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第三章・デルミーラ視点

28話「救世主」

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「お止めなさい」

会場に凛とした女性の声が響いた。

「あなた方が今している行為と、彼女が今までしてきた行為、どちらが卑劣ですか?」

声をのしたほうに顔を向けると、茶色の髪を綺麗に結った黒い目の小柄な女性が立っていた。

彼女の容姿は平凡だが、身につけているドレスのし立ては良かった。

彼女の体型に合わせて採寸されたドレスは、華美にならないように彼女の上品な美しさを引き出している。

彼女の出現に、わたくしを拘束していた男たちは一瞬たじろいだ。

「しかし侯爵夫人!
 この女はあなたのご主人を貶めていた張本人ですよ!」
「そうです!
 俺たちの家族や友人だってこの女に酷い目に遭わされたんです!」
「ちょっとくらい怖い目に合わせても、バチは当たらないと思います!」

男たちは彼女に言い訳をした。

「たとえ自分が嫌なことをされても相手にそれを返すべきではありません。
 今からあなたがしようとしていることを、ご家族やご友人に胸を張って報告できますか?」

侯爵夫人にそう問いかけられ、男たちは罰が悪そうに彼女から視線を逸らした。

「わたしの主人を思ってくださる心はありがたいです。
 ですがそれを免罪符に恥ずべき行為に手を出さないでください。
 彼らだけではなく、この会場にいる全ての方に伝えます。
 わたしは決して復讐を望んでおりません。
 だからシーラッハ公爵夫人に手荒な真似はしないでください。
 それは私と主人が望むことではありません」

侯爵夫人が毅然とした態度でそう言うと、わたくしを拘束していた男たちは、わたくしから手を離した。

「すいませんでした侯爵夫人。
 俺たちはただ身内にされたいひどい思いを、この女……いえシーラッハ公爵夫人にも分かってもらいたかった……ただそれだけなんです」

「大丈夫です、そのことは私が責任を持って彼女に伝えます。
 あなたたちに累が及ぶような真似はさせません。
 ただ今日の行いを反省し、これからは心正しく生きてください」

「「「はい今後このような行為はいたしません! すいませんでした!」」」

男たちは侯爵夫人に頭を下げると、パーティー会場から出ていった。

パーティ会場はまた平穏を取り戻した。

私は力が抜けその場から動けなかった。

「助かったわ。ありがとう名前を聞いておくわ」

私がそう言うと侯爵夫人は驚いた顔をした。

だが彼女はすぐに社交的な笑みを浮かべ、

「申し遅れました私の名はアリッシャ・ザロモン。
 ザロモン侯爵の妻です」

優雅にカーテシーをした。

「ザロモンですって?
 ではあなたがフォンジーの妻!?
 現ザロモン侯爵夫人だって言うの!?」

「さようでございます」

穏やかなほほ笑みもたたえるこの女がザロモン侯爵夫人ですって!

わたくしは、この女の悠々とした態度にカチンときた。

「何よ、無様に落ちぶれた私を笑いに来たの?
 孤立無援になったわたくしを助けていい気分?
 知っているわよ。
 あんた元々は男爵家の娘でしょう?
 元男爵令嬢が落ちぶれた侯爵と結婚したからって、偉そうにふんぞり返ってないでよね!
 わたくしは名門シーラッハ公爵家の正妻なの!
 あなたとは格が違うのよ!」

わたくしがそう叫ぶと、パーティー会場はしんと静まり返った。

しかしその数十秒後、会場はざわめくことになる。

「何かしら、シーラッハ公爵夫人のあの態度は?
 ザロモン侯爵夫人に助けて頂いたというのに失礼ではなくて?」
「嘘の噂を流しザロモン侯爵家を散々落とし見ておいて、そのことがシーラッハ公爵にバレて離婚を迫られているのに、よくパーティー会場に顔を出せましたね!」
「厚顔無恥って彼女のような人のことをいうのね!」
「やはり彼女のことは、少し痛い目に合わせたほうがよろしいんじゃなくって!」

わたくしは、悪口を言っている夫人たちをキッと睨みつけた。

「あなたたちはわたくしより身分の低いくせに生意気よ!
 集団で遠くからしか意見出来ない弱虫のくせに!」

わたくしがギロリと睨みつけても、彼女たちは悪口を言うのをやめるなかった。

それどころか火に油を注いでしまった。

「なんですのあの態度!」
「そんな態度だから閣下に見捨てられるのよ!」
「離婚されたら平民なるというのに!」
「あの方が平民に落ちたら皆で仕返してやりましょう!」

皆から悪意のこもった目で見られ、背筋が寒くなった。

「ヒッ……!
 な、なんですの……言いたいことがあるなら、今言いなさい!」

「皆様、おやめください。
 先ほども申しましたが、ご自分のご家族やご友人に胸を張って言えないような行動はお控えください。
 それからわたしやわたしの夫を気遣うという名目で、彼女を罵るのもおやめください」

ザロモン侯爵夫人が凛とした声でそう言うと、会場は静けさを取り戻した。

ザロモン侯爵夫人がわたくしに向き直る。

「シーラッハ公爵夫人、わたしはあなたに説教したいわけではありません。
 ただ高位貴族として、他の貴族に見本になる言動を心がけていただきたいだけなのです」

「さすがはザロモン侯爵夫人だ!」
「どこかの誰かとは格が違う!」
「先程は少々言い過ぎましたわ」

ザロモン侯爵夫人の言葉に皆が感銘を受けていた。

「気に入りませんわ!
 誰も彼も小鼻をうごめかして偉そうに!
 未来はどうあれわたくしはまだ公爵夫人です!
 わたくしより身分の低い者の言うことなど聞きませんわ!」

「では身分の上の者の言葉なら聞いてくれるのかな? シーラッハ公爵夫人」

わたくしの言葉は思わぬ人物に聞かれていた。

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