命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

文字の大きさ
92 / 93
第2部 「教会送り」追求編

最終話 故郷に帰る

しおりを挟む
 「はっ!?」

 勢いよく体を起こすと、アリーシャ達の顔が視界に映った。
 宿屋かどこかに運ばれたらしく、落ち着いた色合いの壁や調度品が控えめに置いてある。

 「カルムさん!気がついたんですね!」

 「ああ……。俺はいったい……」

 「あんた、丸2日眠りっぱなしだったのよ。そりゃあショックよね……」

 フローの言葉を聞きながら頬をつねってみた。
すぐにわずかな痛みがはしる。
 
 (痛ぇ。やっぱり夢じゃないんだな……)

 フロー達が順に俺が眠っている間に起こったことを教えてくれた。

 まず、各教会に設置してある映像装置を使って大司教が全国民にペナルティについて話し、深々と頭を下げたらしい。
 それから、トゥラクの司祭達がペナルティを伝えないことを主導していたとして全員解雇され、メンバーが入れ替わったそうだ。

 (当然だよな。これでちょっとは組織もマシになるかな)  

 少なくともいい加減な対応はしなくなると思う。
「教会送り」を管理しているのだからしっかりしてほしい。

 すると、ザルドが明らかに不安の色を浮かべて尋ねてくる。

 「それで、カルム……気分は大丈夫なのか?」

 「あの時よりは落ち着いたよ。まだ実感がないけどな……」
 
 「それにしても、大司教様ももう少し配慮ってものを考えて欲しかったわね。
あんな事言われて気絶しない方がどうかしてるわ」

 「でも、大司教が教えてくれなかったら俺は知らないままだったからな。
それに伝えた本人もかなり苦しそうだったし」

 そう答えるとフローは眉を下げた。
まだ何か言いたげだったが、諦めたように口を閉じる。

 「そういえばフロー達はどうやって大聖堂に?乗り込むの大変だっただろ?」

 「そもそもカルムとはぐれたことにビックリしたけどな。気づいたら居なくなっててよ。探すかどうか迷ったんだが、大聖堂に向かってることを信じて進むことにしたんだ」

 「2階まではどうにか進めたんだけど、司祭達が固まっててね。私達も武器や魔法で威嚇はしたんだけど……」

 「当然なんですけど相手も退かなくて。このままじゃ危ないって思った時に、黒い鎧の人が暗黒ナイト達をを引き連れて駆けつけてくれたんです。
「先に進め」って言ってました」
 
 「……へネラルさんだ……」

 (じゃあ魔王が町に突入する前に離れたのは、へネラルさんと話すためだったのか)

 思わず呟くとフローが呆れ顔でため息をついた。

 「あんた、魔族に顔ききすぎじゃない?」

 「一時期魔王城に居たんだから仕方がないだろ……」

 そう答えながら、魔王達の姿がないことに気づいた。俺達と居れば非難されるのは間違いないので納得はしたが、どうしているのかが気になった。

 「魔王達は?」

 「あぁ、魔王達なら宣言して帰ったぞ。大司教様の謝罪の後に「我等はニンゲン共を滅ぼすつもりはない。だが、どうしても戦いたいというのであれば、
3ヶ月後に城まで来い!「教会送り」にならぬ程度に相手してやるわ!」ってな」

 「なんだそりゃ……」

 「「教会送り」のペナルティを知ってもなお、戦い続けたい人達のために武闘大会を開くそうなんです。種族なんて関係ないみたいで……」

 「魔王らしいな……」

 子ども姿のまま偉そうに言い放っている魔王を思い浮かべて、思わず笑みを漏らす。
それを見たフローから鋭い指摘が入った。

 「やっぱりあんた、前世魔族なんじゃない?」

 「なんでそうなるんだよ!?俺はれっきとした人間!」

 「お、カルムが突っ込みかえした。それぐらい回復したんだな」

 笑顔で言うザルドの言葉に冷静になれた。

 (確かに……。だいぶ調子が戻ってきた。
タイミング的にも今言ったほうが良さそうだな)
 
