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第一章
六話
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あれから数日後、両親よりやっと外出の許可が出たため、メイドのキエナとともに一時間ほどかけて城下街までやってきた。
初めて乗る馬車の揺れに内臓までシェイクされてしまったかと思ったが、口からリバースキラキラはなんとか免れた。
元現代人のワレ、ちょっと馬車舐めてた。
それにしても王都はさすがに賑やかだ。
人々の顔には活気があり、様々な人種、様々な職種の人が大手を振って街を歩いている。
ゲームではこんな風に自由に街の中を歩くことはできなかったから、すごく新鮮だ。
「これからどうしましょう? 学校に顔出します?」
キエナの提案に、私は学校内でのことは何も分からないからと、首を横に振って断った。
まぁ、ヒロインのいる場所を、なるべく避けたいだけなのだが。
「私は何が好きで、何が得意な生徒だったんでしょうかねぇ」
街の中を歩きながら、私はキエナにぼそりと呟いた。
「そうですね、お嬢様は昔から自然や動物がとてもお好きでした。召喚魔法もお得意で、学校で学んだことを活かして、動物系の使い魔ともよく一緒にいらっしゃいましたね」
「そう、なんですね……どうやって出していたのかしら」
「直にきっと思い出しますよ」
「……そうだと良いのですけれど」
せっかく王都に来ても、キエナがずっと張りついてたら、思うように探検ができない。冒険者の集う場所とか、変わった装備の店とか色々と訪ねてみたかったのに。
そんなことを考えながら一緒に回っていると、あれよあれよという間に午前中は終わってしまった。
今はお昼時なためか、城下町も人通りがだいぶ減ってきた気がする。
するとタイミング良く、私の腹の虫もぐぐぅ~と音を立てて鳴った。
それに気づいたキエナは、周りをキョロキョロと見回しだす。
「ソア様、お腹空きましたよね。あちらの木陰のベンチが丁度誰もいないようです。そちらで少し座ってお待ちになってください。今の時間はきっとどこの店も混んでいると思いますから、私がソア様の好きそうなものを、露店で色々と買ってきますよ」
そう言って離れていくキエナの背中を見送りながら、指示されたベンチに座った。
ここは綺麗な花壇に囲まれた広場になっている。
少し離れた所にある噴水の水が、陽の光でキラキラと光って見えて、とても涼しげな雰囲気を醸し出していた。
ここは街の人の憩いの場なのだろう。
「お、おい! お前、なんでこんなところにいるんだ」
噴水の水に気を取られていたがゆえ、不意に近づく人物に気づかず接近を許してしまう。
強い力で急に腕を掴まれて、何事かと頭の中が一瞬真っ白になった。
「てめぇ、俺が何日も会いに行ってやったのに、ずっと庭にいないとか、どういうことだよ!」
「……は?」
人の腕を強く引っ張っている人物の顔をよくよく見れば、私の恋愛対象外である例の攻略キャラだった。くそぉ何しにきた。
「ソア、答えろ」
「意味わからない」
私はとりあえず腕を離してと訴えるが、力が強くて逃げられない。
ソアの体は小柄なので、少年との身長差もけっこうある。
「お前、何なんだよ! せっかく俺が……とにかく、このまま俺の家に来い!」
相手の都合を全く省みないこの強引さ、口は非常に悪く、やたら男を振りかざす失礼で傲慢な態度、そして異常な話の通じなさに、私の頭の中のどこかがぷちんと音を出して切れた。
「はぁ? 寝言は寝て言えっての。なんであんたの家になんか行かなきゃいけないのよ! そもそもあんたの名前すら私は知らんのだけど! わけわかんないこといって、異世界人をなめんな! あほガキ!」
おっと、いけないいけない。
良くない日本語をついオンパレードしてしまった。
でも非常事態だし仕方ないよね、うん。
「いせか……? 俺はリオ……リオ・ダンシェケルトだ」
「あ、そう」
「コインに書いてあっただろうが」
「あーはいはい、見たかも」
私にドスのきいた怒鳴り声を浴びせられて、少々ビビったのか、リオの声のトーンが下がる。
やっぱりこういう話の通じないバカには、強い態度ではっきりとした拒絶が効くわね。
この騒動に周りの人々が何事かと集まり出している。
そりゃそうだ。ああ、恥ずかしい。
「まぁいい、早く俺の家に来い。両親に紹介するから」
「はぁ? だからなんであんたの家なんか! ゲームでもずっと避け続けてきたキャラなのに、冗談じゃないっての!」
「は……ゲ…ゲム?」
私は今度こそリオの腕を振り解き、再度拒絶して見せた。これでもう引いてくれなんし。頼むから。
「お前はそれを受け取った、それが愛を誓った証だ。ソア・リペンドール、お前はもう俺のものだ」
そう言って私の左手首に付けてある、例のアクセサリーを指差した。
私はことの事態を把握した途端、ゾワゾワっと背筋に気持ち悪い悪寒が走った。
まさか、このコインにそんな意味があったとは!
ふ、不覚! でも負けてたまるか!
