夏休み、君と二人で

柊原 ゆず

文字の大きさ
1 / 1

夏休み、君と二人で

しおりを挟む

「美味しいかき氷が食べたい!」
「いきなりどうしたんだよ」

 夏休みの課題に取り組んでいたはずの恵子が両手を上げて、そう言い放った。俺はそんな彼女の様子に苦笑する。

「うちでね、去年かき氷機買ったのよ。でもろくに使わないまま夏が終わってさ。今年こそは食べたいなって思って」
「へえ」
「今年の夏ってとにかく暑いじゃん?梅雨が遅かったせいなのか、ムシムシして余計暑く感じるわけよ」
「確かに」
「そこで!かき氷機の出番だよ!」
「課題は終わったのか」

 すかさず突っ込みを入れると、恵子は分かりやすく息を詰まらせた。が、笑顔で俺の腕を掴み、立たせようとする。

「まあまあまあ!いいじゃんいいじゃん!祐介も涼しくなるよ!」
「……はあ。仕方ねえなあ」
「さすが祐介!愛してるう!」
「おま……そういうの軽々しく言うなよな」
「あはは、祐介だから言ってるんだよ」

 恵子の言葉に心臓が跳ねる。彼女の言葉はイマイチ本気なのか冗談なのか分からない。頬に熱が集まるのを感じながら、彼女の部屋を出てキッチンへと向かう。氷は既に作ってあったようだ。

「シロップは三種類あるよー」

 そう言って彼女が取り出したのは、イチゴ、ブルーハワイ、抹茶だ。

「……お前が好きな味しかないのな」
「へへ、まあね」
「じゃ、俺はこれ」

 俺はその中から抹茶を選ぶ。

「おっ、お客さん、シブいねえ!」
「何がお客さんだ」
「もう、のっかってくれてもいいのに。あ、トッピングに小豆あるよ」
「お、いいな。……やけに用意がいいな。お前、さては今日かき氷作る気でいたな?」
「あ、バレた?」
「……はあ。折角課題見てやるって言ったのに」
「お礼だよ、お礼!課題見てもらうお礼!」

 俺と恵子は幼馴染で同級生だが、恵子は勉強がからっきしダメだった。俺は天才や秀才ではないが、彼女よりは成績がいい。人に教えるのも勉強には効果的だとテレビで言っていたので、俺は夏休みの宿題を彼女とすることにしたのだ。……というのは建前で。本当は、彼女と夏休みも一緒にいたいのだ。愛してると軽口を叩く彼女に心臓を跳ねさせては落胆しているが。俺は今、純情で不毛な片想いをしている。

「よし、じゃあ作るよー!」

 恵子の用意したかき氷機は電動のようだ。氷をセットして、スイッチを押す。ガガガガガッと機械音がけたたましく部屋に響く。あっという間に、二つの器に小さな氷の山が出来上がった。彼女はイチゴ、俺は抹茶のシロップをかける。トッピングに彼女は練乳、俺は小豆を加える。

「いただきまーす!」

 元気よく手を合わせ声を上げた恵子は、スプーンで氷を掬い、口に入れる。

「ん~~~!美味しい!やっぱり夏はかき氷だね」
「……ああ、美味いな」

 一口一口噛み締める恵子は幸せそのものといった顔だ。俺は横目で彼女を盗み見る。こういう単純なところも可愛いなと思うのは惚れた弱みなのだろうか。

「かき氷ってさ、コタツで食べたらどうなるんだろう?アイスみたいに格別なのかな」
「いや、冬じゃないんだから」
「あはは、確かにそうだね」

 恵子は笑いながら再び氷を口に入れた。器はあっという間に空になり、彼女は名残惜しそうに器を片づける。

「美味しかったね!あ、そうだ!勉強のオトモにお菓子持っていこうよ!この前買ったうなぎパイあるよ!」
「……お前、勉強から逃げてないか?」
「そ、そそ、そんなことないよう!」

 恵子はうなぎパイとその他テキトウなお菓子を持ち、自室へと戻る。俺の予想とは対照的に、彼女は真面目に課題に取り組み始めた。一時間ほど経過し、今日の目標である課題が終わった。

「やったー!終わったー!」

 達成感にそのまま身体を横たえる恵子。寝ていても分かる豊満な胸に目がいき、俺はそっと目線を外す。気が付けば時刻は五時を過ぎていた。オレンジ色の夕日が窓から差し込む。

「……そろそろ帰るわ」
「そっか、もうこんな時間か」

 彼女は、俺の勘違いでなければ、少しばかり寂しそうな表情を見せた。家は隣同士だが、俺の家の玄関まで見送ってくれるそうで、俺は彼女に見送られる形で玄関のドアを開ける。

「あっ、祐介!」

 何かに気付いた恵子が声をかけてきた。

「何だよ?」

 振り向いた俺の左腕を掴み、引っ張る恵子。頬に、何かが触れた。

「忘れ物だよ!愛してるって、冗談で言うわけないじゃん!気付けよ馬鹿!」

 顔を真っ赤にした恵子が声を上げる。まさか、頬に触れたのって……。つられて俺の顔も熱を帯びていく。

「ちょ、お、おま……!」
「返事は明日でいいわよ!またね!」

 そう言い捨て、帰ろうとする恵子の左腕を掴む。

「お、俺だって!お前のこと……!」
「……なに?」
「……あ、あい、…てるよ!」
「ちょっと!大きな声で言いなさいよ!」

 照れて小声になってしまった俺に、彼女はすかさず突っ込む。

「……ちゃんと言えるようになったらまたキス、してあげる」

 頬を赤くしながらそんなことを言う恵子。悪戯な笑みが少しばかり憎らしい。

「お前、言ったな?!」
「ええ!言ったわよ!」
「絶対に言ってやるから、待ってろよ!」

 俺はそう言い放ち、勢いで玄関のドアを閉めた。心臓はまだバクバクしている。何だよ、両想いじゃねえかよ。じわじわとせり上がって来る喜びに口元が緩む。
 俺達の夏休みは、始まったばかりだ。

Fin.
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

2021.08.17 柊原 ゆず

SparkNorkxさん
お気に入り登録ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。