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リーネの章

成り行き

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いくら何でもリーネのような子供をこんなところに置き去りにするわけにもいかず……

いや、ここの連中なら、他人の子供なんて平気で置き去りにするのも多いだろうが、どうにも元日本人だからかそんな気にもなれず、俺はリーネと一緒に安全な場所を探そうと歩き始めた。

もっとも、これ自体、日本じゃ余裕で、

<未成年者略取>

に当たるだろう。俺だって、日本じゃこんなことはしない。警察にでも通報して保護してもらうだけだ。ここでも、一応、<誘拐罪>はある。あるんだが、運よく子供が見付かった時に連れ去った奴を罰するための法律だそうで、親もわざわざ探さないんだよ。

『紛失した道具をわざわざ探すより新しく作った方がいい』

って感じでな。

そして、ここの官吏(軍や警察的なものを含めた役人全般)が平民のためにまともに働くこともないから、いなくなった子供が見付かるなんて、まずない。有形無実の法律ってことだ。

ただ、そんな社会なだけに子供は大人なんて信用してないし、ましてや気遣うこともあまりない。リーネも親のところから逃げ出すくらいだから、別に<お人好し>ってわけでもないだろう。なのに俺を心配してくれた理由は、気にならないでもない。優しい子なんだろうとは思うものの、それだけじゃない気もする。

まあ、何とか逃げ出してはみたもののそこから先をどうすればいいのか分からなくて途方に暮れてたところに俺を見付けて、介抱でもすれば恩に着て助けてくれるとでも思ったのかな? って気もするんだ。

こんな小さい子供がそこまで頭が回るとは思えないかもしれないが、ここじゃな。子供といえど悪知恵の一つも働かせられないとまともに生き延びられないってのはあるからな。俺がここまで無事にやってこれたのも、前世の人生経験があればこそだと思う。

『自分が力を付けるまでは、大人の顔色を窺って適当に調子を合わせてやり過ごす』

ってことに早々に気付けたからだし。



そんなこんなで、<情>と言うよりは本当にただの<成り行き>で、俺はリーネを連れて歩いた。谷間たにあいの沢伝いに上流に向かって歩く。俺がいた村の連中は峰を超えたところのある集落を目指していたらしい。そこには、親戚とかが住んでいて、それを頼りにってことだ。

俺も、一応、そっちを目指してみる。リーネを連れていると合流まではできなくても、集落の近くに掘っ立て小屋でも建てられりゃ、何とか生活もできるだろ。

何しろ俺ももう二十歳だからな。ここじゃ、普通なら女房もらって子供を作っててもおかしくない歳なんだ。父親から技術を学んで鍛冶の仕事も真面目にやってたからか、俺と結婚してもいいって言ってくれてる女もいたんだぜ。

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