 次がない、とわかった時からうすうす考えていたことを話そうと思った。
 
 「3人共、聞いてくれ」

 俺の少し真面目な声に皆が何事かと顔を寄せる。

 「俺……冒険者を引退しようと思うんだ」

 「引退!?」

 「た、確かに安心かもしれないけど、そこまでしなくてもいいんじゃない?」

 「そうだぞ、カルム!俺達が注意してればいいんだから!」

 口々に引き留めてくれる。
でも俺は考えを改めるつもりはなかった。

 「そう言ってくれるのは嬉しいけど、皆に迷惑がかかるから」

 「じゃあ、あたし達は解散ってこと!?」

 「それでもいいし、新しいメンバーを加えて再出発してもいいと思う。
どうするかは皆に任せるよ。無責任なこと言ってるけどな……」

 「い、いえ、無責任ではないと思います。
 カルムさんは私達のことをしっかり考えた上で、発言してくださったんですよね?」

 「そのつもりではあるけど……」

 フローがアリーシャに眉をつり上げて詰め寄る。
その気迫にアリーシャが少しだけ肩を震わせた。

 「アリーシャ!あんた自分の言ってることわかってるの!?
もうこのメンバーで冒険できないのよ!?」

 「わ、わかってます……。
 私だってこの4人で冒険したいです。でも、ふとしたことでカルムさんを喪ってしまったら、悔やんでも悔やみきれませんから」

 「……それはあたしだってそうよ。でも方法なんていくらでもあるわ!」

 「フロー、願いは皆同じだと思うぞ。
ただ、もしもの時のリスクが大きすぎる」

 ザルドの冷静な意見にフローは口を曲げた。
完全に納得はしていない顔だが、やがてゆっくりと首を縦に振る。

 「そうね……。4人で過ごすのは最後だけど、二度と会えなくなるわけじゃないんだし……」

 「ごめんな、フロー」

 「あんたが謝ることじゃないわよ。いつかはこうなるかもしれないんだから、それが早まったと思えば……」

 フローの言葉にアリーシャとザルドが目を伏せる。 
 場の空気が重くなって辛くなったので、適当に理由をつけて宿屋を出ることにした。


 外に出ると、人々が町の修復に尽力していた。職人を中心に忙しそうに動き回っている。
 元はといえば原因は俺達なので、見ていて申し訳なくなってきた。

 「俺達も手伝った方がいいかな……」

 「あたし達みたいな素人が入ってもあんまり変わらないわよ。
まぁ、元凶なんだから手伝った方がいいんだろうけど……」

 そう話しながら周囲を見回していると、複数の集団が俺達を見ながらボソボソと話している。
 なんとなく視線が痛い。彼等は眉を寄せていて、あまり良い内容ではなさそうだ。

 「やっぱり俺達はよく思われてないみたいだな……」
 
 「か、間接的に町を破壊しちゃいましたからね」

 「町から離れたほうがよくないか?」
 
 「そ、そうね」 

 珍しくフローがソワソワしている。
 俺達は逃げるようにトゥラクを後にした。



 トゥラクから少し東に進み、俺達はいつか野宿した旧街道の橋の下で腰を落ち着けていた。

 「あれじゃ修復にかなり時間かかるよな……」

 「で、ですが、人害は少なかったそうです。軽症者なら複数出たみたいですけど、死者はいなかったみたいで……」

 「変なところで律儀だったなあいつら。
デュークなんかはどさくさに紛れて殺すかと思ったのに」

 「ああ見えても魔王の言うことはちゃんと聞くんだよ、デュークさんは」

 そう言うと3人が一斉に俺に視線をぶつけてきた。
特にフローは怪訝そうに俺を睨んでいる。

 「俺何か変なこと言った!?」

 「そういえばずっと思ってたけど、何であんたはデュークを「さん」付けで呼んでるわけ?」

 「今更!?」

 「い、今更ですけど気になります。何かあったんですか?」

 アリーシャが遠慮がちに尋ねてくる。でも緑色の目は明らかに興味津々だ。
ザルドも隣で深く頷いている。
 とんでもないことを突っ込まれてしまった。

 (「ツケ」は抜きで話すしかないな……)

 「いろいろ助けてもらったから、俺なりに感謝を込めて呼んでるだけだよ……」

 「本当にそれだけなの?」

 「それだけ!他に何があるって言うんだよ!?」

 なかなか食い下がらないので、ついヤケになってしまう。
ザルドがいつになく真剣な表情で顎に手を当てている。
 
 「でも、カルムがずっと「さん」付けで呼ぶなんて珍しいぞ」

 「怒らせたら怖いんだ。だから「さん」付けだったんだよ」

 「ふーん。まぁカルムがそう言うなら……」

 3人共まだ詮索したそうだったが、キリがないと察したのか口を閉じてくれた。 

 そのまま静寂に包まれるかと思ったが、フローが思い出したように俺に声をかけてくる。

 「で、カルムはこれからどうするのよ?」

 「故郷に戻って、両親の手伝いをしようと思うんだ。
ナキレの南にある小さな村だけど、気が向いたら寄ってくれよ」

 「あぁ、気が向いたらな」

 「とか言いながらザルド、絶対に寄るつもりね」

 「ははは、バレた?」

 歯を見せて笑うザルドを横目で見ながらフローが立ち上がる。
つられて俺達も立ち上がった。
自然と3対1に分かれる配置になる。

 「寄るときは何かお土産持っていきますね」 

 「ああ。
 じゃあ、皆元気でな」

 フロー達に手を降ると、俺は故郷への帰路に着く。

 もう冒険をすることはない。
そう思うと胸が強く締め付けられた。

                               第2部 完
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...