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第3章 高平陵の変
第18話 郭淮
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退却を命じた。
撤退とは言いつつも、その実は敗走に近いものだった。
費褘の率いる八万の援軍は、漢中城にも寄らず、一直線に興勢山へとひた走り、魏軍へ突撃を開始した。
昨日まで全力で攻め立てていた軍勢が、一夜で、攻められる立場へと変わる。
曹爽は自分の対応の遅さを激しく後悔した。
急遽集めた八万の軍だ。
一度漢中城によって体制を組み立てつつ、興勢山の防備を厚くするのが定石である。
曹爽も夏侯玄も、蜀軍の動きをそう予測していた。
姜維。今更になって、ようやくその名を思い出す。
奴の作戦に違いない。まさに烈火の如き攻勢である。
「夏侯玄、状況は」
「蜀軍は軍を三つに分け、攻勢に転じました。正面に王平の四万、左右に、馬忠と鄧芝の軍が三万ずつ。何とか夏侯覇が中央を喰い止めておりますが、長くはありません」
「ひとまず、郭淮と合流し、立て直す」
王平の軍に、夏侯覇が一万にも満たない兵で、決死の覚悟で食らいついていた。
しかし、左右から馬忠、鄧芝の軍が迫ってきている。
曹爽は夏侯玄だけを連れ、とにかく駆けた。どこに向かっているかも分からず、敵がいない方へ逃げた。
本軍は司馬昭が率いて撤退しているらしいが、それはもうどうでも良い。何も、考える余裕などなかった。
「大将軍!大将軍!」
前方に旗が見える。郭淮と、司馬昭である。
司馬昭は本軍を散らす事なくまとめ、一足先に郭淮と合流し、曹爽の行方を捜していたのだ。
郭淮もまた堅陣を組み、敵の追撃に対抗する構えを見せている。
「御無事でしたか」
「すまない、郭淮。お前の話を聞いていれば、このような事には」
「勝敗は兵家の常です。それよりも今はその身を惜しまれませ。司馬昭、曹爽殿と夏侯玄殿を無事に帰還させよ。私はここで追撃を喰い止める」
「任せろ。郭淮殿もどうか、ご無事で」
司馬昭は馬上で拝手をし、曹爽と夏侯玄を連れて、撤退を開始した。
およそ一万に満たない軍勢だった。
しかし、司馬昭はその卓越した軍才でもって兵をまとめ、迅速に動いた。
郭淮が抱えるのは、二万の後軍。
道を塞ぐように、堅陣を敷いた。「魏」と「郭」の旗を大いに掲げ、敗残兵をまとめる。
左右より、蜀軍が迫る。少し遅れて、遠くに王平の軍も見えた。
柵を立て、槍を突き出す。蜀軍は勢いそのままに、堅陣へと殺到した。
馬や人が潰れ、柵は砕け散る。
槍先に蜀軍の兵士が突き刺さるが、その後続の兵が、屍を踏み越え魏兵を惨殺する。
それでも、郭淮の組む陣は崩れない。
例え前方の兵が殺されようと、その死体ごと押し出して、突撃に立ち向かう。
これは、恐るべき事であった。
王平、馬忠、鄧芝、歴戦の老将らは改めて郭淮の実力を思い知らされる。
確かに戦は不得手であろう。
しかし、兵の心を掴んでいた。敗走してきた兵士も次々と郭淮の陣に集まり、その身を捨てていく。
雍州、涼州の兵が多い。誰もが郭淮の為に死のうとしているのが分かるのだ。
損害こそ多きけれど、決して陣は崩れない。
「郭淮を絶対に逃がすな!必ず首を取れ!蔡甘の、漢中を救いし勇者達の仇を、今こそ討たん!」
王平は兵の中で檄を発する。たちまちに蜀軍はその士気を盛り上げるが、逆に魏軍も、郭淮を殺させまいと一層の抵抗を強めた。
既に、半数を殺している。それでも、抜けない。
すると、突如としてその堅陣を真横から切り裂いた小隊があった。
傅僉の率いる千あまりの兵だ。
予想もしてない個所からの鋭い一撃に、陣はようやく崩れる。しかし既に、郭淮の姿は無かった。
「魏兵をことごとく殲滅せよ!追いに追い立てるぞ」
鄧芝の指示が降る。逃げ惑う敵兵に、蜀兵は群がった。
