第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結

まほりろ

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改稿版

改15話「皇太子アルドリック・ルーデンドルフ」  

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 門番さんが通してくれたので、正門から中に入った。   
 正門にいた門番さんは三人。
 私に話しかけてくれた門番さんが宮殿まで案内してくれて、一人は門の番を続け、一人は私が来たことをアルドリック様に知らせに走った。
「あたしは正門から城に入ったのは初めてだよ」
「俺もだ」
 皇族専属の鍛冶師とお針子の二人は、お城に慣れているはず。
 正門から入ったからか、緊張しているように見えた。
 今の私はニクラス公爵家の令嬢ではなく平民。
 アルドリック様からのお手紙を持っていたとはいえ、簡単に通して良かったのでしょうか?
 門番さんが、後で叱られないか心配だわ。
 正門からお城までは石造りの道が続いている。
 道の両脇には手入れの行き届いた花壇が有り、季節の花が目を楽しませてくれた。
 アルドリック様に会うのは十一年振り。
 彼からの手紙に「遊びに来てください」「あなたならいつでも大歓迎です」と書かれていたので、勢いでここまで来てしまったけど。
 アルドリック様が、平民になった私に会ってくれるのか不安だわ。
 そんな私の不安を知ってか、花壇に咲く美しい花々が元気付けてくれているように見えた。

 そんなことを考えている間に、建物の前にたどり着いた。
 赤い屋根に白い壁の四階建ての壮麗なお城。
 正門と思われる建物の入口に、燕尾服を纏った年配の男性が立っていた。
「リアーナ・ニクラス様ですね。
 わたくしはこの城の執事長をしております。
 エルンスト・ヴァーグナーと申します。
 遠路はるばるようこそおいでくださいました」
 その方は執事長と名乗った。
「ここからは門番に代わり、わたくしがご案内いたします」
 門番さんの一人が、先触れに走ったので、執事長さんが出迎えに来てくれたようだ。
 案内をしてくれた門番さんにお礼を伝え、執事長さんの後について行くことにした。