「なら返す! いらん! そもそもあんたが落としたのを拾っただけだっつの!」
私はそう言って、コインをリオの顔にぶん投げた。
投げつけられたリオは信じられないという顔をする。
「な、神聖な誓いのコインに……ホント、な、なんなんだ、てめぇ! ふざけんな! もう、お前は俺のものなんだからな!」
「知るかーーー! そもそもなんで私なのよ!」
「それは一目ぼ……そんなん男が軽々しく言えるか!」
「もう! 萌えない攻略キャラはどっかいけー!」
キエナが戻ってくるまでのこの時間、かなりすったもんだした。
初めて乗る馬車の揺れに内臓までシェイクされてしまったかと思ったが、口からリバースキラキラはなんとか免れた。
元現代人のワレ、ちょっと馬車舐めてた。
それにしても王都はさすがに賑やかだ。
人々の顔には活気があり、様々な人種、様々な職種の人が大手を振って街を歩いている。
ゲームではこんな風に自由に街の中を歩くことはできなかったから、すごく新鮮だ。
「これからどうしましょう? 学校に顔出します?」
キエナの提案に、私は学校内でのことは何も分からないからと、首を横に振って断った。
まぁ、ヒロインのいる場所を、なるべく避けたいだけなのだが。
「私は何が好きで、何が得意な生徒だったんでしょうかねぇ」
街の中を歩きながら、私はキエナにぼそりと呟いた。
「そうですね、お嬢様は昔から自然や動物がとてもお好きでした。召喚魔法もお得意で、学校で学んだことを活かして、動物系の使い魔ともよく一緒にいらっしゃいましたね」
「そう、なんですね……どうやって出していたのかしら」
「直にきっと思い出しますよ」
「……そうだと良いのですけれど」
せっかく王都に来ても、キエナがずっと張りついてたら、思うように探検ができない。冒険者の集う場所とか、変わった装備の店とか色々と訪ねてみたかったのに。
そんなことを考えながら一緒に回っていると、あれよあれよという間に午前中は終わってしまった。
今はお昼時なためか、城下町も人通りがだいぶ減ってきた気がする。
するとタイミング良く、私の腹の虫もぐぐぅ~と音を立てて鳴った。
それに気づいたキエナは、周りをキョロキョロと見回しだす。
「ソア様、お腹空きましたよね。あちらの木陰のベンチが丁度誰もいないようです。そちらで少し座ってお待ちになってください。今の時間はきっとどこの店も混んでいると思いますから、私がソア様の好きそうなものを、露店で色々と買ってきますよ」
そう言って離れていくキエナの背中を見送りながら、指示されたベンチに座った。
ここは綺麗な花壇に囲まれた広場になっている。
少し離れた所にある噴水の水が、陽の光でキラキラと光って見えて、とても涼しげな雰囲気を醸し出していた。
ここは街の人の憩いの場なのだろう。
「お、おい! お前、なんでこんなところにいるんだ」
噴水の水に気を取られていたがゆえ、不意に近づく人物に気づかず接近を許してしまう。
強い力で急に腕を掴まれて、何事かと頭の中が一瞬真っ白になった。
「てめぇ、俺が何日も会いに行ってやったのに、ずっと庭にいないとか、どういうことだよ!」
「……は?」
人の腕を強く引っ張っている人物の顔をよくよく見れば、私の恋愛対象外である例の攻略キャラだった。くそぉ何しにきた。
「ソア、答えろ」
「意味わからない」
私はとりあえず腕を離してと訴えるが、力が強くて逃げられない。
ソアの体は小柄なので、少年との身長差もけっこうある。
「お前、何なんだよ! せっかく俺が……とにかく、このまま俺の家に来い!」
相手の都合を全く省みないこの強引さ、口は非常に悪く、やたら男を振りかざす失礼で傲慢な態度、そして異常な話の通じなさに、私の頭の中のどこかがぷちんと音を出して切れた。
「はぁ? 寝言は寝て言えっての。なんであんたの家になんか行かなきゃいけないのよ! そもそもあんたの名前すら私は知らんのだけど! わけわかんないこといって、異世界人をなめんな! あほガキ!」
おっと、いけないいけない。
良くない日本語をついオンパレードしてしまった。
でも非常事態だし仕方ないよね、うん。
「いせか……? 俺はリオ……リオ・ダンシェケルトだ」
「あ、そう」
「コインに書いてあっただろうが」
「あーはいはい、見たかも」
私にドスのきいた怒鳴り声を浴びせられて、少々ビビったのか、リオの声のトーンが下がる。
やっぱりこういう話の通じないバカには、強い態度ではっきりとした拒絶が効くわね。
この騒動に周りの人々が何事かと集まり出している。
そりゃそうだ。ああ、恥ずかしい。
「まぁいい、早く俺の家に来い。両親に紹介するから」
「はぁ? だからなんであんたの家なんか! ゲームでもずっと避け続けてきたキャラなのに、冗談じゃないっての!」
「は……ゲ…ゲム?」
私は今度こそリオの腕を振り解き、再度拒絶して見せた。これでもう引いてくれなんし。頼むから。
「お前はそれを受け取った、それが愛を誓った証だ。ソア・リペンドール、お前はもう俺のものだ」
そう言って私の左手首に付けてある、例のアクセサリーを指差した。
私はことの事態を把握した途端、ゾワゾワっと背筋に気持ち悪い悪寒が走った。
まさか、このコインにそんな意味があったとは!
ふ、不覚! でも負けてたまるか!
「なら返す! いらん! そもそもあんたが落としたのを拾っただけだっつの!」
私はそう言って、コインをリオの顔にぶん投げた。
投げつけられたリオは信じられないという顔をする。
「な、神聖な誓いのコインに……ホント、な、なんなんだ、てめぇ! ふざけんな! もう、お前は俺のものなんだからな!」
「知るかーーー! そもそもなんで私なのよ!」
「それは一目ぼ……そんなん男が軽々しく言えるか!」
「もう! 萌えない攻略キャラはどっかいけー!」
キエナが戻ってくるまでのこの時間、かなりすったもんだした。
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