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第一章:日常のさざ波
19、この気持ち、名前はまだない(前半)
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夕方の空は、ほんとうにきれいだった。
西の空がオレンジ色に染まって、雲がうすく浮かんでいる。まるで絵本の中の景色みたいに、空の端っこが金色に光っていて、なんだかそのまま吸いこまれそうな気がした。
ほのかはランドセルを背負って、家へと続く道をゆっくり歩いていた。
足もとは、風に乗ってふわりと落ち葉がひとつ、ほのかのスカートのすそにひらりと触れた。しゃがんでそれを拾ってみると、茶色に色づいた葉っぱが手のひらの上でカサカサと音を立てた。
春になりかけているこの季節に、こんな葉っぱがまだ残っているんだと思うと、ちょっと不思議な気がした。
でも、なんだかこの落ち葉が、今のほのかの気持ちと似ているような気もした。
色が変わって、形もちょっとちがってきて、それでも風にのって軽やかに舞う。
(私、なんでこんな気持ちなんだろう)
今日の学校でのことを思い出す。
湊が消しゴムを拾ってくれたあの瞬間。
「……これ、落ちてたよ」って、少し照れたような声。
あのとき、なんでもないひとことが、どうしてあんなに胸に残ったのか、自分でもうまく説明できない。
そして、机の上に残されていた〈ピアノがんばれ〉のメモ。
──颯太、たぶんあれは君なんだよね。
声には出せないけれど、私はそう思ってる。
だれにも知られないように書いてくれたその一言が、今日の私をずっと支えてくれていた。
(これって、どういう気持ちなんだろう)
ただ、うれしいだけじゃない。
なんて言えばいいんだろう。
胸の奥のほうが、あたたかくて、でもちょっとだけドキドキしてる。
心の中に、小さな灯がともって、それがゆらゆら揺れてる感じ。
(友達……なのかな)
声に出さず、心の中でつぶやく。
でも、それだけじゃない気がした。
だって、たとえばレナと笑い合ったり、いっしょに宿題したりしてるときの気持ちとは、ちがう。
レナとは、何でも言えるし、何を言っても笑ってくれる。だけど湊や颯太とは、言葉が少なくて、その分、ちょっとしたことで心が動く。
(これって……恋?)
その言葉が浮かんだ瞬間、なんだか急に顔が熱くなった。
ほのかは落ち葉をポケットにしまって、早足で角を曲がった。
でも、自分の中にあるこの気持ちに、ちゃんと向き合ってみたくて、歩くスピードをまたゆるめる。
風がすこし吹いて、前髪がふわっと揺れた。
その風にのって、どこからか夕ごはんのにおいがしてきた。しょうゆの香ばしい匂いに、ふとお腹がぐうっと鳴る。
それがちょっとおかしくて、ひとりでくすっと笑ってしまった。
そうだ。まだ小学生なんだ、ほのか。
でも、心の中では、少しずつ何かが変わってきている。
それは、はっきりとした答えじゃない。
ただ、ほんのすこしだけ、今までとは違う気持ち。
言葉にできないまま、でも確かに感じてる、心の揺れ。
──この気持ちに、名前をつけるのはまだ早いかもしれない。
でも、そんな名前のない気持ちを、大事にしてみたいと思った。
見上げた空は、さっきよりも少しだけ赤くなっていた。
そのグラデーションのなかで、ほのかはポツンと歩いている。
でも、ひとりぼっちじゃない。
心の中には、ちゃんと誰かのことがいて、ほのかのことも誰かが見てくれてる。
ランドセルが肩に少し重かったけど、今日はその重みさえも、なんだか優しく感じた。
(明日、また学校に行くのが楽しみかもしれない)
そんなふうに思ったのは、いつぶりだろう。
西の空がオレンジ色に染まって、雲がうすく浮かんでいる。まるで絵本の中の景色みたいに、空の端っこが金色に光っていて、なんだかそのまま吸いこまれそうな気がした。
ほのかはランドセルを背負って、家へと続く道をゆっくり歩いていた。
足もとは、風に乗ってふわりと落ち葉がひとつ、ほのかのスカートのすそにひらりと触れた。しゃがんでそれを拾ってみると、茶色に色づいた葉っぱが手のひらの上でカサカサと音を立てた。
春になりかけているこの季節に、こんな葉っぱがまだ残っているんだと思うと、ちょっと不思議な気がした。
でも、なんだかこの落ち葉が、今のほのかの気持ちと似ているような気もした。
色が変わって、形もちょっとちがってきて、それでも風にのって軽やかに舞う。
(私、なんでこんな気持ちなんだろう)
今日の学校でのことを思い出す。
湊が消しゴムを拾ってくれたあの瞬間。
「……これ、落ちてたよ」って、少し照れたような声。
あのとき、なんでもないひとことが、どうしてあんなに胸に残ったのか、自分でもうまく説明できない。
そして、机の上に残されていた〈ピアノがんばれ〉のメモ。
──颯太、たぶんあれは君なんだよね。
声には出せないけれど、私はそう思ってる。
だれにも知られないように書いてくれたその一言が、今日の私をずっと支えてくれていた。
(これって、どういう気持ちなんだろう)
ただ、うれしいだけじゃない。
なんて言えばいいんだろう。
胸の奥のほうが、あたたかくて、でもちょっとだけドキドキしてる。
心の中に、小さな灯がともって、それがゆらゆら揺れてる感じ。
(友達……なのかな)
声に出さず、心の中でつぶやく。
でも、それだけじゃない気がした。
だって、たとえばレナと笑い合ったり、いっしょに宿題したりしてるときの気持ちとは、ちがう。
レナとは、何でも言えるし、何を言っても笑ってくれる。だけど湊や颯太とは、言葉が少なくて、その分、ちょっとしたことで心が動く。
(これって……恋?)
その言葉が浮かんだ瞬間、なんだか急に顔が熱くなった。
ほのかは落ち葉をポケットにしまって、早足で角を曲がった。
でも、自分の中にあるこの気持ちに、ちゃんと向き合ってみたくて、歩くスピードをまたゆるめる。
風がすこし吹いて、前髪がふわっと揺れた。
その風にのって、どこからか夕ごはんのにおいがしてきた。しょうゆの香ばしい匂いに、ふとお腹がぐうっと鳴る。
それがちょっとおかしくて、ひとりでくすっと笑ってしまった。
そうだ。まだ小学生なんだ、ほのか。
でも、心の中では、少しずつ何かが変わってきている。
それは、はっきりとした答えじゃない。
ただ、ほんのすこしだけ、今までとは違う気持ち。
言葉にできないまま、でも確かに感じてる、心の揺れ。
──この気持ちに、名前をつけるのはまだ早いかもしれない。
でも、そんな名前のない気持ちを、大事にしてみたいと思った。
見上げた空は、さっきよりも少しだけ赤くなっていた。
そのグラデーションのなかで、ほのかはポツンと歩いている。
でも、ひとりぼっちじゃない。
心の中には、ちゃんと誰かのことがいて、ほのかのことも誰かが見てくれてる。
ランドセルが肩に少し重かったけど、今日はその重みさえも、なんだか優しく感じた。
(明日、また学校に行くのが楽しみかもしれない)
そんなふうに思ったのは、いつぶりだろう。
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