本当は、二番目に愛してます

唯純 楽

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嵐は海の向こうからやってくる 3 ※

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 薄いネグリジェとナイトガウン姿で膝の上に乗るビヴァリーが、甘えるようにねだる声を聞いたハロルドは、潜在的な願望が見せた幻ではないかと思った。

(幻では……ないよな?)

 ビヴァリーに余計なことを吹聴したジェフリーを締め上げ、呑気に散歩に出かけていた上司を捕まえてコルディアで不正をしているの担当官の帰国日を吐かせ、陸軍大臣を脅して軍の諜報員をマクファーソン侯爵家に潜り込ませることに同意させ、深夜になってようやく帰宅すると、ビヴァリーは寝椅子でうたたねしていた。

 てっきりベッドの中で熟睡していると思っていたので、待っていてくれたことは嬉しかったが、アルウィンに乗ってレースに出る、新聞で五年前の件を暴露して真相を突き止めたいなどと不穏なことを言い出し、しかもハロルドの膝の上に跨って来た。

 話に集中しなければいけないのに、柔らかなビヴァリーの太股の感触を感じながら、反応しないようにしなくてはならないという拷問に、ハロルドは理性の限界を試されていた。

「ハル?」

 アップルグリーンの瞳に覗き込まれ、呻きそうになる。

(耐えろ……まだ、話は終わっていない)

 もはや、何もかも捨て置いて、ビヴァリーを味わいたいという欲求で全身が熱くなり、抑えようとしても抑えきれずに存在を主張しようとするものとの熾烈な戦いに、脂汗が滲む。

(最悪なのは……わざとじゃないということだ)

 これが、男の欲を煽る計算された行動なら逆に冷めるところだが、ビヴァリーの場合は馬でも扱っているつもりに違いない。

「ハル、私……ちゃんと勝つから」

 ビヴァリーが負けるはずがないと、ハロルドも思う。

(しかし、それとこれとは話が別だ)

 ビヴァリーを危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 デボラたちの背後にマクファーソン侯爵がいるなら、なおさらブレント競馬場でのレースになど出場させられない。

 たびたび競馬のレースでは事故が起きるが、コリーンと共にいたナサニエルという騎手が「死神」と呼ばれているのは、ただのあだ名とは思えない。

 ブリギッドの言うように、ビヴァリーの存在をいつまでも隠してはおけないし、受け身になれば苦しくなるのだから先手を打つべきだと思うが、今はダメだ。

 コルディアの情勢が荒れた場合、ハロルドがビヴァリーの傍にいられなくなる可能性が高い。

 それなのに、まっすぐな眼差しで、過去に向き合い、さらには貴族社会の高い壁に挑みたいと言われると、今にも崩れそうな理性は頷けと囁いてくる。

 ビヴァリーがやりたいことをやめさせる権利などない。
 ハロルドにできることは、ビヴァリーの力になることだけだ。

(わかっていても……そうできないことだってある)

 愚かだとわかっていても、間違っているとわかっていても、その道を選んでしまうことがある。

 そうしないよう、必死に抗い続けるだけの忍耐力が自分にはあるのだろうかとハロルドは自問し、なければ訓練して強化しなくてはならないのだと自答した。

「ハル……?」

 唇をなぞるビヴァリーの指を取り敢えず引きはがす。

 臨戦態勢になりかけているものを刺激しないよう、華奢な身体を持ち上げようとしたが、胸の下あたりに触れた途端、ビヴァリーが甘い鳴き声を上げた。

「あ、んっ!」

(急に忍耐力なんか身につくわけがないっ!)

 ハロルドは、持ち上げた身体を再び膝の上に戻すと、先ほどからずっと味わいたくて仕方なかった唇を舐めた。

「ハ……んむぅ」

 ちょうどいいタイミングで開かれた口内へ舌で押し入って、ナイトガウンの中に手を這わせ、薄いネグリジェの下でつんと尖っていた胸の頂を指先でこすると、ビヴァリーが腰をくねらせる。

 今すぐ割って入りたい場所が、ごまかしようのないほど硬く張り詰めた男根にちょうど当たると、驚いたように腰を引き上げようとする。

「んんっ!?」

 もちろん逃すつもりはない。
 ドロワーズを膝まで引き下ろし、そのまま後ろへ押し倒した。

「きゃっ……やっ……ああっ」

 足を持ち上げて濡れて光る蜜口を露にし、剛直の先で下から上へとなぞると、ビヴァリーが悲鳴を上げた。

「な、何するの……ハルっ!」

「何も?」

 強く押し当てれば、柔らかな襞が呑み込みたいと言うように吸い付いてくる。

「やっ……ふっ……」

 誰かに聞こえるのを気にしているように、手で口をふさぐビヴァリーをもっと鳴かせたくて、ゆっくりと擦り上げた先にある小さな粒を抉り出し、刺激する。

「ひっ……は、ハル……だ、だめ……それっ」

 中に包まれる感覚はなくとも、互いの蜜を擦りつけるように重なるだけで、快感は増幅していく。

「そうは見えない。どんどん……濡れて、吸い付いてくる」

「ち、ちがぅう……」

 泣き出しそうな顔で首を振るビヴァリーを見下ろしていると、ひとつ残らず自分のものにしたいという征服欲が湧き起こる。

(ほかの男をその目に映すことも……許したくない)

