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しおりを挟む猫は甘えるように男の足に擦り寄る。
男は柔らかく猫を撫でた。
猫は何度か撫でられると満足したのか男から離れた。
男は先程のことなどなかったかのように静かに墓の前で祈りを捧げ始めた。
静は過ぎった。後は動を残すのみ。儚く尊い時はもう戻らない。
「_____。」
男が何かを呟いた。私はまた操られるように一歩足を踏み出そうとしていた。
不思議な魅力にとらわれ気づくと声をかけようと口を開いていた。
「っ、」
私が言葉を紡ぐより前に猫が一匹足元に寄ってきた。
美しい猫だった。
真っ白い毛並みの美しい猫だった。
先程まで男の近くにいた猫だ。
男が祈りを捧げている間、暇だったのか私に近づいてきたようだ。
懲りることなく何かの不思議な力が働くままに再び搦め捕られる私の心。
だが、今度はその不思議な魅力の望み通りにならずにすんだようだ。
小さな王様のまたしても可愛らしい我儘によって。
くるりとした可愛らしい蒼い瞳と目が合う。その大きな瞳はキラキラとした無垢な輝きを放っている。
美しい淡いブルーの瞳を見つめていると先程までの思考が全て塗りつぶされてしまう。そのため私は男に声をかけようとしたが言葉に詰まってしまった。
にゃー
小さな声で鳴く。
祈りを終えた男が踵を返そうとした。
しかし、不自然に動きを止める。
こちらを見ている...?
猫に気づいたのだろうか。
やけに眩しそうに顔の前に手をかざして、それでもこちらに顔を背けることなく向ける。
男が口を開く。
「...っ、_____?」
(え、?)
思わず目を見開いた。彼はなんと言っただろうか。
思わず聞き返そうとした。
しかし、その問いは言葉として実ることはなかった。
光の反射だろうか。視界の端でキラリと何かが光った。
美しい光彩を放つ何かに心がざわめいた。
時間がきたのだ。
遠ざかる男を見つめながら私は無意識にひっそりと息を吐いた。
私はその時初めて自分が息を止めていたことに気がついた。
ぐらりと揺れる視界。ぐにゃりと歪む世界。ふわりと心地よい感覚。身体と感覚が解離するような感覚。
離れたモノは私からどんどん遠ざかりポチャリと沈み、止めていた何かは吐息とともに零れ落ちた。
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