに気づいた。あの湿った、少し酸っぱいような、でもどこか落ち着く匂い。

 明日もまた、あの土に触れ、汗を流すつもりだ。

 苦しいこともあるけれど、このつながりを感じる時間が、私には大切だった。

 夜風がそっと頬を撫でていく。私は深呼吸をして、明日への決意を胸に刻み込んだ。
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