 ビヴァリーが、テレンスやジェフリーに無防備な笑みを向けるのを見ただけでも、嫉妬で狂いそうになる。

 淫らな音を立てて喘ぐ秘唇は、今では痛みよりも快楽の悲鳴を上げることを覚え、性急に望みを果たしたいと訴える。

 まだ熟しきっていない果実のような可愛らしさを留めていた乳房は、ハロルドの手で柔らかく作り変えられていく。

 何も考えられないくらい――求めずにはいられないくらい溺れさせたいという欲が膨らみ、深々と貫きたくなる。

 尽きることのない欲を注ぎ込み、孕ませ、逃げ出せないようにしてしまいたくなる。

「……ビヴァリー……」

 戒めになっていたドロワーズを取り去って、大きく足を開かせたところで、じっと見上げる潤んだアップルグリーンの瞳に気付いた。

 快楽に溺れることに怯え、助けを求めるようなその眼差しに、ハロルドの中のなけなしの良心が蘇った。

 ビヴァリーは、馬に乗るのなら誰かの後ろに乗るのではなく、自分で操り、思う存分走り回るほうを選ぶ。

 ハロルドがダメだと言えば従うかもしれないが、その耳にハロルドの言葉は届かなくなるだろう。

 そこには、喜びもなければ、幸せもない。
 
 自分の言葉を聞いてくれない相手に延々と話しかけるのは、とても虚しく、悲しく、辛い。
 妻にも、子どもにも、現実にさえも向き合うことを拒否し続けた、父親のようにはなりたくない。

