土から育てるぼくらの青春

武内れい

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第二章:つながりの芽

38、復活した苗と小さな成功(前半)

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 写真を撮り終えると、大智がスマホをそっと私に返してきた。

「撮れた。ピントも花に合ってるし、光もいい感じ」

「ありがと」

 私は画面をのぞき込み、小さな白い花のそばで笑っている自分たちの姿を見つめた。
 肩を寄せ合いながら、笑っている四人。
 背後に並ぶ畝や、まだ背の低い枝豆、花をつけ始めたキュウリのつるも写っていた。

 ここでの日々が、写真におさまるほどにかたちを持ち始めていることに、不思議な感覚を覚えた。

「これ、今度また料理に使いたいな」
 美咲がそう言いながら、そっとスマホを覗き込む。

「パプリカ、スープにするとすごい甘くなるんだよ。赤くなったやつで冷製スープとか。ビジュ映えもするし」

「いいな、それ」
 拓海が珍しく前のめりで答えた。
「ちょっと前に、うちの姉貴がやってた。ミキサーでまわしてさ。見た目もオシャレで」

「ミキサーね……家にあるけど、使ったことないな」
 私はつぶやくように言った。

「使ってみようよ、陽菜んちの枝豆でさ。ミキサーでスープって、夏感あるし」
「でも枝豆、今はまだもうちょいってとこ」
「じゃあ、それまでにレシピ探す! SNSでも流行ってるやつあるし」

「そういや、美咲ってそういうの得意だったな」
「うん。最近、野菜のアレンジレシピとか載せてる人のフォロー増やしててさ。今度みんなで試作会しようよ。陽菜のばあちゃんの梅ジュースも使って」

「いいな、畑の恵み試食会ってやつ」

 楽しげな声が、夕方の畑にふわふわと響いていく。
 私は思わず、空を見上げた。
 西の空にはうっすらと朱色が差し始めていて、あの白い花と同じように、夕陽もまた今日の終わりを告げようとしていた。

 どこかで蝉の声が残っていて、風の中には、まだ昼間の名残が混ざっていた。
 そのすべてが、心地よかった。

「……なんか、ちょっと信じられないな」
 私はぽつりと言った。
「こうして笑ってるの、前まで想像もしてなかった」
「だよね」
美咲が、優しく頷いた。
「わたしもだよ。最初は畑とか絶対むりって思ってたし。汗かくのも虫も苦手だった」

「俺も。日焼け嫌だったし」
拓海が少し照れたように笑う。
「でも、やってみたら、なんか良かったよな。こういうのって」

「うん、ほんとに」

 ふと、大智が真面目な声で言った。

「野菜も人も、環境と時間で変わる。根が張れば、水も吸うし、花も咲く」

「……それ、自分のこと?」
 美咲が笑うと、大智は少しだけ肩をすくめて、

「まあ、否定はしない」

 とだけ言った。

 私はその言葉を反芻しながら、小さく深呼吸をした。
 あの花みたいに、自分の中にもなにか咲いた気がしていた。
 小さくても、まだつぼみでも、それはきっと――生きている証なのだと思った。

 ポケットの中のスマホを取り出し、さっきの写真をもう一度開いた。
 そして、枝豆の成長記録を載せていたフォルダに、そっと保存した。

 この花のように、誰かの目に触れる日が来るだろうか。
 まだわからないけれど、でも――。

 私はふいに立ち上がった。

「もう少し、水やっとくね」
「手伝うよ」
 拓海と美咲がすぐに立ち上がり、大智もホースを持って動き始めた。

 光の中で、水のしぶきが虹のようにきらめいていた。
 葉に当たった雫がころりと転がり、地面の土に吸い込まれていく。

 苗も、私たちも。
 少しずつ根を張りながら、この土に、場所に、つながっていく。

 そう思うと、心の奥が、静かにあたたかくなっていくのだった。
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