この上ない、大勝利である。
しかし、郭淮を逃した。その一点の後悔が、老将達の心に深く突き刺さったままであった。
撤退とは言いつつも、その実は敗走に近いものだった。
費褘の率いる八万の援軍は、漢中城にも寄らず、一直線に興勢山へとひた走り、魏軍へ突撃を開始した。
昨日まで全力で攻め立てていた軍勢が、一夜で、攻められる立場へと変わる。
曹爽は自分の対応の遅さを激しく後悔した。
急遽集めた八万の軍だ。
一度漢中城によって体制を組み立てつつ、興勢山の防備を厚くするのが定石である。
曹爽も夏侯玄も、蜀軍の動きをそう予測していた。
姜維。今更になって、ようやくその名を思い出す。
奴の作戦に違いない。まさに烈火の如き攻勢である。
「夏侯玄、状況は」
「蜀軍は軍を三つに分け、攻勢に転じました。正面に王平の四万、左右に、馬忠と鄧芝の軍が三万ずつ。何とか夏侯覇が中央を喰い止めておりますが、長くはありません」
「ひとまず、郭淮と合流し、立て直す」
王平の軍に、夏侯覇が一万にも満たない兵で、決死の覚悟で食らいついていた。
しかし、左右から馬忠、鄧芝の軍が迫ってきている。
曹爽は夏侯玄だけを連れ、とにかく駆けた。どこに向かっているかも分からず、敵がいない方へ逃げた。
本軍は司馬昭が率いて撤退しているらしいが、それはもうどうでも良い。何も、考える余裕などなかった。
「大将軍!大将軍!」
前方に旗が見える。郭淮と、司馬昭である。
司馬昭は本軍を散らす事なくまとめ、一足先に郭淮と合流し、曹爽の行方を捜していたのだ。
郭淮もまた堅陣を組み、敵の追撃に対抗する構えを見せている。
「御無事でしたか」
「すまない、郭淮。お前の話を聞いていれば、このような事には」
「勝敗は兵家の常です。それよりも今はその身を惜しまれませ。司馬昭、曹爽殿と夏侯玄殿を無事に帰還させよ。私はここで追撃を喰い止める」
「任せろ。郭淮殿もどうか、ご無事で」
司馬昭は馬上で拝手をし、曹爽と夏侯玄を連れて、撤退を開始した。
およそ一万に満たない軍勢だった。
しかし、司馬昭はその卓越した軍才でもって兵をまとめ、迅速に動いた。
郭淮が抱えるのは、二万の後軍。
道を塞ぐように、堅陣を敷いた。「魏」と「郭」の旗を大いに掲げ、敗残兵をまとめる。
左右より、蜀軍が迫る。少し遅れて、遠くに王平の軍も見えた。
柵を立て、槍を突き出す。蜀軍は勢いそのままに、堅陣へと殺到した。
馬や人が潰れ、柵は砕け散る。
槍先に蜀軍の兵士が突き刺さるが、その後続の兵が、屍を踏み越え魏兵を惨殺する。
それでも、郭淮の組む陣は崩れない。
例え前方の兵が殺されようと、その死体ごと押し出して、突撃に立ち向かう。
これは、恐るべき事であった。
王平、馬忠、鄧芝、歴戦の老将らは改めて郭淮の実力を思い知らされる。
確かに戦は不得手であろう。
しかし、兵の心を掴んでいた。敗走してきた兵士も次々と郭淮の陣に集まり、その身を捨てていく。
雍州、涼州の兵が多い。誰もが郭淮の為に死のうとしているのが分かるのだ。
損害こそ多きけれど、決して陣は崩れない。
「郭淮を絶対に逃がすな!必ず首を取れ!蔡甘の、漢中を救いし勇者達の仇を、今こそ討たん!」
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既に、半数を殺している。それでも、抜けない。
すると、突如としてその堅陣を真横から切り裂いた小隊があった。
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予想もしてない個所からの鋭い一撃に、陣はようやく崩れる。しかし既に、郭淮の姿は無かった。
「魏兵をことごとく殲滅せよ!追いに追い立てるぞ」
鄧芝の指示が降る。逃げ惑う敵兵に、蜀兵は群がった。
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