命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2部 「教会送り」追求編

宿命に震える

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 「え」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
冗談かとも思ったが大司教の目は笑っていない。

 (あと1回でも死んだら、終わり!?)

 何度も繰り返し、少しずつ認識してきた。
 頭を鈍器で殴られてたように痛み、立っていられなくなった。

 もし、エリクさん達に連れて行かれていたら。
 もし、ナキレで司祭に捕まっていたら。
 もし、暴食族グーラに食われていたら。
 もし、魔王に首を絞められていたら。

 いや、そもそも魔王が命乞いを受け入れなかったら。

 俺は、ここに居なかった。




 (こ、ここで気を失っちゃダメだ。持ちこたえないと……)

 震える拳を床につけて必死に繋ぎ止める。 
 激しく脈打っている心臓を押さえながら魔王を見た。
彼の赤い髪と目が余計に気分を悪くさせる。

 「ま、魔王さん……」

 「我も驚いておる。お前の命乞いを受け入れたのは、好奇心だったからな」

 魔王が淡々という。驚いているのは本当だろうが、取り乱していないのはさすがだと思った。
 魔王が懐かしむように遠くを見る。

 「お前は『死にたくない』と素直に言った。
その言葉が、妙に耳に残ってな」

 (それが……本当に、奇跡だったのか……)

 魔王は大司教に向き直ると、確認するように尋ねた。

 「このニンゲンの寿命がわかるのは、お前が作った本人だからか?」

 「ああ、そうだ。少し意識を集中させると、相手の頭上に残りの数字が浮かび上がる。
私は生き長らえさせてもらっているが、他者は平均的な寿命であるからな。
 引き継ぎの目安に組み込んだのだが……まさか……」 

 大司教が哀れむような目で俺を見る。
残りがない人になんて会ったことがなかったのだろう。

 「……何故伝えた?」

 魔王の声が低くなる。怒っているみたいだが、理由はわからない。

 「私の過ちを身の危険を省みずに教えてくれたからだ。この部屋に入るのも簡単ではなかったはず。
 残酷な事実なのは重々承知の上。
だが、カルム君に伝えないとまだ「教会送り」があると思って、命を無駄にしてしまうのではないかと……」

 納得のいっていない顔で魔王は黙っている。
俺がこんな状態になるのなら伝えなかった方が良かった、とでも言いたげだ。

 (俺を心配している……?)

 でも大司教もかなり辛そうな表情だし、責めるのは違うだろう。
それに、俺は怒りより衝撃の方が大きい。

 「だ、大司教様。お、教えてくれて、ありがとう、ございました……」

 声が掠れて、上手く言えたかどうかわからない。
 大司教は静かに目を伏せた。

 「すまない……やはり酷だったな。私を殴ってくれても構わない……」
 
 そうは言われても、俺は動けなかった。
 室内はずっと静かで鼓動音が頭に響いて気分が悪い。


 どれぐらい時間がたっただろうか。
 突然部屋の大扉が開き、フロー達が飛び込んでくる。

 「カルム!?あんたここに――カルム?」

 俺はよほど酷い表情をしているのだろう。
目が合ったフローは持っていた杖を取り落とした。

 「フローさん!?……ってカルム――」

 アリーシャも言葉が続かなかった。
最後に入ってきたザルドも口を開けたまま俺を見つめている。

 「み、皆……俺……」

 口を動かしたが、喉が詰まって声にならない。
 フローはすぐに杖を握り直すと魔王を睨みつけた。

 「な、何があったっていうの?魔王!あんたがカルムに――」

 「我は何もしておらぬ。そこで同じようにうなだれている大司教にでも聞け」

 フロー達は魔王が顎でさした先を見て目を見開く。大司教が苦渋に満ちた顔で傍観していた。

 「あ、あんたが大司教……様?」

 「そうだ」

 「カルムさんに、何をしたんですか?」

 大司教はゆっくり顔を上げると、苦悶の表情で話しだした。

 「その前に、詫びさせて欲しい。
 組織の者達が「教会送り」のペナルティを伝えていなかったようだ」

 「ま、まさか……」

 ザルドの声が震えている。

 「「教会送り」になる度に、寿命を1年失っている」


 皆の顔から血の気が引いた。
アリーシャはその場に座り込み、フローとザルドは杖や盾を支えにして必死に姿勢を保っている。


 改めて重い事実が突きつけられた。



 誰も一言も発さず、浅い呼吸音だけが響いている。
 室内は真っ白なのに、俺達の心は真っ黒な穴に突き落とされていた。

 大司教は俺達の様子を気にしながら慎重に語りだす。

 「私は、てっきり司祭達が説明しているものとばかり……。
今までの目覚めの時にも彼等に尋ねたが「ご安心ください。しっかりと説明しております」と言われ、信じ切っていた。
まさか、このようなことになっているとは……」

 「そ、それで、あなたは、ぬくぬくと生きのびているのね」

 事実を受け止めながらもフローが言葉をつなげる。
しかし声が震えていて、覇気がなかった。

 「ぬくぬく……君達から見ればそう捉えられても仕方がない。
しかし、私は理不尽に喪われる命を無くしたかったのだ」

 「理不尽……」

 フローが黙り込んだ。
 今度はアリーシャが体を震わせながらも、大司教の目をしっかりと見て質問をぶつける。 

 「で、では、どうしてカルムさんが……」

 「彼が今の状態になってしまっているのは……「次に命を失えば永遠の死を迎えてしまう」と私から聞いたからだ」 

 フロー達の視線が俺に集まる。
 俺は小さく頷くことしかできなかった。

 「そ、そんなっ!!」

 「嘘だろ!?」

 「じゃあ私達も次がないわけ!?」

 フローの叫び声に大司教は力なく首を左右に振った。

 「君達3人はまだ10年以上の余裕がある。
本当に、カルム君だけが……」

 「な、何か方法はないんですか!?寿命を分け与えるとか!」

 うっすらと目を潤ませながら早口に言うアリーシャに、
大司教は静かに告げる。

 「残念ながら、ないのだよ。君もヒーラーならわかるはずだ……」

 「で、でも、こんなことって……」

 頭痛が酷くなってきた。
 徐々に周りの声が二重に響き、ハッキリ聞き取れなくなる。

 (次死んだら、終わりか……)

 ついに、俺の視界が真っ黒に染まった。
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