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プチ演奏会
しおりを挟む「たしかマチルダ伯爵家のエヴァーナ嬢だよね?今年社交界デビューする」
「そ、そうですけど…」
(え、なんで知ってるの…?)
「そう、じゃあ近々会うと思うからよろしくね…それと」
それと…?
言葉の続きが気になり、殿下の顔を見る。
すると、目が会った瞬間ニコリと微笑み、自然な動作で私の手をとりキスをおとした。
「…へ…?」
「それじゃあね、エヴァーナ嬢…いや、リリー…」
そう言うと殿下は消えてしまった。
去り際に何か言っていたようだけど、よくは聞こえなかった。
◇ ◇ ◇
所変わって我が家、先程納品や報告を済ませてやっとの思いで我が家に帰ってきた。
殿下の言っていた通り、私は大変な大物を狩ってしまったようで、王宮から呼び出しがされた。
ただ、近々デビュタントを控えているので、その後に謁見という形となった。
「はぁ…なんでこんなことに…」
「おかえりエヴァーナぁぁぁ!!」
「おかえりぃぃぃ!!」
「うわぁぁぁん!!」
国王と謁見と言うだけで胃に穴が空きそうなのに、デビュタントで社交界デビューとは。
これは絶対私を殺しに来てる。
緊張で胃が爛れそうよ…!!!
(そんなの耐えられない…!!)
というかさっきから私の家族がウザイ。
幸せな悩みだとは思うけど、ちょっとこれはウザイわ。
「お、お父様、お母様、ユーリ、そろそろ離れてください…」
「「「いやだあぁぁぁ(よおぉぉ)!!!」」」
(ちょっとぉぉ!即否定するんじゃなあぁぁい!!)
「…お母様、私、楽器が弾きたいわ」
苦渋の策として、私は家族の前で演奏する事を選んだ。だからいい加減引っ付くのはもらいたい。
のだが……。
「まぁ!!今日は演奏会よ!!!」
「すぐに手配しよう!!」
「僕楽譜持ってくるよ!!」
なんなんだこいつら…もう知らない、どうにでもなれ。
私は遠い目をしながら、嬉嬉としてヴァイオリンと楽譜を差し出してきたユーリを「今日はヴァイオリンが聴きたいのね?」と理解し、受け取った。
「はぁ…」
(私の家族には困ったものだわ…本当に、泣けちゃうくらいに)
ちょっと疲れたけど、愛されているって感じられるから、私は嫌がったりはしない、それこそ前世では母子家庭で、父は物心着く前からいなかったし、母だって仕事で帰ってくるのは夜中だった。
だから実を言うと今のこの環境が涙が出るほど幸せな事だと分かる。あの頃手に出来なかった幸せが今の私にはある。
私はそれが酷く嬉しくて、ちょっとだけ涙が出た。それでも、この気持ちが少しでも伝わって欲しかったから、私は音楽を奏でた。
背筋を伸ばし、腕を固定する。
それだけで周りは緊張に包まれ、静寂が満ちた。
選曲は「あなたへ」
前世の曲で、母が子、子が母を想う曲。
映画にも使われた曲で、この「あなたへ」が流れた途端誰もが涙を流したんだとか、おかげで映画は大反響を生み、日本アカデミー賞が贈られた。
その感動を再現できるか分からないけど、私はこの想いが届くようにと弦を滑らせた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
※合唱曲に「あなたへ」という曲がありますが、この作品でててくる「あなたへ」は別物です。
お読みいただきありがとうございました。
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