 豪華なシャンデリアが飾られた玄関ホールを抜け、優雅な手すりの付いた階段を登り、きらびやかな絵画が飾られた廊下を抜けた先に、その部屋はあった。
 美々しい彫刻が施された木の扉を、執事長さんが四回ノックする。
「執事長のエルンストです。
 お客様をお連れしました」
 執事長さんが要件を伝えた。
「ありがとう、エルンスト。
 リアーナ、君のことをずっと待っていた。 
 どうぞ中に入って」
 中から鈴を転がしたような、涼やかな声が聞こえた。
 今のがアルドリック様のお声でしょうか?   
 最後にアルドリック様とお会いしたとき、彼はまだ七歳でした。
 私は声変わり前のアルドリック様の声しか知らない。
 彼の声変わりをした声を聞いただけで、胸がトクンと音を立てる。
 それはアルドリック様も同じこと。 成長した私を、彼は知らない。
 今の私を見て、アルドリック様はどう思うかしら?
 扉の向こうにアルドリック様がいると思うと、胸がドキドキしてきた。
 執事長さんがドアを開けると、素敵な紳士が視界に入った。
 部屋の中央に立っていたのは、烏の濡れ羽色の髪、黒真珠の瞳、陶磁器のように白く美しい肌の、まだあどけなさの残る青年。
 青年はスラリと背が高く、天使と見紛うほど顔立ちが整っていた。
 青年は、黒を基調にし青と黄色を差し色に使ったジュストコールを纏っていた。
 思い出の中のアルドリック様より、かなり身長が伸びている。
 顔つきが大人びて、凛々しいお顔立ちになっていた。
 立っているだけなのに、とても優雅で気品がある。
 成長しても幼い頃の面影が残っていた。
 彼は私と目が合うと人懐っこい笑顔を浮かべた。
 あの笑顔を私はよく知っている。
「アルドリック様……!」
 感動で胸がいっぱいで、彼の名を呼ぶのに、少し時間がかかってしまった。
「リアーナ! 会いに来てくれて嬉しいよ!」
 アルドリック様が大股で私に近寄って来た。
 近くで見ると、彼はとても大きかった。
 頭一つ分くらいの身長差がある。
 以前お会いしたときは、二人共まだ子供だったので、同じくらいの身長だった。
「月のように煌めく銀色の髪!
 紫水晶のように輝く瞳!
 雪のように白くきめ細やかな肌! 
 懐かしい! 
 全然変わってないねリアーナ!」
 彼が私の肩に手を置いた。
 彼に触れられ、ドクンと心臓が跳ねた。
 アルドリック様は、あの頃より精悍な顔つきになられ、勇壮で男らしく、皇族としての気品をまとい神々しくなられた。
 恥ずかしくて、本人には言えない。
「アルドリック様もお変わりなく……!」
 無難な返事をしようとすると……。
 アルドリック様はおもむろに私を抱き上げると、その場でくるくると回り始めた。
「あの、アルドリック様……!」
「君にまた会えて、本当に嬉しいよ!!」
 しばらく回ったあと、アルドリック様が私を抱きしめた。
 彼の腕の中に自分がいる事に、自分自身が一番驚いている。
 大人になってから、男性に抱きしめられたのは初めてだ。
 心臓がバクバクと煩いくらいに鳴っている。
「先ほど君は『変わってない』と言ったが……あれは、嘘だ」
 彼が真っ直ぐに私を見つめる。
 みすぼらしく成長した姿にがっかりしたとか……そういう意味でしょうか?
「リアーナ、君は変わった。
 前よりもずっと、綺麗になった」
 アルドリック様の端正なお顔が朱色に染まる。
「……えっ?」
 今の「綺麗」は、何に対しての感想でしょう?
 アルドリック様は幼い頃私の描いた絵を「美しい」と褒めてくれた。
 だけど、私は今絵を持っていない。
 だから、絵のことを言っているのではない。
 私が身に着けているもので褒められるものは……? 
 服……しかない。 
 アルドリック様は、ゲルダさんが仕立て直してくれたドレスを見て、綺麗だと言ってくれたのね。
「ありがとうございます」
 服を褒められたので、お礼を伝えておく。
 アルドリック様ははにかんだ表情を見せた。
 彼は私の髪に触れると、顔を近づけてきた……。
「ゴホン……!
 お取り込み中失礼します」
 アルドリック様の隣に、薄紫の軍服を纏った男性が立っていた。
 青い髪に水色の瞳の端正な顔立ちの青年。
 青年は私と同じくらいに見えた。
「アルドリック様、二人だけの世界に入っているところ申し訳ありません。
 リアーナ様のお連れの方が、固まっています」
 ドミニクさんと、ゲルダさんが、扉の前で固まっていた。
 ふ、二人の存在を忘れていました。
 アルドリック様と見つめ合っていたのを、見られてしまった。
 急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「そうだった、君には連れがいたんだね。
 報告は受けている、二人は君をここまで連れてきてくれたんだってね。
 君と再会できたのが嬉しすぎて、他の者が視界に入らなかった」
 彼の注意がそれたので、私は彼から距離を取った。
 平民の私が皇族のアルドリック様のお傍にいるのはおかしい。
「いえ、こちらこそ失礼いたしました」
 もう幼い頃とは違う。
 お互いに、むやみに相手の体に触れてはいけない。
 幼なじみとはいえ、私は実家の公爵家を勘当され今は平民。
 相手はこの国の第四皇子。
 身分が違い過ぎる。
「再会したところからやり直そう!  よく来てくれたねリアーナ!
 歓迎するよ!」
 アルドリック様が朗らかに微笑む。
「お久しぶりですアルドリック様。
 先触れもなく尋ねたのにも関わらず、面会して下さりありがとうございます」
 私は淑女の礼に乗っ取りカーテシーをした。
「君の連れを紹介してくれるかな?」
「はい。
 皇族専属の鍛冶師のドミニクさんと、
 皇族専属のお針子のゲルダさんです」 
「ドミニクとゲルダは、皇族専属の職人だったんだね。
 どおりで、どこかで見たことがあるような気がしてたんだ」
 お城には多くの使用人がいる。
 アルドリック様にも公務があり、きっと多忙なはず。
 作業場所が隔離されていたり、ドミニクさんとゲルダさんが、アルドリックとは別の皇族の担当だった可能性もある。
 アルドリック様が、彼らの名前を覚えていなくても仕方ない。
「ドミニクさんとゲルダさんとは、ハルシュタイン王国の港で知り合いました。
 お二人は私の分の乗船券を購入して、
 船の上で食事もご馳走してくれました。
 ゲルダさんは白のローブしか持っていなかった私に、
 自分のドレスを仕立て直して着せてくれました」
 ドミニクさんと、ゲルダさんがいなかったら、ここまで来ることはできなかった。
「ルーデンドルフ帝国に着いてからは、私の人探しを手伝ってくれました。
 彼らには、道中とても助けていただきました。
 私がここまで来れたのは、お二人のおかげです」
 お二人には足を向けて寝られません。
「そうかリアーナが世話になった。
 僕からも礼を言おう」
「い、いえ……とんでもごさりませぬ……!」
「あ、あたし達は……ととととと……当然のことを……したままでで……ございましゅる」
 ドミニクさんとゲルダさんは、周章狼狽しゅうしょうろうばいしていた。
「リリリリリ……リアーナ……は、 アアアア……アルドリック殿下と……おおおおお……お知り合いで……?」
 ゲルダさんの体が小刻みに震えていた。
 寒いのでしょうか?
「はい、アルドリック様のお母様と、私の母はお友達でした」
「僕とリアーナは幼馴染なんだよ。
 会うのは十一年振りだけどね」
 アルドリック様は、私のことを幼馴染と認識してくれていた。
 そのことがとても嬉しい。
 ドミニクさんとゲルダさんが倒れた。
「リ、リリリ……リアーナ……様、はアルドリック殿下の幼馴染……!
 あわわわわわ……偉いことに……!」
「リアーナ……様の恋人への失言の数々……!
 おおおお……俺たち無礼うちにされる……!」
 急いで駆け寄ると、ドミニクさんとゲルダさんがうわ言のように何か呟いていた。
最大マクシムム・回復《ベッセルング》!
 最大マクシムム・回復《ベッセルング》!」
 すぐに回復魔法を唱えたが、二人が目を覚ますことはなかった。
「どうしましょう……!?
 回復魔法が効きません!」
「大丈夫だよ、リアーナ。
 おそらく、精神的なショックで気を失っただけだ。
 執事長、二人を医務室に運べ。
 リアーナの恩人だ。
 丁重に扱うように」
「承知いたしました」
 執事長さんが鈴を鳴らすと、兵士が数人駆けつけました。
 執事長さんは彼らに事情を話し、ドミニクさんとゲルダさんを医務室に運びました。

「私も、医務室に……」
「あの二人のことは医者に任せよう。
 それより聞かせてほしい。
 公爵令嬢の君が、乗船券を買えないほど困窮していた理由を」
 アルドリック様の表情は厳しく、漆黒の瞳は心配そうに私を見つめていた。
 門番さんには、私がドミニクさんとゲルダさんに助けられ、ここまで来たことを伝えた。
 ハルシュタイン王国で起きたことまでは伝えていない。
 だからアルドリック様も、先触れに走った門番さんからもたらされた情報以外、知らないのだ。
「実は……」
 私は祖国で起きた事をアルドリック様に伝えた。

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