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14 銀木犀

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心が揺れている。

早く命を絶たねば手遅れになる。

私はルヒカンド王国の者たちが憎かった。戦によって、私の大切な者たちが沢山死んでいった。

私はこの国で見せ物にされ、すぐに処刑されると思っていたのに。

王太子や侍女、ルシウスたちは私に優しかった。お付きの者もなくただひとりで連れてこられた異国の私に同情しているだけかもしれない。

だが、王太子のあたたかさを感じるうちに、私の憎しみが薄れてきていることに気づいてしまった。

敵国の王子に気を許すなど、あってはならないはずだ。マハ王国の皆の苦しみは今もなお続いているのだから。

いっそ密かに頼んでルシウスに殺してもらおうか。あの者なら力を貸してくれそうだ。


「王太子殿下がお見えです」


伝令に我に帰る。
侍女が私にある花を差し出した。


銀木犀ぎんもくせいだ。


この大陸ではマハ王国のみに生息する、瑞々みずみずしく上品な香りの花木だ。


「無神経ですまなかった。せめて祖国の花をと思い、急ぎ取り寄せた」


王太子は部屋に入るも、私から距離を保ったまま、近づこうとしなかった。

王太子の言葉はほとんどわからなかったが、銀木犀の香りがマハ王国のすばらしい秋を思いださせた。

私の頬を涙が伝った。
物心ついてから人前で泣いたことのなかった私は、慌てて自分の涙をぬぐった。

ふと気づくと、いつの間にか目の前に来ていた王太子がマントで私を隠し、皆に泣いている姿が見えないようにしてくれていた。

王太子と私との微妙な距離の間で、銀木犀のかぐわしい匂いが満ちた。
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