幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

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花園邸

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 雰囲気を作られて押し切られそうになったが、流石に俺と精華が状況判断がロクに判断できない状態でしていいものではないので、タマコさんに話を通すことを条件に保留してもらった。
 タマコさんは忙しく、いつ頃予定が開くか、予想が付かないらしく、とりあえず家で待って欲しいと黒スーツの男の人に言われた。

 精華が腕に手を絡めた状態でスモークガラスの黒塗りの高級車から乗り込み、諸事情がありプール掃除に戻れないことを恵梨香たちにSNSで連絡して、しばらくすると大きな武家屋敷が見えてきた。
 黒いスーツの男たちが何人も出迎えっているところを見ると、あれが花園家の本邸のようだ。
 いつも家庭教師に行っている洋風の邸宅とは似ても似つかない。

 強面の人たちが多いせいか、何も起こっていないはずなのだが、物々しい雰囲気を感じる。
 車を降り、インテリ風の黒スーツの男に先導されて、旅館と遜色のない大きい玄関の前までくると、着物を着た女性達が出迎えて、精華はお色直しに行くということで女性に連れられて離れていく。
 俺はそのままインテリ風の黒スーツの人に、先導されて客間に連れて行かれた。

「おそらくまだ姐さんがくるまで時間がかかります」

 客間に到着するとインテリ風の黒スーツの男の人はそう言って、振り返る。

「田中様、おり行っての話があります」

「な、なんですか?」

 普通に礼儀正しい人なのだが、頬に縦傷が入っていることもあり、振りまき様の顔の圧が凄まじい。

「お嬢様を眠らせて欲しいんです」

「眠らせる?」

「はい。お嬢様は婚約破棄されてからずっと不眠に悩まされていて、最近は睡眠薬も効き目が効き難くなっています。田中様が近くにいればきっと漢として風上にもおけないあのクズのことを忘れて、眠ることができるはずです。どうかお願いされて頂けませんでしょうか」

 インテリ風の黒スーツの男の人は深々と頭を下げる。
 できるかどうかはさておいて、俺としてもそういう事情を聞いて断る理由もないし、こうして頭を下げられるのも申し訳ない。

「頭を上げてください。俺に断る理由もないですし、精華が苦しんでるとわかっるなら是非とも協力させて欲しいです」

「かたじけありません! この東条、この御恩一生忘れません!」

 そこまで言うとやっとインテリ風のヤクザーー東条さんは頭を上げて、「こちらへどうぞ」と精華の部屋に向けて道案内を始めた。
 障子で囲まれた一室の前にくると、東条さんが着替えが済んだか、精華に確認をとり、障子越しに精華から大丈夫だと返事が返ってくる。

「眠れていないって聞いたけど、大丈夫?」

「秋也来てくれたんですね」

 浴衣のような着物を着た精華は虚な目で、こちらにそう語りかけてくる。
 こちらへの返事がないあたり、もうかなり限界かもしれない。
 保健室のように暴走しないように、こちらから先手を打ったほうがいいだろう。

「大丈夫じゃないみたいだね。ちょっとごめんね」

 保健室まで運んだ時と同じようにお姫様抱っこすると、布団まで連れて行く。
 布団の横のお盆に置いてある睡眠薬が途中で見えて、ここまで相当に応えていたのだろうことは実際に見て改めて実感する。
 せめて眠って肉体的な疲れだけでも癒してほしい。

 精華を布団に横たえるとわずかに瞼が下がって行く。
 婚約破棄がトラウマになっており、精神的な負担になっていて、眠れないが、俺といる時は眠れると言った東条さんの言葉は本当だったらしい。
 掛け布団を首元まで掛けると俺の方に手を伸ばしてきたので、手を握る。

「秋也……」

 安心したのか、完全に精華は目を閉じると、握られていた手から力が抜けた。
 眠ってくれたようだ。
 ちょうど明日は精華の家庭教師だが、教える範囲を多少少なくして、こうして寝付かせてあげたほうがいいかもしれない。

「秋也君。精華のこと、ありがとうね」

 しばらくして精華が寝息を立てる頃になるとタマコさんの声が聞こえた。
 いよいよ今日ここに呼ばれた本題である婚約について話す時がきたようだ。

「いや、家庭教師をしていて気づかなかった俺が悪い部分もありますし、今こうなってるのはマッチポンプみたいな感じもありますから」

 振り向くといつも通りニコニコしているが、常のラフな服装ではなく豪奢な着物を着たタマコさんが居た。
 髪を結ってあるためか、なんだか、いつもよりも厳粛な印象を受ける。

「いつも想像以上の活躍をしているのに、そこまではしてもらえないわよ。それにこれは精華の問題ですしね」

 精華に対して手厳しいようだ。
 優しい面しか今まで実際には見てこなかったが、やはり集団の長ということもあり、厳しい面もあるのかもしれない。

「ここで話して、起こしちゃうのも可哀想だし、客間に行きましょうか」

 タマコさんはそう言うと、逢魔時の夕日が照らす、薄暗い廊下を先導して歩いていく。
 ここから先ほど東条さんの申し出を聞いた客間を戻れば、場合によってはタマコさんと対立する可能性もある話し合いが始まる。
 タマコさんと対立する事態は避けたくはあるが、俺にも譲れないものがあるので、覚悟はしなければいけないかもしれない。


 
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