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十一話 鍛冶屋にて
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「ここ、ですね」
レイラは一つの家の前で立ち止まり、紙とその家を交互に見ながら呟いた。
「ヴォルフさんの家はここで間違いないです! ここです!」
するとゲイルが軒先に掲げられている看板を指さして、レイラに尋ねる。
「あれ、なんて書いてあるの?」
「あれは鍛冶屋、って書いてあるんです」
「鍛冶屋?」
ゲイルは軽く首を傾げた。その様子を見たレイラは何か考えるように、少し上に目線をおいてゆっくりと言葉を紡ぐ
「そうですね……剣とか包丁なんかの刃物や農具なんかを作ったり、修理したりするのが鍛冶屋さんですね」
「ふーん。なるほど。まぁよく分かんないけど、何かをするお仕事、ってことなんだね」
「そうですね! でも、鍛冶屋さんを知らないってマーガイ村には無かったんですか? 結構何処にでもあるのに……」
レイラは不思議そうにそう呟いた。
剣はまだしも、包丁や農具なんかは何処でも使う。レイラの言う通り、大体何処にでもあるのだが、当然魔界にはない。
そもそもフェイレイの手刀はありとあらゆるモノを切れてしまう。ゲイルは鍛冶屋どころか、包丁すら見たことも無かったのであるが……
「そ、そう! マーガイ村には無かったんだ! あはは……さ、さあ! そんなことより中に入ろうよ!」
ゲイルは慌てた様子でレイラにそう告げると、
「すいませーん。ヴォルフさん、いますか?」
中では一人の男性がこちらに背を向けて槌を振るって剣を鍛えていた。その背中からは熟練の職人の雰囲気が漂っている。
その様を見たゲイルはビクッとなり、レイラの後ろに隠れてしまった。
「何用じゃ?」
ヴォルフが槌を振るう手を休まずに、こちらを見ることもなく背中越しにこう尋ねた。するとゲイルは小声でレイラにこう頼み込む。
「ご、ごめん。レイラが話して」
それを受けてレイラはゲイルの代わりにヴォルフに話しかけた。
「私たち冒険者ギルドからクエストを請けて来たんですけど」
「おお! そうか! そこに包みがあるじゃろ? それをアチェル村のジュダスに届けて欲しいんじゃ」
ヴォルフは槌で机の上に置いてあった小包を指してから、また直ぐにその槌を振るった。やはりレイラたちを見ることもなく。
「アチェル村のジュダスさん、ですか?」
「うむ。アチェル村は東のフランシスカ峠の向こう側にある村じゃ。ジュダスは儂の弟子でな。さほど大きな村ではないし、鍛冶屋も一つしかない。アチェル村に着けばすぐわかるじゃろ」
どうも落ち着かない様子を示すゲイルはそこまで聞くとレイラの服の裾をクイクイッと引っ張りレイラにこう促した。
「ね、早く行こ?」
「分かりました。ありがとうございます!」
とヴォルフに告げて、小包を持って鍛冶屋を後にした。
しかし、槌を振るっていた為か、ヴォルフは二人が出ていったことに気づかないようで、こう続けた。
「あ、そうそう。フランシスカ峠は良くない噂を耳しておる。入らない方がよいじゃろ。そもそも簡単に越えられるような峠じゃない。街道を回って行った方が早いがのう」
返事がないことに不思議に思ったヴォルフは、そこでやっと顔を上げて振り向いた。
「ありゃ? 行ってしまったか? ま、よいじゃろ」
そしてまた鍛冶屋には槌を振るう音だけが響くのだった。
レイラは一つの家の前で立ち止まり、紙とその家を交互に見ながら呟いた。
「ヴォルフさんの家はここで間違いないです! ここです!」
するとゲイルが軒先に掲げられている看板を指さして、レイラに尋ねる。
「あれ、なんて書いてあるの?」
「あれは鍛冶屋、って書いてあるんです」
「鍛冶屋?」
ゲイルは軽く首を傾げた。その様子を見たレイラは何か考えるように、少し上に目線をおいてゆっくりと言葉を紡ぐ
「そうですね……剣とか包丁なんかの刃物や農具なんかを作ったり、修理したりするのが鍛冶屋さんですね」
「ふーん。なるほど。まぁよく分かんないけど、何かをするお仕事、ってことなんだね」
「そうですね! でも、鍛冶屋さんを知らないってマーガイ村には無かったんですか? 結構何処にでもあるのに……」
レイラは不思議そうにそう呟いた。
剣はまだしも、包丁や農具なんかは何処でも使う。レイラの言う通り、大体何処にでもあるのだが、当然魔界にはない。
そもそもフェイレイの手刀はありとあらゆるモノを切れてしまう。ゲイルは鍛冶屋どころか、包丁すら見たことも無かったのであるが……
「そ、そう! マーガイ村には無かったんだ! あはは……さ、さあ! そんなことより中に入ろうよ!」
ゲイルは慌てた様子でレイラにそう告げると、
「すいませーん。ヴォルフさん、いますか?」
中では一人の男性がこちらに背を向けて槌を振るって剣を鍛えていた。その背中からは熟練の職人の雰囲気が漂っている。
その様を見たゲイルはビクッとなり、レイラの後ろに隠れてしまった。
「何用じゃ?」
ヴォルフが槌を振るう手を休まずに、こちらを見ることもなく背中越しにこう尋ねた。するとゲイルは小声でレイラにこう頼み込む。
「ご、ごめん。レイラが話して」
それを受けてレイラはゲイルの代わりにヴォルフに話しかけた。
「私たち冒険者ギルドからクエストを請けて来たんですけど」
「おお! そうか! そこに包みがあるじゃろ? それをアチェル村のジュダスに届けて欲しいんじゃ」
ヴォルフは槌で机の上に置いてあった小包を指してから、また直ぐにその槌を振るった。やはりレイラたちを見ることもなく。
「アチェル村のジュダスさん、ですか?」
「うむ。アチェル村は東のフランシスカ峠の向こう側にある村じゃ。ジュダスは儂の弟子でな。さほど大きな村ではないし、鍛冶屋も一つしかない。アチェル村に着けばすぐわかるじゃろ」
どうも落ち着かない様子を示すゲイルはそこまで聞くとレイラの服の裾をクイクイッと引っ張りレイラにこう促した。
「ね、早く行こ?」
「分かりました。ありがとうございます!」
とヴォルフに告げて、小包を持って鍛冶屋を後にした。
しかし、槌を振るっていた為か、ヴォルフは二人が出ていったことに気づかないようで、こう続けた。
「あ、そうそう。フランシスカ峠は良くない噂を耳しておる。入らない方がよいじゃろ。そもそも簡単に越えられるような峠じゃない。街道を回って行った方が早いがのう」
返事がないことに不思議に思ったヴォルフは、そこでやっと顔を上げて振り向いた。
「ありゃ? 行ってしまったか? ま、よいじゃろ」
そしてまた鍛冶屋には槌を振るう音だけが響くのだった。
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