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リーネの章

モタモタすんじゃねえ、ジジイ!

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『やっぱ、子供って足手まといだよな……』

置き去りにもできなくてつい連れてきてしまったものの、正直、すぐに後悔した。何しろ足が遅いんだ。体が小さいから仕方ないんだろうが、俺が軽々と乗り越えられる倒木とかも、あたふたと登って上で体勢を整えて『えいやっ!』とばかりに跳び降りるって感じだからな。

ただ、俺自身、前世じゃ八十まで生きたから、体が思うように動かなくなっていった経験もある。今のこの二十歳の体なら当たり前にできることができなくなっていったんだ。

痛む足を引きずるようにしてしか歩けない。

階段も一段飛ばしで上れない。

白内障も患ってたから視界も悪く、足元に段差とかがあってもよく見えなくて躓きそうになる。

なのに、若い奴らは、自分達と同じようにできない俺を、

『邪魔だ! モタモタすんじゃねえ、ジジイ! ちゃんと歩けよ!』

とか何とか罵るんだ。

ああでも、俺も前世の若い頃には、年寄りを見て『邪魔だな』と思ってたな。それが自分に返ってきただけだというのは分かる。

だから……

「ほらよ」

「あ……っ」

倒木の上から上手く着地できそうなところを探してたリーネの体を抱き上げて、そっと地面に下ろしてやった。

「足元、気を付けろよ」

って声を掛けながら。

「あ…ありがとうございます……」

彼女は、戸惑った様子で俺を見上げながらお礼を口にした。

「気にすんな。俺が急ぎたいだけだ……」

そう言いながら背を向けて俺はまた歩き出した。歩きながら、

『そう言えば、娘を抱っこしたことなんて、何回くらいあったかな……』

とも考えてしまう。

前世では、仕事も頑張って結婚もして子供もつくったが、その子供と、娘と、こうやって言葉を交わしたことさえ、数えるほどしかなかった気がする。何しろ、娘が起きる前に家を出て、娘が寝てから家に帰ってたからな。

しかも休日には、女房が気を利かしてくれて、俺が休んでる寝室には近付けないようにしてくれて、ゴロゴロしながら映画三昧だったし。

なのに娘が寝室に入ってきたりすると、邪魔された気がして途端に不機嫌になったりして……

だから娘も、小さい頃は俺を怖がってた気がする。

でも俺は、

『父親ってのは、子供に怖がられて当たり前。じゃないとナメられる』

って思ってて、気にもしてなかったな。

でもまあ、娘が中学とか高校になると、完全に俺をナメてたか。それこそ、ホームレスでも家に入ってきたかみたいな目で俺を見てた気もする。

……そうだな。俺も、こっちに転生して、小さい頃は親を怖がってたのに、十二~三になった頃には『いつか殺してやる』って考えてたな……

それと同じか。

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