元婚約者の姉になる(男はシスコンとヤンデレをこじらせている模様。敵は悪役令嬢とヒロインでしょうか?)

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 また一歩、あと一歩、近づく。あたりを漂うのは神聖な雰囲気。

 香るのはどこか懐かしい花の香り。



 そこは開けているようで、秘された隠れ家のようでもあった。



 墓があった。

 名前は彫られていない。

 それでも立派な墓石だった。



 美しい墓石だった。



 墓の前に何かがあった。それは大きな影と小さな影。



 一つは猫。淡い影と対比した白い猫。

 そして、もう一つ。大きな影の方は男。

 その男は、...。

 その男は肩を震わせていた。静かに、ただ静かに。

 朝日に包まれる光の中で。

 墓に縋り付いているように見えた。

 そんなことはしていないのに、男の心はそこにいるようだ。



 そこはただ静か。一瞬の尊い時を閉じ込めた絵画のようだ。

 時も男のためにその足を止めるほどの美しさ。完結した美しい空間は完成された芸術のようだ。

 それは静寂とともに美しく、正しく、揃え、そこに取り残されていた。







 留め置かれた、置いていかれたものの哀愁とでも言えようか。

 事情を知らない私さえ、その悲壮に飲まれたほどだ。

 哀感が漂う背中に胸が切なくなる。



 男の白い頬を伝う美しい透明なもの。









 にゃー





時さえも足を止める、息の吸うのさえ躊躇われる、そんな空間の中動いたのは猫。


 猫が墓に向かって歩き出した。猫は気ままに死者を悼む男の隣までゆったりと歩いて行く。猫は墓に前足をかける。



 にゃー





 



 気ままに鳴くのは猫の特権。特権階級の貴族より尊大に振る舞う様子はまるで小さな王様。

 たとえその背に羽はなく、自由に大空を羽ばたくことは出来なくとも…

“世界はこの手の中に”

___とでも言いたげな様子は

“この広大な蒼い空の覇者は私だ”

___と我が物顔に飛ぶ鳥よりもいっそ尊大で、ひどく羨ましい。



 男はその小さな王様を抱え地面に戻す。



 男は私に気づかない。












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