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第一章
七話
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「メダルつけろ!」
「いやだってば!」
「た、頼むから。一度誓ったものは取り消せない。これはただのコインじゃないんだ。神に誓った『女神のメダル』だ。このメダルにはすごく神聖な意味があるんだ」
「拾っただけだってば! こんなのゲームでは設定になかっ……」
って、私こいつのストーリー知らないんだった!
苦手だからって避けてきたツケが今頃きちゃった?!
ああ、それにしてもこの男しつこい。
今度は手首を掴まれて、離してって言ってもずっと離してくれないし。
「それともお前、まさか他に誓いを立てた男がいるのか?!」
「そんなのいないわよ! もう、なんなの。付ければ良いんでしょう! 付ければ!」
「ちなみにそれ付ける場所、首だからな! なんで手首につけてるんだ」
「つける場所にまで文句言うか?!」
私はこいつの手からコイン……『女神のメダル』を奪い取って、言われた通り首につけ直した。
それを見たリオは心底ホッとしたような顔をする。
その際になにか呪文のようなものを唱えた気がしたが、そんなことよりも掴まれた手首が地味に痛いんです。
思ったより強く掴んでくれて、このバカ力が!
「……さぁ、付けたわよ。これで文句はないでしょう? さっさと離れてちょうだい! というか3メートル以上近づかないで! このストーカーやろう」
「は? ス、ストカ???」
「だいたいあんたね、横暴で強引過ぎるのよ! そんなんで女性の気持ちが動くわけが……」
「……ソア様?」
こ、この声はキエナ?!
やばい、本性(というか中身)がバレる。
「どうされたんです?」
急に黙り込んだ私の様子に、リオはニヤリと不気味な笑みを返した。
「……初めまして、こんにちは。リオ・ダンシェケルトと申します。実は私、彼女に一目会った時から、運命のようなものを強く感じておりまして、先日誓いを立てさせていただいたものです。その時に我が家に代々伝わるナターリアのメダルも、彼女は受け取ってくださったのですが、今日拙宅に来訪をお誘いしたら断られてしまいましたね。まだ照れてるのかな、はは……」
「なっ……」
この大嘘つきやろう!
まぁ私も大概だが?
キエナはリオの言葉に「まぁ!」と顔を赤くした後、自分はリペンドール家に仕えているソア付きのメイドだと丁寧に挨拶した。
「リオ様、ダンシェケルトといえば、王家に近い侯爵家でしたよね?」
「はい。ダンシェケルト家は、女神ナターリアの強い信仰を受けておりまして、好意をもった相手に誓いの証を贈る慣しがあるのです」
それ、今初めて聞きましたから。
後出しジャンケンは本当ダメですよ!
呆れるほどに身勝手な男。確か、このキャラの設定は15歳だったと思うが? この世界の15歳ってこんな感じなのか?
そんで勝手に二人で盛り上がるのやめてほしい。
それに侯爵家だかなんだか知らないが、相手の了承も得ずに一方的に贈るなし。
不条理な誓いなんて無効だ! 無効!
神だって怒りますよ、たぶん。
ああ、キエナに素情がバレるのが怖くて、何も言い出せないことが本当にもどかしい。
というかキエナ、その手に持ってる買ってきた食べ物どこかに置いたらどう?
私、さっきからずっとお腹が空いているんだけど、いったい何を買ってきてくれたの? 今食べちゃダメなやつなの? これ。
「ソア様、良かったですねぇ! お嬢様はすごい方に見染められましたよ! きっと良縁です」
「うせやろ……」
リオは自分の思い通りにことが運んで機嫌がいいのか、ニヤニヤと腹黒そうな笑みを浮かべている。
「改めて、ぜひ我が家へご招待したいのですが」
「えぇ、えぇ! ぜひとも! ソア様、リオ様のご両親にご挨拶しましょう? ね? きっと素敵なお屋敷でございますよ。あぁ、とうとううちのお嬢様も殿方と……」
妄想膨らむキエナ、頭のおかしいリオもおそらくこのまま身を引いてはくれないだろう。
こうなったら仕方あるまい。
ちょっと行って、長居はせずに帰ってくるしかないか。
リオのご両親には二人の誤解だと素直に伝えよう。
というかお腹空きすぎて、段々ふらふらしてきたんだけど。
「キエナがそこまで言うならわかりました。少しだけならば」
馬車に乗ったらその食べ物食べさせてね。
貴族のルールはよく知らないけれど、そのくらいはきっといいわよね。
では……と、リオは私に向かって手を差し伸べてきた。その様子をキエナはじっと見つめてくるので、私は渋々と手を差し出す。
ダンシェケルト家の馬車まで、こやつに手を引かれながら道を歩かねばならぬようだ。
こういうとこだけは紳士の行動しおってからに。
「ソアの体から二度と離れねぇように、これに呪術をかけた。これでやっと俺も安心できるわ」
歩き始めて少し経った頃に、後ろを離れて歩くキエナには一切聞こえないように、リオはわざわざ私の耳元で、首にかけてある女神のメダルを指で差し示しながら、呪いのような言葉を囁いてきた。
この時のこの言いようのない悪寒よ。
なんとかこのスト男から離れられる手だてはないのだろうか。
そんなことばかりが頭の中をずっと反芻していた。
「いやだってば!」
「た、頼むから。一度誓ったものは取り消せない。これはただのコインじゃないんだ。神に誓った『女神のメダル』だ。このメダルにはすごく神聖な意味があるんだ」
「拾っただけだってば! こんなのゲームでは設定になかっ……」
って、私こいつのストーリー知らないんだった!