「はっ……くそっ……ビヴァリー……上に」

 ビヴァリーを抱きかかえたまま後ろ向きに倒れ込むと、ハロルドは戸惑いながら見下ろすその細い腰を掴み、慎重に押し下げた。

「は、ハル?」

 ちょうどいい場所まで来たところで、何をするのかと怯えるビヴァリーの小さな尻を鷲掴みにし、前後に揺らす。

「あっ」

 自分の重みにより、さらに密着する形でハロルドの男根に潤った蜜口をこすり上げられたビヴァリーは、腰をくねらせ、恥ずかしそうに視線をさまよわせる。

「自分で好きに動いてみるといい」

「え……?」

「触りたいんだ」

 手を伸ばしてつんと上を向いた乳房を掴むと、その拍子にビヴァリーの腰が動く。

「あっ」

 にちゃり、と粘着質な音がし、ビヴァリーの温かい愛液が滲み出すのを感じた。

 胸の先をつまむと、ぎゅっと膝でハロルドの脇腹を締め付ける。

 震えながら腰を引くと、それはそれで新たな刺激を呼び覚ましたらしく、頬を赤くしてきゅっと唇を噛む。

「ビヴァリー?」

 胸の谷間から下腹まで撫で下ろすと、ぶるぶると太股を震わせながら、泣きそうな顔で睨んでくる。

「やめ、て……み、ないで……」

「……最高の眺めだ」

「見ないで、ハル……恥ずかしいのっ……」

「目をつぶれば、見られていることはわからない」

「そうじゃな……あ、んっ」

 太股を掴んで引き寄せると、何かを堪えるようにぎゅっと目をつぶる。

「や、だっ……やめ、そんなにしたら……」

 強制的に前後に動かしていると、そのうち快感に後押しされ、ビヴァリーも自ら腰を動かし始める。

「ハル……どう、しよう……とまらな……ふっ……あっ……やんっ……ハル……な、んで……? なんで、触ってくれないの?」

 頬を赤くし、もどかしそうに自らハロルドの手を乳房に添えて身悶える姿は、あまりにも淫らで、美しかった。

 ずっと眺めていたいくらいだが、長旅の後なだけに無理はさせたくない。

「ビヴァリー……イキたいか?」

「ああ……んぅっ? ……きもち、いい……もっと……」

 上体を起こし、抱きかかえるようにしてビヴァリーを膝立ちにさせると、充足を求めて蠢く蜜壺へ指を差し入れる。

「ひっ……あっ」

 親指で膨れ上がった芽を擦りながら、二本の指で絡みつく襞をかき分け、泉の中をかき回す。

 トロトロと流れ落ちる愛液が手首まで濡らし、肩にしがみつくビヴァリーの呼吸が浅くなる。

「はっ……や、ハル……き、きちゃう……」

「我慢することはない」

「で、でもっ……ハル……は?」

 ビヴァリーが一番ビクビクと反応する場所に指を当てたとき、しなやかな何かが八ロルドの今にも弾けそうな男根を握りしめた。

「挿れる……?」

 思わず息を詰めたハロルドは、ビヴァリーの中に埋めた指を奥深くまで突き入れてしまった。

「いやぁっ」

 達したビヴァリーが、無意識に男根を強く弱く握りしめ、吐精を促す。

「うっ」

 今夜はビヴァリーと交わらずに堪え切るつもりだったが、目の前が白く染まるほどの快感に耐えきれず、精を放つ。

 ぐったりしたビヴァリーを抱きしめ、呼吸が落ち着くのをじっと待つ。

「ハル……挿れたくないの?」

「挿れたい……」

 精を放っても、ビヴァリーの手が触れているというだけで、ハロルドのものは再び大きく硬くなり始めるが、一度吐き出したおかげで、頭は冷えていた。

「ちょっとだけ……挿れる……?」

「ちょっとだけでは済まないから、挿れない」
 
 ようやく取り戻したばかりの理性を再び吹き飛ばそうとするビヴァリーを睨んで黙らせ、体液で汚れた互いのガウンを脱ぐ。

 まだ、快感の波が完全には去っていないビヴァリーがぼうっとしている間に、ネグリジェも脱がせてから、水に浸した布で肌を拭う。

 ビヴァリーは、恥ずかしそうに俯きながらもハロルドがすることを受け入れ、大人しく抱き上げられた。

「ハルのベッド……広い」

 抱き合ったまましっかりと毛布に包まると、ビヴァリーが天蓋を見上げて呟く。

「俺のだからじゃない。夫婦のベッドだから広いんだ」

「そ、そうなの? 貴族の夫婦は別々の部屋で寝るんだと思っていた」

「そういう夫婦もいるだろうが、俺は……別々の部屋を持っても、寝るときは一緒がいい」

 同じ屋根の下にいるのに、ビヴァリーの柔らかい身体が傍にない状態で安眠できるとは思えなかった。

「ねぇ、ハル。本当に、挿れなくてもいいの……?」

 未だ完全には落ち着いていないハロルドのものに気付いたのか、ビヴァリーが再び尋ねる。

 よくない、と心の中で答えながら、どれくらい耐えられるだろうかと考え、永遠に我慢することは不可能だが、ビヴァリーの望まないことはしたくないという結論に達する。

「……しばらくは」

「でも……ハルは……」

 よほど切羽詰まっているように見えたのだろうと、己の修行不足を呪いながら、ハロルドは喉の辺りにあるチョコレート色の髮を見下ろした。

「妊娠したら、レースに出られないだろう?」

 パッと顔を上げたビヴァリーの表情が一瞬で喜びへと変わる。

 空を覆っていた雲が強い風で吹き飛ばされて、青い空が現れたときのように、ハロルドの胸にも清々しさが広がる。

「ハル……ありがとう……」

「レースに出るのはかまわないが、新聞記事の内容は事前に調整したものにする。妃殿下も関係しているから、勝手に書かせようものなら、ジェフリーが黙っていない」

 ジェフリーは、相変わらずブリギッドとは真の夫婦にはなれていないようだが、ずいぶんと距離は縮まっているようだ。

 ブリギッドは一種の悟りを開いたのか、以前ほどジェフリーに対して腹を立てたり、身構えたり、警戒したりする様子を見せなくなっている。

 素敵な白馬の王子様も、裏側から見ればタダの普通の男だということを受け入れたのかもしれない。

「ブリギッドさまとジェフリー殿下は、正反対だからきっといい掛け合わせになると思わない? ハル」

「確かに、血統からいけばどちらも最高だな」

「ブリギッドさまの気位の高さと負けず嫌いなところ。ジェフリー殿下の粘り強さと強かなところを合わせたら、完璧な馬になりそう……」

 いいところだけを受け継げば完璧になるが、悪いところだけを受け継いだら最悪ではないかと思いつつ、ハロルドはビヴァリーの滑らかな背中を撫でた。

 ビヴァリーは気持ちよさそうに微笑み、お返しとばかりに喉元に顔を埋めてハロルドの背中を撫でる。

 小さな欠伸をいくつか漏らし、やがてビヴァリーは穏やかな寝息を立て始めた。

 絶対に卑劣なヤツラには傷つけさせないと心の中で固く誓い、抱いた腕に力を込めると唇を綻ばせ、ハロルドの肩を撫でて呟く。

「いい子……」

 きっと、馬の夢でも見ているのだろうと思いながら、人肌の温もりから生まれる眠気にハロルドも身を預ける。

「ハル……いい子だから……あとで……林檎……たくさん、あげるね。父さんには……ないしょ」

(林檎とは……?)

 ビヴァリーは寝ぼけているのだろう。
 自分の好物はオレンジだと思いながら、ハロルドは眠りについた。
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