苦手だからって避けてきたツケが今頃きちゃった?!
ああ、それにしてもこの男しつこい。
今度は手首を掴まれて、離してって言ってもずっと離してくれないし。
「それともお前、まさか他に誓いを立てた男がいるのか?!」
「そんなのいないわよ! もう、なんなの。付ければ良いんでしょう! 付ければ!」
「ちなみにそれ付ける場所、首だからな! なんで手首につけてるんだ」
「つける場所にまで文句言うか?!」
私はこいつの手からコイン……『女神のメダル』を奪い取って、言われた通り首につけ直した。
それを見たリオは心底ホッとしたような顔をする。
その際になにか呪文のようなものを唱えた気がしたが、そんなことよりも掴まれた手首が地味に痛いんです。
思ったより強く掴んでくれて、このバカ力が!
「……さぁ、付けたわよ。これで文句はないでしょう? さっさと離れてちょうだい! というか3メートル以上近づかないで! このストーカーやろう」
「は? ス、ストカ???」
「だいたいあんたね、横暴で強引過ぎるのよ! そんなんで女性の気持ちが動くわけが……」
「……ソア様?」
こ、この声はキエナ?!
やばい、本性(というか中身)がバレる。
「どうされたんです?」
急に黙り込んだ私の様子に、リオはニヤリと不気味な笑みを返した。
「……初めまして、こんにちは。リオ・ダンシェケルトと申します。実は私、彼女に一目会った時から、運命のようなものを強く感じておりまして、先日誓いを立てさせていただいたものです。その時に我が家に代々伝わるナターリアのメダルも、彼女は受け取ってくださったのですが、今日拙宅に来訪をお誘いしたら断られてしまいましたね。まだ照れてるのかな、はは……」
「なっ……」
この大嘘つきやろう!
まぁ私も大概だが?
キエナはリオの言葉に「まぁ!」と顔を赤くした後、自分はリペンドール家に仕えているソア付きのメイドだと丁寧に挨拶した。
「リオ様、ダンシェケルトといえば、王家に近い侯爵家でしたよね?」
「はい。ダンシェケルト家は、女神ナターリアの強い信仰を受けておりまして、好意をもった相手に誓いの証を贈る慣しがあるのです」
それ、今初めて聞きましたから。
後出しジャンケンは本当ダメですよ!
呆れるほどに身勝手な男。確か、このキャラの設定は15歳だったと思うが? この世界の15歳ってこんな感じなのか?
そんで勝手に二人で盛り上がるのやめてほしい。
それに侯爵家だかなんだか知らないが、相手の了承も得ずに一方的に贈るなし。
不条理な誓いなんて無効だ! 無効!
神だって怒りますよ、たぶん。
ああ、キエナに素情がバレるのが怖くて、何も言い出せないことが本当にもどかしい。
というかキエナ、その手に持ってる買ってきた食べ物どこかに置いたらどう?
私、さっきからずっとお腹が空いているんだけど、いったい何を買ってきてくれたの? 今食べちゃダメなやつなの? これ。
「ソア様、良かったですねぇ! お嬢様はすごい方に見染められましたよ! きっと良縁です」
「うせやろ……」
リオは自分の思い通りにことが運んで機嫌がいいのか、ニヤニヤと腹黒そうな笑みを浮かべている。
「改めて、ぜひ我が家へご招待したいのですが」
「えぇ、えぇ! ぜひとも! ソア様、リオ様のご両親にご挨拶しましょう? ね? きっと素敵なお屋敷でございますよ。あぁ、とうとううちのお嬢様も殿方と……」
妄想膨らむキエナ、頭のおかしいリオもおそらくこのまま身を引いてはくれないだろう。
こうなったら仕方あるまい。
ちょっと行って、長居はせずに帰ってくるしかないか。
リオのご両親には二人の誤解だと素直に伝えよう。
というかお腹空きすぎて、段々ふらふらしてきたんだけど。
「キエナがそこまで言うならわかりました。少しだけならば」
馬車に乗ったらその食べ物食べさせてね。
貴族のルールはよく知らないけれど、そのくらいはきっといいわよね。
では……と、リオは私に向かって手を差し伸べてきた。その様子をキエナはじっと見つめてくるので、私は渋々と手を差し出す。
ダンシェケルト家の馬車まで、こやつに手を引かれながら道を歩かねばならぬようだ。
こういうとこだけは紳士の行動しおってからに。
「ソアの体から二度と離れねぇように、これに呪術をかけた。これでやっと俺も安心できるわ」
歩き始めて少し経った頃に、後ろを離れて歩くキエナには一切聞こえないように、リオはわざわざ私の耳元で、首にかけてある女神のメダルを指で差し示しながら、呪いのような言葉を囁いてきた。
この時のこの言いようのない悪寒よ。
なんとかこのスト男から離れられる手だてはないのだろうか。
そんなことばかりが頭の中をずっと反芻していた。
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